異界での僕ら
2010年に投稿していたmissingと同一の人物が出ていますが、別物です。
missingを削除しようかとも思いましたが、
思い出として過去作を残しておきます。
pixivにて2015年4月22日投稿済。
気付いたら、神はこの世界にただ一人だった。
無限の真っ暗でだだっ広い“黒”に、神は家を作ることにした。
それは後に空と呼ばれ、土地と呼ばれ、緑と呼ばれ、海と呼ばれた。
“空間”ができると、孤独を意識した。
そこで、神は友を作ることにした。
一人目は、熱くたぎる炎の友を。
二人目は、激情的な水の友を。
三人目は、猛々しい雷の友を。
四人目は、穏やかな風の友を。
五人目は、寛大な大地の友を。
六人目は、全てを司る万物の友を。
七人目は、人という小さな友を作った。
人は無力だったが、智を持ち、技を持ち、欲を持ち、無数に繁殖していった。
成長を重ね、独自の考えを持ち、文化を築き、やがて神の友ではなくなった。
人は派閥を作り、武器を作り、人と人で争うようになり、神の家を荒らした。
神は悲しくなって、人を滅ぼすことにした。
人が作った国を滅し、人が作った町を壊し、人が作った人を殺した。
神と人の戦争のはじまりである。
ほとんどの者は一方的に死に、一部の者は隠れ住み、勇敢な者は神に立ち向かった。
またわずかな者は、現実を受け入れず逃避した。
我らが神が、我らが母が、我らを滅ぼすなどあり得ない。
あれは神ではない。
天罰により死に絶える同胞を見ながら、全てを受け入れずまた別の手法を取った。
新たな神を召還したのだ。
「人 違 い で す か ら」
僕は全力で走っている。
そりゃあもう足がもつれんばかりに。
もつれて二度ほど手を着いたって、それで皮を擦りむいていたって、実は限界なんかとっくに越えていたって、足を止めるわけにはいかなかった。
巨大な化け物が追ってくるからだ。
「だれかぁぁぁぁぁぁあ!!! たすけてぇぇぇぇぇええええ!!!!!」
この全力の悲鳴もカッスカスだ。
かすれた挙げ句にむせた。
でも、足は止められない。
何故なら(以下同文)
なんなんだあの巨大なミミズだかナメクジだかヒルみたいな化け物は!
長いし太い!!
樹齢何年の木だってあんなに大きくならない!
それに、どうして僕だけ追ってくるんだ!?
僕はこんなに疲れているのに、化け物は速度をぐんぐん早めてくる。
…違う、僕が失速してる。
意識した途端、足が鉛のように重く感じてきた。
足を止めちゃいけないのに。
間近に迫った化け物が口を開けた。
無数の小さな牙が縁取った底深い穴のようだった。
「ヒッ!!」
死ぬ。
僕にその二文字がはっきり過ぎったとき、地面が爆発した。
化け物は爆発に飲まれ、巨大は丸ごと宙に浮かび上がり地面に叩きつけられた。
そして、グッタリと動かなくなった。
勢いをなくせず少し離れたところで僕はようやく立ち止まることができ、そのまま座り込んだ。
生きてる…。
化け物の影から、白い法衣を纏った男がひょうひょうと現れた。
動かない化け物をじっくりと眺めてから僕に視線をやって、一言。
「何をやっているんですか、貴方は」
「な、何って、逃げてたんですよ! 必死で!! 危なく食べられるところだったんですよ!?」
「そのようですね」
わかってたなら言うな、とは言えない。
僕を助けたのはこの男だからだ。
そうでないとしても、声に出す度胸なんてない。
腐れメガネもっと早く助けにこいと僕に興味をなくしている背中に念を送っていると、また人影が、文字通り飛び出してきた。
「神様ー!!!」
凄まじい勢いで僕の元に飛んできた彼は、そのまま跪いた。
「おケガはごぜえませんか神様!? すみません、おれっちがついていながら…」
跪くどころか土下座をはじめる始末だ。
さっきの男となんて差だ。
「神様を危険な目に遭わせたなんて、村のみんなに会わす顔がねぇ!」
おれ、腹を切ります。
やたら決め顔で言うと、懐の小刀を…って、
「いい、いい!! しないでいいから!!」
「神様…なんて寛大な」
「そもそも、僕は神様じゃないから! 何度言えばわかってくれるんだよ!?」
「トキヤくん! 無事だった!?」
三度現れた声に安堵する。
走ってきたらしく、肩で息をしている彼女は、法衣の男の隣に並んだ。
やっとマトモな人が現れた…!
僕の感動をよそに、法衣の男は雑にアゴで僕を指しながら女性に言う。
「あそこでピンピンしてますよ」
「キルゴッド!! おめぇがチンタラしてっから、神様を危険な目に遭わせたんだろーが!!」
「神を護るのは貴方の仕事でしょう。私は神を屠りにきたんです」
「おめぇそんなこと言って…!!」
僕のことで大の男二人が言い合いをしている。
やめて、僕のためにケンカをしないで。
シャレにならない。
断然、僕の手を取って僕のケガを案じてくれている目の前の美女の方がいい。
「擦りむいてるね。無事でよかった」
こういうとき曖昧な返事しかできないし、マトモに見つめ返すこともできない。
ていうか、近い!
こんな擦り傷程度なら、ケガしてよかったかも!!
いやバカバカバカ! これのためにあんな怖い思いをするのは…!!
彼女の手のひらの感触と体温とサイズをじっくりと味わっている僕を、誰かがチョイチョイとついた。
「さっき逃げてる姿、必死過ぎて超ウケましたよ~」
…こいつがまだいた。
僕は藍田刻也。
職業は神様。
…なわけがなく、極々“普通”の高校生だ。
目立つわけでも、イジメられるわけでもなく、毎日をひっそりと生活していた。
…はず、なのだが、気付いたらこの世界にいた。
ここは所謂“剣と魔法の世界”だ。
日常にあった学校がない、電車がない、そもそも電気がない。
教科書と呼ばれる蔵書はなく、移動は馬でする、明かりはランプで灯す。
何時代も遡ってきたみたいだ。
しかも、驚くことに、ここは世界規模で神様と戦争をしている。
さっきのような化け物は“使徒”と呼ばれ、神が生み出した人を捕食し、神の元へ還すための生き物だそうだ。
あらゆる生態の使徒が世界中に溢れ、今も使徒の数は増える一方…らしい。
「神様! 今度こそはおれから離れないでくだせえ。 絶対絶対、お護りいたします!」
ブレイブ。
名前と口調がどうにもミスマッチなこの彼は、僕をこの世界に喚んだ民族の一人。
この世界はなんやかんやあって神様と戦争をしているんだけど、それを認められなかったのがブレイブの一族らしい。
あれは神様じゃない! 本物の神様は別にいる! 本物を喚んで助けてもらおう!! …ということで、僕が喚ばれた。
そう、僕はRPGでは鉄板の召還術で喚ばれてしまったのだ!!
人違いだとどんなに喚いても聞き入れてもらえず、こうやってブレイブ一人護衛につけて、神討伐の旅に出させられた…というわけだ。
「貴方、先ほど使徒に囲まれたとき、たった一体に手こずっていたじゃないですか」
「だからトッキーが追われるハメになったんですよね~。ぶっちゃけブレンディがいても意味ナシ?」
「あんだとおめぇら!!」
「まぁまぁ、やめようよ」
アリエルはまた一騒ぎ起きそうな雰囲気をやんわりとたしなめると、改めて僕に向き直った。
「トキヤくん、傷口を上に向けて手を出して」
この世界は剣と魔法の世界なのに、魔法が使えなくなったらしい。
というのも、魔法は精霊の力を借りて使うものだけど、神様から見放されたことによって、神様の“お友達”である精霊も人を見放したらしい。
人は相当な実力がある者しか魔法を使えなくなった。
どうにかできないか…と研究しているのが、このアリエルだ。
一番年上で、一番マトモで、一番常識人で、一番話が通じる。
何より美人。
言われたとおり擦りむいた手を差し出すと、いつも携帯している本の中程にあるページに描かれた模様をなぞりながら、アリエルが手を翳す。
すると、アリエルの手から雨のように緑の光が降り注ぎ、僕の手は人肌に包まれたかのような心地良い温かさに包まれた。
光と温度が失せた頃、僕の手の傷はすっかりなくなっていた。
「簡単に治せるケガでよかった」
アリエルが本を閉じながら言う。
アリエルの見た目から形容して、本を閉じる音はパタン☆と可愛らしい音が望ましいのだが、残念ながら本が分厚すぎるのでバタンッッと低くて太い音を立てた。
こんな本をいつも持ち歩いているからか、アリエルは細身なのに二の腕や足は太めだ。
…死んでも言えないけど。
「ツバつけときゃ治ったんじゃないですか~?」
煙がくるくると僕に二重三重と巻き付いてくる。
「大袈裟ですよ、オーゲサ! ねぇ、トッキー」
精霊は人を見放したと言ったが、唯一の例外がジンだ。
ジンはランプに精神を宿す万物を司る精霊で、精霊の中でもかなり強い力の精霊らしいのだが、ランプを擦った者の願いを叶えるというどこかで聞いたような制約がある。
今回はその制約に基づいて、神様討伐に参加している…らしい。
「それでいいの!?」と聞いたら、「イイんじゃないんですか~」と、あっさり返された。
「私を創った神様も、まさか自分を殺す願いをされるとは思ってなかったでしょ~ね~!」と続けて爆笑した。
かなり性格に問題がある。
ジンはへそから上を女性の姿にさせているが、それより下は煙でランプの口に繋がっている。
精霊というよりは幽霊のようだ。
煙が実態なのか、ランプが本体なのか、そもそも別に存在しているのか、聞いたことないからわからない。
とりあえず今、ジンはランプからめいっぱい飛び出して僕の周囲で燻っている。
「神様に痛い思いさせてていいってのか!?」
ブレイブは僕関連になるといちいちめんどくさい。
「ジン」
同様にめんどくさそうにジンを呼んだのは、ジンの今の主だ。
つまり、ランプを擦った人物。
「ハイハーイ」
ジンは気楽に返事をして、ランプに戻っていった。
煙だからどこまでも伸びるし、その行動範囲に制限はないのだけど、基本ジンはランプの近くから離れない。
そして今、ランプはキルゴッドのベルトに結ばれてつり下がっている。
冗談みたいなとんでもない名前だけど、元は神官で、神に遣えていた高位の人物だったらしいけど、神が人に謀反を起こしてから神官の立場も意味も変わった。
どんな風に変わったかは…知らない。
「もういいでしょう。長居は無用です」
「相変わらず冷たいですね~ご主人様は」
「擦り傷如きで騒ぎすぎなんです」
やっぱりブレイブは「あんだとぉ!?」とわめく。
キルゴッドはそんなブレイブにも僕にももう目もくれないで、自然とジンを連れてながらさっさと歩き出している。
アリエルは重たい本を持ってせっせと小走りに追いかけた。
ブレイブは待てだのなんだのなんだかんだ言いながら足音も荒くついて行く。
いつもの光景。
話題にも、この人たちにも、世界にも、いつも僕は置いてけぼりだ。
離れていく背中を見ながら、ハァとため息が漏れた。
帰りたい。
グバァ
「へ」
僕の背後で何かが動いた。
「神様に__」
背後の何かよりも、もの凄い顔をして飛んできたブレイブに釘付けになった。
ただ動けなかっただけかもしれないけど。
「触るんでねぇ!!!」
本当にそのまま飛んでいってしまうんじゃないかというくらいの跳躍と共に、僕の背後にいた何かを蹴った。
ドスンという超重量級の音が聞こえる。
ウルトラマンが怪獣倒したときみたいだ。
僕は丸まっていた身体を起こして、慌てて事態の確認を計った。
さっきの巨大ミミズの使徒だ!
まだ生きてたのかよ!!
ていうか、また僕を喰おうとしたのか!!
「倒してねぇでねぇかキルゴッド!!」
青筋を浮かべながら叫ぶ。
ツバが飛ぶのが見えた。
キルゴッドがやれやれ、とでも言いたげに、実に面倒臭そうに杖を差し出した。
巨大ミミズはうごうごと、まだ動こうとしている。
キルゴットが杖を構えて、目を閉じた。
魔法は、力のある極一部の人間にしか使えない。
空気が変わる。
彼の元に集まる、集約される。
開ける。
ミミズの足元の大地が再び爆発した。
今度はさっきとは違う。
もっともっと大きな爆発。
ミミズも地面も飛び上がり、降ってきた岩片は空中で槍のように形を変え、ミミズに集中して降り注いだ。
なんともいえない、音。
耳をつんざく、と表現すればいいのか、轟音と熟語で表せばいいのか。
ブチブチと、筋繊維を貫く不愉快な音と、爆発の余韻、化け物の咆哮のような悲鳴。
僕は耳を塞ぐこともできず、目の前の光景に圧倒された。
化け物が倒れていく。
やがて、地面を大きく揺るがせて倒れた化け物に対して、キルゴットはこう言った。
「行きましょう」
パーティーのリーダーはチート級。
多くの方の目に触れていただきたいと思い、
pixivに上げた作品をこちらでも投稿しました。
なろうの利用は5年振りでした。
みなさまはじめまして。
覚えている方はいらっしゃらないと思いますが、
銀魂の二次創作を投稿可能だった頃、投稿しておりました。
今後の更新は様子を見ながら、
のんびりのんびりしようと思います。
とりあえず、3話までは書いてありますので。