力の目覚め
生徒会室に向かう途中の階段で碧に会う。碧は俺を見るなり顔を真っ赤にする。
「昼はごめんな。特に悪気とか無かったんだ。あの後どうなった?」
碧は下を向いたまま顔を上げてくれない。嫌われたかな?碧にも好きな人とかは居るんだろうし、昼間のが噂とかになってたら悪い事をしちゃったな。
「…………怒ってないですよ。あの後、授業終わった後もホームルーム終了後も質問攻めで大変でしたよ……」
嫌われては無いみたい。良かった。お互いなんとなく無言のまま生徒会室に着く。生徒会室の扉を開けると中には三人居た。その中の一人は知っている。夕紀 夏樹だ。高校になってからの知り合いで、まぁまぁ仲がいい。一年なのに生徒会長と、超の付く優等生だ。
後の二人は、男と女で女の子の方はオレンジ色の髪をして、ソファに座って漫画を読んでいる。そんな髪で校則に引っかからないのか?もう一人の男の子の方は、棚を漁ったりとなにやら忙しそうだ。
「凜じゃないか。生徒会室に何か用か?」
夏樹が話かけてくる。どう答えていいかわからなくて碧の服を引っ張って呼ぶが下を向いたままだった。
「いやぁ、碧に来るように言われてさ」
「関科さんに?関科さんどうかしたんですか?」
怪しい。と言う目をして俺を一瞥すると碧に声をかける。なんで俺にはタメなんだ。別にそうゆうの気にしないから良いけれども。夏樹に呼ばれてようやく碧が顔を上げる。その顔はまだ赤い。夏樹がそれを見て俺を呆れたように睨むと
「あのなぁ……いきなり連れて来ないで少し休ませてあげないとだぞ。まぁ凜も自慢したいのはわかるけどさ」
「なんでそうなる!」
叫びながら扉を叩く。その音にびっくりしてようやく後の二人がこっちに気が付く。
「あれ、夏樹〜?お客さん?」
先に声をかけて来たのはオレンジ色の髪をした女の子だった。俺と碧の顔を見比べた後、うんうん。と頷いてソファに座って漫画を読み始める。
「一人で納得してないでなんとか言えよ!?」
うっかり叫んでしまう。それを聞いた女の子はうわ、と言う顔をしてこっちに来る。
「なになに。女の子にそう言うこと言わせたいんですかぁ〜?逆セクハラって言葉知ってます?」
「そう言うことってなんだそう言うことって。何も無かったし何もして無い!」
「はいはいわかりましたー。私は一年三組の三条 結衣です。よく分かんないけどよろしくお願いします?」
「そうかそうか。俺は二年一組の海道 凜だ。どうぞよろしく」
わざと二年を強調して言った。うへぇと言う顔をしてソファに座って漫画を読み始める。隣では夏樹が笑っている。
「うんうん、わかった。関科さんから事情は聞いたよ。凜も力に目覚めたんだな」
その言い方すっごい中二病臭いぞ。碧はもう赤い顔をしていなかった。奥まで行ってなにやら一緒になって棚を漁っていた。
「あ〜、それなんだけどな。碧を見れるってだけで特に力も何も無いぞ?」
「それだけで充分凄いじゃないか。誰も関科さんの能力中は姿を見れないんだぞ。それよりも」
声を潜めて近付いてくる。
「もう下の名前で呼んでるのか?どうやってそこまで仲良くなったんだ。なかなか私達に心を開いてくれなくて大変だったんだぞ」
碧と出会った経緯を話すが、特には参考にならなかった様で。一通り話を聞いた後、中へ連れられる。
「みんな、申し訳ないが少し集まってください。今日は新しい人物を紹介しようと思う」
みんな集まって来る。夏樹の敬語が少し変なのはスルーしておく。棚を漁る手を止めて男の人が俺の前に来る。
「こんにちは。僕は佐藤 海斗三年二組です。さっきの時点で挨拶をしようと思ったんだけど取り込み中だったみたいで。よろしくね」
軽くお辞儀をして来るのでこちらもお辞儀をして自己紹介を返す。握手をした後、佐藤さんは夏樹の方を向く
「夕紀さん。話しにくいなら普通に話してくれて結構だよ。生徒会の仲じゃないか」
「そ、そうか。じゃあ普通に……皆もう知っているだろうけど今日から生徒会に入る海堂だ」
「ちょっと待って、それ普通は俺が言うんじゃ無いのか?…………すいません」
口を挟んだら睨まれたんで黙っておくことにした。
「それでなんだが最近、影に加えて魔獣も現れているみたいなんだ。もし裏に行ったら注意する様に。わかってはいるだろうが、もし出会った場合気付かれないようにその場を離れて、転位可能な場所を探すこと。以上だ」
「はい」
話終えた後、皆が返事をして各自やっていた作業を続ける。夏樹さんかっけぇっす。夏樹は生徒会長机に付き学校の書類やらを眺めている。俺は流れが早すぎてしばらくそこで立ち尽くしていた。佐藤さんが一枚紙を持って俺の方に来る。
「やっと見つけたよ。詳しい事はこれに書いてあるから読んでおいてね」
渡された紙には裏の事や力など碧が説明してくれた事が載っていた。
「ありがとうございます。佐藤さん。それで僕はどうすれば?」
「ごめんね。教えたりしたい所だけど僕は裏の様子を見なきゃ。夕紀さんに聞いてみて」
そう言って生徒会室を後にする。言われた通り書類整理している夏樹の所に行く。声をかけると書類整理している手を止める。
「どうした?」
「流れがハイペース過ぎて良くわかんなかった。力が発現したら生徒会室に来るのが決まりって所までは聞いたけど入るなんて聞いてないぞ。それに魔獣ってなんなんだよ。あと、生徒会にいるって事は、碧以外にも夏樹とか結衣とかも力が使えるのか?」
「まぁ待て。1個1個説明するよ。聞いているとは思うが力が発現したら向こうで影に間違われないようにするためだぞ。凜の場合はまだだが、関科さんの事を認識出来ると言うのは力があると言う事で間違いないだろう。少し長くなるから座ってくれて構わない。結衣、お茶とお菓子でも用意してくれ」
ソファに座り力を抜く。テーブルの上に漫画を置いて結衣が棚からお菓子やらお皿やらを準備している。
「じゃあ、続きだが、干渉能力が既にあるから力の発現はそんなに遅く無いはず。昨日出たなら今日か明日には出るだろう」
そんなトイレみたいな例えしないで。結衣がテーブルにお茶とクッキーを置いてくれる。この匂いと色は紅茶だろう。結衣は碧にも声をかけて休憩を促す。俺の隣に座ってクッキーと紅茶を飲む。一息付いてまた話し出す。
「魔獣の事だがそれはあまり気にしなくていい。言ってもどうせ信じないだろうから直接見てもらった方が早いだろう」
そう言ってノートパソコンを開くと何枚か画像を見せてくれる。動物の様な物に浮遊している物もある。
「これは……なんかのゲームのスクリーンショットか何か?ドラゴン的な物もいる見たいだけど……」
「これは全部裏の事ですよ。何処からどう出てくるのかはまだわかっていないのですが」
碧は身をすくめながら言う。たった二日と言う短い間に色々あったので脳の感覚が麻痺してきた。こんなゲーム見たいな事が?
「私達はこう言う物を一まとめに魔獣って言っているけどな。ただ、私達がするのは凜の様に突然能力が発現した人達を助ける事くらいだけどな」
「向こうで死んでしまうとこっちの世界の人達のその人に関係する記憶が消えちゃうんです。その人の死に立ち会った人達以外は。凜さんが例えば向こうで死ぬとします。死ぬ瞬間を私達が見たとします。そうすると私達だけに凜さんに関する記憶が残って、凜さんの死を見ていなかった家族、友人などは凜さんの事を思い出せなくなってしまうんです」
碧の顔は何処か寂しげだった。つまり、碧達はそれを止めるために救出、監視をするって事かな。
「魔獣等についてはこれくらいでいいかな。じゃあ最後に私達の能力だが…………おっと、長話をしていたらお茶が冷めてしまったな。結衣頼む。」
「全く……私は電子レンジじゃないんだけど……」
ぶつぶつ文句を言いながらも夏樹の所へ行く
「サンルーム」
手をカップにかざして一言。特に変化は見られない。
「凜。こっちに来てカップに触ってみろ」
立ち上がってカップに触れる。
「あっつ……くは無いか。なんか入れたて見たいに温かいな?それが結衣の力か?」
カップは温まっていて入れたての様になっていた。関心して結衣を見るとドヤ顔をしていたのがちょっとムカついた。
「確かに凄い力だけどwwこれじゃあw人間電子レンジwwww」
ムカつくように言ってやった。
「人間電子レンジって言うなぁ〜〜!!これでも電子レンジか!フィアルーム!」
「馬鹿っ!こんな所でやるな!」
夏樹は慌てて叫ぶ。だが室内の温度はどんどん上昇していく。焚き火に至近距離であたってるくらいに暑くなる。慌てて夏樹は生徒会室を出る。俺も出ようとして隣にいる碧に声をかけようとしたが、既に廊下に出ていた。
「全く……少しからかわれたからってすぐに力を使うな。危ないだろう」
「ごめんなさい…………」
廊下で夏樹が結衣にお説教をしていた。結構洒落にならない温度だけど生徒会室燃えたりしないだろうか?熱かぁ、結構凄い力だな。
「とまぁ、結衣の力は熱を操れるんだ。熱気のみで冷気は不可だけどな」
結衣は既に開放されていて、壁に寄りかかって漫画を読みながら笑っている。怒られたのを見て一瞬でも悪い事をしたと思った俺の気持ちを返せ。碧は胸元を掴んでパタパタしている。やばい見えそう。
「それで私の力だが……そうだな凜、何か欲しい物は無いか?」
目を頑張って逸らすがどうしても碧の方に行ってしまう。
「じゃあサングラスで」
夏樹が指を鳴らすとその手にはサングラスを握っていた。マジック?
「ほらどうぞ」
「ありがとう」
夏樹からサングラスを受け取りかける。碧の方を見るけど良く見えない。うん。やっぱ要らないかな。
「あれっ?サングラスは?」
要らないかなって思った瞬間サングラスは消えてしまった。床を見るが何処にも落ちてなく、夏樹を見ても両手を開いて持ってないアピール。
「これが私の力だ。触れた事のある生き物以外のあらゆる物を出す事が出来るんだ」
「へぇ、それはまた便利な力だな。極端な話、車とか家とかでも?」
夏樹は首を振る。
「可能だけどそれくらいのサイズになると命と交換になってしまう。出した物の大きさによってお腹が空くんだよ。サングラスだと卵焼きくらいかな」
「それでも食料さえあればいいんだから便利じゃないか?」
「何とこの力、よくわからないが制限があって1日4回までしか使えないんだ」
使い様によっては強いしペナルティくらいはあるのか。皆凄い力だな。
「じゃあ佐藤さんは?」
「佐藤先輩は干渉能力だけだぞ。ただ、情報収集や指示を出すのが凄く上手いんだ。それにあぁ見えて下手なボクサーより断然強いぞ」
まじか。外見的にそんなに強く無さそうだけど。
「他に聞いておきたい事は何か無いか?」
「あぁ、うん大丈夫。生徒会も楽しそうだし、入る事にするよ」
「そうかそうか!それはとてもありがたい。見ての通り少数なんで学校行事とか回したりするのには人手が足りなくてさ」
漫画を読み終わった結衣が退屈そうにし始めた。碧もやる事が無くてちょっと飽きてきてるみたいだ。生徒会室に戻ろうと扉を開けるが相変わらず凄い熱で入れない。プラスチックの入れ物やゴミ箱がやや溶けていたけど見なかったことにしよう。
「そうだ皆、放課後と明日の土曜日予定ある人はいるか?」
皆揃って首を横に振る。夏樹は嬉しそうに手を叩くと
「では新メンバーの歓迎会も兼ねて皆で私の家に来ないか?」
「いいね〜!行く行く」
結衣は楽しそうに跳ねている。碧は恥ずかしそうにしながらも頷く。
「じゃあ今日は少し早いが生徒会は解散で、服とかは全てこちらで用意するからそのまま付いてきてくれ。凜の監視もあるしな」
皆で校門を出て楽しそうに夏樹の家に向かう。だが、突然皆の話し声が無くなる。周りを見るが皆がいなくなっていた。干渉能力か……せめて空気を読んで発動して欲しいな。すぐに碧が来る。
「凜さん大丈夫ですか?」
「問題ないよ。影も魔獣も特に見当たら無い」
碧が安心して息を付くのと同時に結衣と夏樹も来る。影がいないので歩き出すが、碧は既にナイフを持っていて結衣はいつでも手を出せる様に身構えている。すると後の方から声がした。
「ごめんなさい……ここどこですか?皆と話していたら突然誰もいなくなっちゃって……」
声のした方を一瞬でみんなが振り返る。うちの制服を来ている。どうやら俺と同じ様に突然能力が発現したのだろう。
「大丈夫ですよ。俺達と一緒に行動しましょう」
そう言いながら相手に近付くが夏樹に止められる。
「関科さんお願いします」
碧は最初出会った時のように一瞬で距離を詰めると相手の頬を浅く切る。だが血は出ない。つまり影。
「痛いな〜突然切ってくるなんて……僕何かしましたか?酷いなぁ……」
頬を抑えて痛がるフリをすると碧の胸ぐらを掴んでこっちに投げてくる。
「お前!!うわっ」
叫びながら碧を受け止めるが、勢いがついていて後ろに転んでしまう。
「大丈夫か碧?」
「これくらい平気ですってば、凜さんの方こそ大丈夫なんですか?」
乱れた制服を手早く直しながら立ち上がる。どうやら大丈夫そうだ。夏樹が影から目を逸らさないで言う。
「凜、何か武器で使える物は無いのか?」
「刀なら婆ちゃんから剣道教わってたし使えるとは思うけど」
言うや否やすぐに刀を出すと投げて寄越す。受け取ると想像より重い。刀は全長60cmくらいだ。
「無理はしなくていいから最低限それで身を守ってくれ」
影は貧乏揺りをしながらこっちの会話を聞いていた。
「終わった?じゃあそろそろやるね?あ、そうそう可愛いワンちゃんもいるよ」
影の後ろから四匹の犬が出てくる。サイズは柴犬くらいだが歯を剥き出しにしていて可愛く無い。俺も鞘から刀を抜く。突然1匹の犬が夏樹目がけて襲ってくる。そのスピードは尋常じゃなく早い。しかし夏樹はそれをかわすと銃を出してその犬を撃つ。2,3発喰らうと犬は消えた。だが俺は夏樹の速さよりも、射撃の正確性よりも銃に驚いていた。その銃には見覚えがあった。
「あの時の……あの夢の時に見た銃だ…………」
見間違いや似ているとかそんなんじゃない。その銃で殺されたからはっきりと覚えている。夢の内容は今でも思い出せる。俺の呟きが聞こえたのか碧が俺の顔を見て驚く。
「凜さん力が発動してますよ!」
そう言ってポケットから手鏡を出そうとする碧めがけて犬が飛んで来る。あれだけ早く見えたのに今じゃ自転車程度のスピードにしか見えない。力任せに刀を振る。犬は豆腐の様にサックリと切れた。その勢いのまま走り込んで後ろの二匹も切った後、影の後ろに付く。
「女の子にはもうちょい優しくしてあげような?」
一言だけ言って切る。影はそのまま地面に倒れ込んで消えた。刀を仕舞って皆の方を向くとあまりの出来事に呆然と立ち尽くしていた。
「終わったんじゃ無いのか?」
その言葉に金縛りが解けたみたいに皆が来る。
「凜のその力は……?目が光っているが」
夏樹が言うが自分では顔が見れない。碧が手鏡で俺の顔を見せてくれる。両目からは黄色い炎みたいな物が出ていて顔を動かすと帯を引く。なんかかっこいいな。
「凜先輩!さっきのかっこよかったです!思わず惚れそうでした!」
興奮気味に結衣が喋る。自分でも速さに驚いて興奮する。
「これは?これはどんな力なんだ?」
夏樹が考え込む。が、意識の端っこに引っかかる物があってすぐに刀を抜く。突然刀を抜くのでみんなも少し遅れて身構える。
「校門付近にいるヤツ出て来いよ」
俺の声に答えて出て来たのは佐藤さんだった。慌てて謝るが、気にしないで。と言ってくれた。
「恐らく強化型かな?力も速さも感覚も上がってる見たいだし大方間違いないかな。海堂君は能力が出た時何かした?」
「いえ、刀を受け取ったくらいです。後、夢について思い出したりとかしてました」
「じゃあそのどちらかかな。目を閉じて力が無くなるイメージをしてみて」
刀を置いて、言われた通りに目を瞑って身体から力が抜けてくイメージをする。目を開けて碧の手鏡で確認すると目から光が消えていた。全力で走ってみるけどさっきの様な速度は出ない。置いておいた刀を拾うけど能力は発動しなかった。次は夢の事を思い出してみる。
「あ!光りましたよ」
そのまま走るとさっきの様に一瞬で動ける。発動条件は夢の内容を思い出す。かな?
「どうやら夢で間違いなさそうだな。所でその夢の内容を言えたりするのか?」
皆のためには話した方が良かったんだろうけど、黙っておく事にした。
「まぁいいか。よし、皆戻るぞ。凜は戻り方わかるか?」
頷いて返す。碧から聞いたから行ける。目を閉じて戻りたいと思う。しばらくして目を開けると人もちらちら見えるいつもの通学路に戻った。それから皆で会話をしながら夏樹の家を目指す。夏樹の家は学校から徒歩12分と比較的近い所にあり、家もそれなりに大きい。途中のスーパーで飲み物やお菓子を買った。荷物はカッコつけて全部持つと言ったら皆容赦無く押し付けてきた。
「じゃあ僕はそろそろ用事があるから、また月曜に生徒会室で会おう」
佐藤さんはそう言ってスーパーを出た所で別れた。四人分の荷物はそれなりに重くてそろそろ限界が来てた。
「あの……そろそろ腕が限界なんですけど」
少し持って貰おうと夏樹達に話しかける。
「私の家はもうすぐそこだ。あと少しぐらい頑張れ」
「あれれ〜凜先輩、そんな程度の荷物も持てないんですかぁ〜?」
みんなは優しくなかった。ただ一人碧だけは無言で荷物を半分持ってくれた。袋の片方の持ち手を碧が、もう片方を俺が持って歩く。しばらく歩いていると碧の手が小刻みに震えてるのが見えた。
「ああは言ったけど、実はまだ平気だし重いなら無理しなくても良いぞ?」
「え?全然平気ですよ。どうしたんですか急に」
「だってほら、左手震えてるし」
「あ…………」
言われてから碧は自分の手が震えている事に気付いたの左手を離して右手で掴む。
「どうしてこんなに震えるんだろう……?あれ、凜さん大丈夫ですか?」
突然片方の持ち手が離されたせいで、ジュース等が入った袋が膝めがけて振り子のように襲いかかった。完全に油断してた俺は膝を強打してうずくまっていた。
「昨日も今日も影にやられてるからじゃないのか。二回も宙を舞ったんだから身体が流石に怖くなったんじゃない?」
「でも、あんなの影と遭遇したらいつもああですよ」
碧の手を借りて立ち上がって荷物を拾う。
「なんで力を使わないんだ?使ってれば何も無いんだろ」
そう言われた碧は頭を抑えながら露骨に落ち込んだ。もしかして今までずっと力を使わないで影と戦ってたのか?
「凜さんが居るとどうにも頭が動かないんですよね。凜さんが居ない時なんかは頭だって冴えるし……ほんと凜さんと出会ってからどうなっちゃったんだろ私……」
「俺が居るだけでそこまで落ちるんですか。あれ、それってもしかして恋じゃないのか」
「〜〜〜〜〜っ!」
ニヤニヤしながら冗談で言ったが、碧は顔を真っ赤にして、その顔が見えないように両手で隠して照れる。
「冗談で言ったんだけど、そんな露骨に反応されるとなぁ。もしかして俺の事好……いったぁ!」
好き?と言おうとしたら碧がつま先でスネを蹴る。本気で痛くて涙目になるけど碧は走って夏樹達の方へ行ってしまった。早とちりは良くないけどひょっとして本当に俺の事好きなのかな?想像してにやける。
「凜〜!何やってるんだ。もう家に着いたから早く買い物した物を持ってきてくれ」
そんな想像は夏樹の大声に消される。両手でなんとか持ち上げニヤケそうな顔を必死に真顔で取り繕いながら三人の元へ走って行った。