PHASE:1-5/銀龍の片割れ
千絋を起こす方法を探すには、今のボクはいくつか手続きをしなければならない。その手続きのために必要なのが、ポルカの許可だった。
それで彼女は今どこにいるのかと言えば、『塾』な訳で……
「……ポルカ!」
カラフルなドアを開けると、懐かしい光景が広がっていた。
カーペットの上には新品のモノや使い古されたモノが混じった玩具の塊が散らかり、一角で子供達がきゃいきゃいと騒いでいる。ボクの声に振り向いた彼らは、目を輝かせて一斉に駆け寄ってきた。
「あれ、絶対王(トータルキング)のお兄ちゃん!!」
「ちがうよ、絶対王は女だってねーちゃん言ってた!」
「すげー、ホンモノだぁ!!ちっせー!!」
「握手してー!サインちょーだい!」
失礼なガヤに若干苛立ちを覚えていると、子供達は更に集まってきてボクはぎゅうぎゅうと押されてしまった。
「や、やめろぉ……って言うかどこ触ってるんだよぉ……」
「こらこら、静かにしなきゃダメですよ」
『……はーい』
ポルカの声に、子供達はしょんぼりとしながらぞろぞろと離れていく。ほっと息をつくと、ポルカがやってきた。
「……謹慎期間はまだ終わっていませんが、何か御用ですか?」
彼女はボクを見て少し厳しい目を向ける。仕方がない事だ。
大事な任務でとんでもない行動を引き起こし一般区域を混乱に陥れたボク(と他のメンバー達)は、しばらくの間区域の外に出る事を禁止されている。つまり、実質的に殺し屋としての活動は出来ないのだ。
そろそろあの仕事はやめるつもりだから構わないけど、今のボクは少しでも早く千絋を起こす方法を探さなければならない。
「……ちょっと、話がしたい」
一般区域に行く許可を取れなくても、「紹介状」がもらえればそれで十分だ。
ポルカは静かに頷き、ボクの手を握って部屋を出た。
『塾』の会議室で、ボクは話せる事を全て話した。
ポルカの言っていた機関の研究所はハズレで、ボクが破壊したギフの研究所こそが本拠地であった事、
淋とトラン、時紅が死んだ事、
千絋が機関のリーダーに眠らされて、永遠に眠ってしまった事……
クウについてはバレてしまうとかなり面倒な事になるので、「捨てられていた異能者を拾った」とだけ伝えた。
ポルカは怒ったり悲しむ様な素振りは一切せず、黙々と話を聞いてくれた。彼女は母親の様な存在だから、ある程度はボクの本性を知っている。ボクが悲しまない様に、感情的にならないでくれていたのだ。
「……なるほど、嘘を言っている様には見えませんし……確かに、あの後彼らを見掛けた事は無かったですね」
「ああ。ボク達には情報が必要だ。だから、「皇龍の牙(バハムート・ファング)」の活動謹慎措置を解いて欲しい。あと、こんな事まで言って申し訳ないけど……ボクはもう人を殺したくない。ボクに対して、ポルカの『約束』が効かない様にしてくれないかな」
はっとした顔をして、ポルカはうつむく。その表情には今までとは違って、何か後ろめたい事を隠している様に見えた。
「……謹慎措置は簡単に解けます。でも、私の能力で一度『約束』を作ってしまうと、それには例外が効かないんです」
表情を変えず、申し訳無さそうに告げる彼女。……何か、抜け道があるに違いない。
「……何か他に方法はある?」
ポルカはほんの一瞬動揺し、すぐに首を振った。
「……銀龍たる私には、金龍の名を冠する妹……キルカがいます。「オキシマ」にいる彼女なら、私の『約束』を無かった事にする事が出来る。それに、オキシマには私の同族がいます。……私が紹介状を発行しておきましょう。きっと、貴方の力となってくれるハズです」
「本当か!?」
「はい。けれど、ひとつお願いがあります。……キルカを、ここに連れて来て下さい。彼女は大変なひねくれ者です、ずっと孤独に生きていた事でしょうから」
ポルカの目は真剣そのものだった。ボクだって真剣だ。彼女の願いを聞いて情報が得られると言うのなら、喜んで受けるに決まっていた。
「分かった。キルカを連れて来ればいいんだね?」
「はい。どうか、お願いします。……クロトさんが頼んでいるのに、逆に私がお願いするなんて変ですね、うふふ」
「……ははは」
くすくすと笑っているポルカにつられてつい笑ってしまう。
しかし、手がかりが掴めたなら今すぐに向かうべきだ。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい、クロトさん」
大げさに敬礼する。それに対して彼女が手を振るのを見てから、ボクは会議室を出た。




