PHASE:1-3/死に戻る
長い夢を見た。それなりに幸せに暮らしてまともな死に方をする、そんな夢を。恐らく、運命の歯車が狂う前の人生を見せていたのだろう。
あっしとしては、ずっと続いて欲しかった。
「あれ……あっし、何でこんなとこに?」
目を覚ますと、そこには禍々しい色の空に浮かぶ月があった。
「おお、これはひどい」
怠さが残る身体を起こし、周りを見渡していく。
建物は皆例外なく崩れ、鉄骨が剥き出しになったり、枯れた蔓が絡まったりしている。
確か……この光景は、どこかで見た事がある。膨大な量の記憶を漁ってみた。同じ様な記憶が100個も200個も何百個もあるけど、今はもう無用の長物だ。ひとつだけでいいのに、と嫌になりながら最初の方まで遡る。
……ああ、京都だ。あっしの生まれ故郷。突如として滅びを迎え、「廃棄都市」と名を変えた悲しい街。
「今は……夜……?」
しかし夜と言うには、空の色がおかしい。
紫……いや、青紫……赤紫……やっぱり紫色?
じっと見ていると、微かに色を変えたり戻ったりを繰り返しているのだ。
「なんっじゃこれぇ、さっぱり分からんぞ……うおっ!?」
ふと、右手に目を落とす。
死んでも離れないハズのカーシェストが手元に無く、代わりに鍔に華をあしらっており、刀身がバキバキに曲がった奇妙な太刀が握られていた。
「……カーシェスト?」
呼び掛けると、かたかたと震えるのが伝わってきた。どうやらこいつは刀になってしまったらしい。
……なら、あっしにも何かしら変化が起きているハズだ。
「すげぇ、全然頭痛くない!!しかもなんか透けてる!!」
身体をいじくってみる。100%霊体になったらしく、うっすら透けて髪は白くなっていた。
一応幽霊と異能者のハーフだから、生きていた頃も95%までなら霊体になったりする事が出来たのだが、どうしても100%は出来なかった。……やっぱり、本当に死んでしまったらしい。
「にゃっはー、こりゃすげぇ!これなら女の子のお風呂場も楽に覗け……」
「……咲ちゃん?」
朽ち果てた建物を通過して舞い上がっていると、聞き覚えのある声がした。
「__コロコロ虫!?」
赤い髪に変な包帯、黒ずくめと言う昔と変わらない姿の奴がそこにいた。
「虫じゃない、ロギ。はぁ……ようやくこっちに来てくれたか。心配してたんだよ」
「……うっぜぇ。あんなに可愛いおかんを捨てて逃げる様な野郎のくせに、あっしに話し掛けるんじゃねぇぞ」
こいつが逃げなければ今でもおかんは、と思うととても気分が悪くなった。
「それは悪かったと思ってる。でも、並行世界を壊して色んな世界を歪ませた君は、人の事を言える立場なのか?」
冷たい目で言い放ったロギに、小さく舌打ちをした。
「……クソが」
「あと、僕は君達を牢屋送りにする様に言われてるんだ。大人しく連行されてもらうよ」
……はい?「達」?
いやその前に牢屋送りって何ぞや?
無数の火球が現れ、それが弾けると、仮面で顔を隠した不気味な人影があっしを取り押さえた。
「おいっ、待てやゴラァ!!ここどこだよ!!」
ロギはこちらを一瞥して言った。
「幽界さ。生者としての生涯、魔としての生涯を送った者が救済され、新たな生を待つ場所」
……救済、出来てねぇじゃん。
ココロの中で呟きながら、あっしはとぼとぼと歩いた。




