堕ちる星
ロギさんの後を追いかけて、わたし達は禍霊が湧いたという場所に辿り着いた。
「おばけいっぱいだな」
「……ああ」
遠くの方に、輝く結界が張られているのが見えた。そして黒煙を人型に固めた様な存在が、輝く壁の前で無数にうごめいている。
間違いない、あれが禍霊だろう。名前の通り、禍々しい雰囲気を漂わせている。
「……あいつ、あんなまっくろだったか」
結界の外にいたのは、禍霊だけではない。拳を振るい続ける咲がいた。……ただし、その姿は禍霊同然となっている。
「千絋姉、時紅兄!!」
まるで水中から飛び出す様に、結界の外側からホウキが飛んできた。乗っていたリーズと淋、トランは長い柄を飛び降りると、わたし達に駆け寄る。
「千絋姉、時紅兄、大変……」
「面倒になるからうさちゃんは言わなくてもいい!……結構まずいぞ、人手が足りねぇアーンド真っ黒スケベが死にかけてるぜぃ!!チヒロ!!こうなったらファルシオン出撃だ、呼べっ!!そしたら来る!!」
リーズの力強い叫びに、わたしは頷いた。
「……ファルシオン!!」
ほどなくして、牢獄のある方角から依然として黒いままのファルシオンが飛んできた。
「しっぱいするなよ」
「今度は……しないっ!!」
わたしは時紅を抱えながら跳び、そのままコクピットに入った。
操縦席に座った途端、モニターがわたしの気持ちに応えるかの様に強い光を放つ。まるで「いつでも出られる」、そう言っているかの様だった。
「発進っ!!」
結界の外へ行く様に念じると、ファルシオンは陸を離れ、流星の様に突き進んでいく。
「禍霊を一掃しろ」と思えばミサイルやマシンガンが現れて、黒煙を上から硝煙で塗り潰す。そして霧散させる。
奴らは悪性だ。このままのさばらせておく訳にはいかない。一匹残らず倒さなければ……
そこでわたしは、自分の考えに疑問を抱いてしまった。
倒す?人間でも、幽霊でもない、全てに害を成す様な、このバケモノを?
……ああ、倒すという言葉は不適切だ。
「……殺してしまえ」
目に映るのは、最早モニター越しの風景ではなかった。
わたしはこの時、ようやくファルシオンと一心同体となったのだ。「敵を全て殺す」という、強い意志の力で。
全身に溢れんばかりの力がみなぎるのを感じる。強大な力を手に入れたのならば、それを振るわなければ意味がない……
睨みつける。そしてマシンガンの引き金に指を掛けた。今まで恐れも知らずに前進していた黒煙は、遠ざかろうとする。
「逃げるなぁっ!!」
小さく煙を吐き出していた銃口から、無数の赤い光弾が放たれた。
光弾は黒煙を消し飛ばし、視界を赤に染めていく。
……それは世界の終わりを見ている様で、わたしは満ち足りた様な感覚さえ覚えた。




