ACT:3-8/デーモンパンデミック
無実は証明されたけど、わたし達はまだ牢屋の中にいた。
ロギさんはすっかり警戒心を無くしたらしく、幽界の王への報告を済ませた後、色々な事をわたし達に話してくれたからだ。
それは最近奥さんに会えてとても嬉しかったとか、咲のお兄さんが近くで屋台の手伝いを始めたとか、咲に初めて親父と呼ばれてちょっとずつ歩み寄ろうとしている事とか、聞いていて彼女の人となりがよく分かる事ばかりだった。
クロトから話を聞いた時は、家族を捨てるなんてちょっとひどい人だと思っていたけど、本当は家族の事を大事にしている人なんだ。
こうして話を聞いてみると、ロギさんは結構クロトに似ている。彼女は弱い人に「死ぬ気が無ければ戦うな」とか、ひどい言葉を掛ける事もあったけど、それは決して弱者を見下すための言葉ではなかった。弱者を無駄死にさせないための言葉だったのだ。
二人は誰かの事を考えているけど、その気持ちを上手く形に出来ない。そんな共通点があると思う。
気がつくと、わたしもクロトの事をいくつか話していた。
不老不死の身体に改造されてしまった事や、大食いなのに偏食が激しい子である事、たくさんの過去に縛られていても、何とか前に進もうとしている事……
ロギさんはずっとクロトの事を気に掛けていたらしく、わたしの話を聞くとココロの底から安堵した様な表情を見せた。
「……良かった、ちゃんと頑張ってるんだね。それにしても不老不死だなんて、主と一緒なんだなぁ」
「この世界の王も、不老不死なんですか」
「うん。幽界が生まれてからずーっと生きてるんだよ、ひとりぼっちで。僕一人じゃとても、その寂しさを完全には埋められなかった。けど……咲に会ってから、ちょっとずつ明るくなってるみたい」
世界の王は皆、気が遠くなるほどの時間を世界と共にしているらしい。クロトだけ例外なのは何故だろうか?聞いた話によると、境界そのものらしいから、長生きしていないのも当たり前か……
わたしはそこで、奇妙な事に気がついた。
……クロトが境界そのものだと言うのなら、クロトが生まれる前の境界は、一体何だったのだろう?
「……チヒロどうした、むずかしいかおしてる」
膝の上でうとうとしながらわたし達の話を聞いていた時紅は、小首をかしげてこちらを見た。
「いや、少し……変な事に気がついてしまっただけだよ」
時紅はむぅ、と唸ってうずくまる。
「オレもだ」
……彼女には申し訳ないが、あまり本当だと思えない、とわたしは思った。
「あ……ごめん。ずっと牢屋の中に入りっぱなしだったね、すぐ出すから。……よいしょっと」
ロギさんは思い出した様に鍵を取り出し、すぐに扉を開けてくれた。だが……
「ロギぃ!!た、大変だ!!外の奴らが皆禍霊になってる!!」
焼き菓子の様な匂いを漂わせながら、金髪の少女が現れる。どうやらかなり切羽詰まっている様で、彼女はロギさんの手をぶんぶんと振り回していた。
「……トーカ、その禍霊達はどこにいる!?」
「騒霊街の前の広場だ!あんたの子供と、変な魔法使いみたいな奴らが食い止めてる!!おかげで騒霊街にいる奴らと、他の通りにいた何人かだけは何とか無事だ!!」
……禍霊が具体的に何なのかはよく分からないが、トーカと呼ばれた幽霊の様子からして、相当の脅威である事は分かった。
「……分かった、すぐ行く。ゴマちゃんとハチ君は無事かい?」
「無事だ!でも、アタシのペットよりまず自分の子供の心配をした方がいいぞ!!無茶して戦ってて、今じゃほぼ禍に喰われてる……早く迎えに行け!それで、王様の所に連れてってやれ!!」
トーカの言葉に、ロギさんは強く頷いた。




