PHASE:1-2/欠陥仕様の一家団欒
しばらくクウと桜を眺めた後、ボクは高台にある病院に向かった。
総合拠点にも病院はあるけど、そちらはあまり設備が充実していない。この病院は大きいし設備も一般区域並みに充実しているし、何よりネムの家が経営しているのだ。……まぁ、八王子家は現在ネムとその妹だけなので実質ネムが経営している訳だけど。
顔パスを使って院長室へ向かうと、山の様な書類に囲まれて白衣姿のネムがパソコンとにらめっこしていた。
「……ネム」
「!?……クロトか。毎日ご苦労様。……今日はクウちゃんも連れてきたんだねぇ」
ネムが笑顔を見せると、クウはぺこりと頭を下げた。
「内緒で行ってたのがバレたからね。病院の匂いするーって」
「ええ、何それ!浮気してたのがバレたみたいなバレ方だねぇ……はははは」
けらけらと笑っていたので殴りそうになったが、クウの教育に悪いのでぐっとこらえた。
……もう認めるしかない。こんな事を考えるボクは母親脳だ……
「……クロト?」
「な、何でもないよ」
不思議そうな顔をするクウにどう声を掛けるべきか迷っていると、後ろのドアが派手な音を立てて開いた。
「おいネム、意見持ってきたぞ……ってドン、くーちゃんも一緒っスか」
ナース服を着た澪が山の厚みを増やし、クウを抱き上げた。
二人は婚約しているらしいし、こうして見ると何だか家族みたいに見える。
……なんか、ずるい。
「元気にしてたっスかー」
「うん!でもミオ、クウは高い所がこわいんだよ……!!」
「あちゃー、そりゃ悪い事しちまったっスね。すまんっス」
澪に下ろされるなり、クウはがたがたと震えながらボクの腰にしがみついた。
「……で、研究の方はどうなの」
もらった飴をクウの口に放り込んで尋ねると、ネムは首を振った。
「核(コア)の波長とシンクロする人工世界の再現と、その人工世界に入れる人が必要みたいでねぇ。……かなりキツいよ、これは。幸い、うちでも研究しようとしてたみたいで装置はあるけど」
革張りの椅子を時おりくるりと回しながら、ネムは二つの条件を満たすのは難しい、と語った。
「……そ、それじゃあ、変な昔話にでも縋るしかないんじゃねぇのか?」
「人は死んだらわりとすぐにクリーチャーに生まれ変わる……って奴かい?多分、無理なんじゃないかな。逆でも僕達の元に来るのかって話だよ」
澪がそわそわしながら言う。どうもナース服が落ち着かない様だ。
そんな様子の彼女を見て、ネムはにやにやと笑いながら言葉を返していた。ネムの視線に気がついた澪がすかさず頬をつねろうとしていたので、きっと睨みつける。
……ボクはこれを教育的ビームと名づける事にした。
しばらく夫婦の会話を眺めていたけど、まだ用事が残っている事を思い出した。
「……クウはここで待ってて」
ボクの傍らでもごもごと飴を頬張っているクウを二人に頼んで、ボクは院長室を出た。




