ACT:3-4/苦しみのジェノサイダー
どれほどの時間が経った頃だろう。ボクの前にはいつの間にかジギーがいて、こちらを睨みつけていた。
「けっ、情けねぇ顔しながら寝やがって。……おら、立てよ弱虫!」
彼はぶっきらぼうに言って、ボクの胸ぐらを思いきり掴んだ。相変わらずその目は肉食獣の様にぎらぎらと輝いていて、こんな様子じゃ話し合いなんて到底出来そうにもない、とボクは思った。
「……お前、さてはここ開けただろ」
「……開けた」
「あっそ、ならこれは封印だな」
ジギーはボクを放り捨て、むすっとしつつガムテープを取り出した。そしてびーっと伸ばしてから切って、扉に貼り付けていく。
こんな非日常的な世界にもそういう日用品は出てくるのか……ん?
「待って、なんでそんな事」
「そいつは色々面倒なんだよ……とにかく、俺の生活の邪魔になる」
「生活って……」
彼はボクの言葉を遮る様に大きく息を吸うと、ものすごい声量で怒鳴った。
「……いちいちっ!!しょうもねぇ質問をっ!!増やすんじゃねぇっ!!お前は全自動質問製造機か!?俺だってな、仕事がなかったらお前と同じくっだらねー「生活」ってのをしてんだよ!!分かったら手伝えバカ!!」
空気がビリビリ震えて、近くにあった結晶が砕けていく。何の対策もなしに間近でこんな声を聞いてしまったら、間違いなく耳がイカれてしまうだろう。実際頭が痛くて、耳鳴りも止まらなかった。
「わ、分かったよ……手伝うから、そんな大声出さな」
「るっせぇ!!」
怒りの頂点に登りつめているジギーの姿を見て怯えたボクは、まごつきながらも彼の作業を手伝った。
「……おし、これでしばらくは出て来られねぇだろ」
あんなに恐ろしいオーラを放っていた扉も、安っぽいガムテープがベタベタ張り付けられていると急にしょぼく見えてくる。あの扉は何なのかと気になったものの、火山が噴火した様に怒るジギーの姿を思い出すと、質問なんてとても出来なかった。多分、ボクのトラウマが形になったモノだろう。そうでなければ、あんなモノは見えない。
「お前、まだ寝てねぇだろ。ここに何しにきた?」
……普段ヒトが見る「夢」って、本当は精神世界にダイブしているだけなのかな?
「……何、って……」
『挨拶しにきた』と正直に答えたら、彼はまた怒ってしまうだろう。と言うか、既に怒っている。
どう誤魔化せばいいかと悩んでいる間も、ジギーは貧乏揺すりをして苛つきを露わにしていた。
さて、どうしようか。何も思いつかない……
「……おい!!とっとと言え、でなきゃ今すぐにでもテメェを乗っ取っちま……はぁ!?」
またあの大声を聞くのは嫌だと思ったボクは、とっさにジギーの左手を握っていた。
「……あ、挨拶しにきたんだよ。これから宜しくね……ジギー」
ジギーは呆気に取られてボクをしばらく見ていたけど、自分が何をされているのか理解すると、すぐにボクの手を振り払った。
「誰がお前なんかと仲良くするか!!俺が何なのか分かってるのか?お前を侵略するためのプログラムだぞ!!」
そう言えば、そうだった。
いくらジギーと仲良くしようと、それは彼の「侵略」を助長する事になってしまう。それなら、仲良くするのはむしろまずいんじゃないか……?
「ほら見ろ、何も言えやしない!お前はリスクばかり考えて、先に進もうとしない弱虫だ……そんな奴が、俺と仲良くしようだなんて思うんじゃねぇぞ」
ボクを見下すジギーの目には、何故か涙が浮かんでいた。




