ACT:3-3/チェーンソーマイメモリー
『……さて、良好な人間関係の始まりは健全な挨拶から、そういうモノだと決まっている。張り切って挨拶してきたまえ。では、しばしのお別れだ。……ああそうだ、宿は適当に探しておこう。今晩は……我の勘だと、白米と味噌汁と焼き魚にありつけそうだな。では今度こそ、お別れだ』
……とまぁ、トトがそう言うなりボクをローキックで転倒させたのは覚えている。その後、ボクは思わず呟いた。
「ここ、どこ?」
そこは青や赤に光る結晶が浮かぶ、真っ暗な空間だった。何故かデジャヴにつきまとわれて、気味が悪くなる。
立ち止まっていても仕方ない、と思って歩いてみると、しゃんしゃんと綺麗な音がした。
「……こういう音ゲーだと思えばいいのかな?」
脳内でBGMを流しながら、それに合わせて歩く。思いの外楽しかった。
……そんな下らない遊びをしていると、やがてぼんやりと青く光る物体を見つける。近づいていくとそれは扉であると分かり、銃を構える龍が彫られているのが見えた。
そして「これは扉である」、と認識した途端、頭の中に嫌な声が響いた。
『……うーん、私は仮に死んじゃっても、クロトと一緒にいられるなら死ぬほど幸せかな……』
……ここにジギーがいないのだとすれば、さっさと次の扉を探したい。けれど彼がどこにいるのか分からない以上、ボクはこの扉を開けて調べなきゃいけない。
「……嫌だなぁ」
恐る恐る扉を押し、少しだけ開けた。そしてその隙間から、ジギーの姿を探してみる。
「嘘……だろ……!?」
ジギーではない『誰か』と、目が合った。
背筋が凍りつき、心臓が跳ね、身体がガタガタと震え出す。
その『誰か』はこちらを見るなり微笑んで、何かを言う。声は聞こえなかったが、唇の動かし方で『久しぶり』、と言っているのが分かった。
「やめろ……やめろっ!!そんな目で……ボクを見るなあぁっ!!」
震える手は恐怖に突き動かされながら、扉を閉める。
『誰か』の正体を知ってしまったボクは膝から崩れ落ち、脳が溢し始めた記憶を必死にせき止めようとした。
けど、努力も虚しく、悲劇として焼きついたその記憶は……色鮮やかに甦っていく。
『人を殺すのが怖い?なら私が殺すよ。クロトの言う事ならなんでも聞いてあげる』
『怖がらなくていいよ?私、キミの事愛してるから。悪い様にはしない』
『私はクロトのためなら死んでもいいよ』
『ねぇクロト。私が死んでもさ、私の事は永遠に忘れないで。常に頭の隅に置いてて?忘れたら……私、クロトにひどい事しちゃうかも』
『そうか、クロトはそうやって私の事を忘れない様にするんだね?可愛いなぁ……じゃあ、私もクロトの事、死んでも……』
「……沙羅……ボクを、許してくれ……」
ボクは暗闇に向かって、壊れたロボットの様に許しを乞い続けた。




