ACT:3-2/ガラスの牢獄
……どうしてネクはあんな所にいたのか。
わたしの右目には、あの黒いスライムの中に取り込まれたネクが……いや、それだけじゃない。周りの景色もはっきりと映っていた。もしかすると、わたしの視界が一時的にファルシオンの視界と繋がっていたのかもしれない。
……とにかく、これまであった事を整理する事にしよう。訳の分からない事ばかりで、軽く目眩がしてきた。
……幽界の王の本性を暴き幽界を滅ぼして欲しいと言うマークを裏切り、「偽者」であるマークの正体を暴くためにわたし達は幽界にやってきた。そこで謎のスライムに囲まれた咲が助けを求めてきて、それで……突然頭痛に襲われたから、その後何があったのかはよく分からない。
気がつくと咲がわたしの代わりにファルシオンを操縦していて、ネクがいる事に気がついて止めようとしたら、黒いスライムもろともネクが消えた。
ファルシオンから降りて彼女を探そうとすると、仮面を付けた幽霊達と、クロトにそっくりな幽界の王に囲まれ、牢屋に連行された。そして今に至る。
……まぁ、侵入者なんだから捕まって当然か……
「……チヒロ、しりとりでもするか?」
床の上で寝そべっていた時紅が、わたしの膝の上に乗って言った。
「いや、いい。……時紅は訳の分からない言葉ばかり使うだろう?」
「むぅ……」
不満そうに唸り、彼女はごろんと横になった。その後、牢屋の中を見渡してみたが、特に暇潰しになりそうなモノは見当たらなかった。
わたしには、ここから脱獄するほどの勇気がない。よく考えれば、こうして捕まって話を聞いてもらえるまで待てば幽界の王を探す手間が省けるし、命の危険もいくらか減る。
「……時紅。やっぱりしりとりを」
あまりに退屈過ぎてとうとう呟いた時、足音が聞こえてきた。
「……やぁ、尋問の時間だ。正直に答えてくれれば、それだけ罪も軽くなる。だから、嘘を言ってはいけないよ」
目の前に現れた女性を見て、わたしは目を丸くした。
赤髪、全身黒ずくめ、右目を覆う様に巻かれた包帯……もしかすると、この人がロギさんかもしれない。
……クロトの話では、確か男だった気がするのだが……不思議な事に、「この世界では男が女になってしまっている事が多い」と頭が勝手に確信しているのだ。もしこれが当たっているとしたら、ロギさんも女になっているかもしれない。
「間違っていたら申し訳ないのですが……ロギさんですか?」
「……そうだけど。君は僕の事を知っているの?」
「ええ。クロトから聞いたので」
ロギさんは一瞬目を和ませたが、すぐに厳しい目付きに戻った。
「君の質問はここまで。今度はこちらの質問に答えてもらうよ。……魔界の住民よ、何をしにきた?」
「……魔界の王が二人いるのは、知っていますか?わたしはそのうちの一人が偽者だと気づきました。偽者は幽界の破壊を命じましたが、わたしは「何か裏があるハズ」と考えたので、彼女の正体を暴くための仲間と有力な情報を探しにここへ来たのです」
ロギさんは口を割り込ませる事なく、黙々とわたしの話を聞いてくれた。
「なるほど……では、「赤い流星群を降らせる」など……それらしい話はしていなかったか?」
わたしが首を振ると、彼女は何か考える素振りを見せた。
「おかしいな……主によると、最近になって魔界がやたらとちょっかいを掛けてくる様になったらしいんだ。それぐらいは、すると思ったんだけど……」
「おう……チヒロ、なんなんだこいつは」
寝ぼけた顔の時紅がのっそりと起き上がり、ロギさんを見上げる。ロギさんは目を輝かせ、時紅を見た。
「か、かわいい……この子は君の妹か何か!?なんだか、僕と同じ匂いがする……」
「……幼なじみで、元男です」
わたしがそう言うと、二人は檻越しに固い握手を交わした。
……世界はどこも、男を消し去ろうとしているのだろうか?




