PHASE:3-8/妖精王
「そこまでだ」
……しかし、その右手は誰かに掴まれてしまう。振り返ったボクは、思わず固まってしまった。
「同志のおかげでボ……こほん、我も一時的にではあるがこの姿を取り戻せた訳だがね……あまりやり過ぎるのはダメだ。理性的じゃない」
そこにはもう一人、ボクがいた。
いや、ボクと言うのは正しくないだろうか……
髪の色から身長、顔や声まであらゆる所が同じなのは確かだ。だけどその目は透き通った緑色で、左腕は草木や花で形作られていた。耳も尖っていて、エルフか何かの様に見える。……あと、ボクなら絶対に履かないスカートも履いていた。ちょっと似合ってるかも、とか思ってしまったのは内緒だ。
とにかく彼女がボクを同志と呼び、やたら偉そうな口調で話しているという事は……これが、トトの『マックスウェル=ロードとしての』本当の姿なのだろう。
枯葉はそれを見て舌打ちし、睨みつけた。
「オゥノー、元に戻っちゃったの?クロトは二人も三人も要らない、唯一無二の存在でいいんだ……ミーはそのフォルムが嫌いだよ、マックス」
「嫌いで結構。我も貴様が大嫌いだ、性悪め。……さて同志、着替えは用意してあるぞ。いつまでもその姿では風邪をひくからな」
そして指をぱちんと鳴らした。瞬間、変な効果音と共に身体が光に包まれ、それが消える頃にはカラフルなパーカーと変な矢印のマークがプリントされたズボンと言う姿になっていた。
「……ボクの服はどうしたの?」
「あんなので鍛練が出来ると思うか?と言う訳で捨てた」
……2万円もしたのに。
「性悪ヴァンパイア、やはり貴様に同志を任せたのは……我にとっても貴様にとっても、間違いだったな。次あの様な行為をしたら、命はないと思ってくれたまえ。さぁ行くぞ同志」
「ちょっと、行くってどこへ」
トトは何も答えず、ボクを抱えて部屋の窓を割って外に出た。
「……はーっはっはっは!!やった、ついにやったぞ!!ようやく奴に一泡吹かせられた!!」
白い翼を広げ、低空飛行しながらトトは笑っている。……よほど嬉しかったのだろう。だがその姿で高笑いはやめて欲しい。こっちが恥ずかしくなる。
「……ええと」
「ああ、すまないね同志。代わりに我が全てを……真実を話そう。奴は我の片割れ……ネクと言うんだがね、彼女がまだ幼い頃に妙な呪いを掛けてきたんだ」
「呪い……?」
「ああ。「永遠の飢え」をもたらす呪いだ。それによってネクは様々なモノを喰らい……とうとう父や魔界の住民まで喰らってしまった。我は仕方なく彼女を封印し、それが弱まるまでの間に枯葉を探していたのさ。何とかして呪いを解かせるため……あるいは、殺すために」
トトは険しい顔つきで続ける。
「そして何年かして、境界であの性悪を見つけた。我は見つけるなりこう言ったよ。「呪いを解け、さもなくば我直々に天罰を下す」……とな。奴は何と答えたと思う?
……「まさかあれがカースだと思ってるの?実にファニーだね」だそうだ!!何の答えにもなっていない!!我は呆れてモノも言えなかった、その隙をついて奴は逃げたのだ!!」
今のトトに枯葉を突き出したら、間違いなくグチャグチャのミンチにするだろうと思った。それにしても身内をボロボロにされたと言うのに、よく今まで平静を保っていられたものだ。ボクと同じ姿でも、彼女はなかなか強いメンタルの持ち主らしい。
「我は再び奴を追って、境界を巡っていたが……あと1年でネクの封印が解けてしまうという所で、何者かに魔力を吸われてしまった。魔界に帰る事はおろかヒトの姿を留める事すら出来なくなった我は、猫の姿を取り……残された魔力を少しずつすり減らしながら、枯葉や我から魔力を奪った犯人を探していた。そして同志と出会った、と言う訳だ」
「……今更だけど、なんで同志なの?」
「我と同じ姿をして、なおかつ同じ立場だから同志だ」
……はぁ、なるほど。さっぱり分からない。
「さて同志、君には言っておくべき事がいくつかある……あの性悪ヴァンパイアは、『強者に悲劇を与える事』を何より好む。親しい者ほどその傾向が強い。君が昨夜レイプされたのもそのせいだろうな。……だが、殺すな。あいつは我がこの手で殺す。もうひとつ言う事は……同志は魂が弱過ぎる様だ。精神を鍛え、HDやDA、SHを覚えた方がいい」
「……はい?」
トトは一度考える素振りを見せた後、やれやれと肩を竦めて話した。
「HDは「ハーツドライブ」、DAは「ドライブアーマー」、SHは「サモンハーツ」の略だ。境界の住民は「ココロの力」が強い。それを顕現させる術を総じてハーツコントロールテクニック……「HCT」と呼ぶ訳だな、ちなみにこんな術を覚えている住民はいない。独自に編み出したのはいいが、教えるに値する相手もいなかったからだ。
……ふむ、説明は済んだな。HCTを習得するために、自己分析や理解は必須だ。同志よ、己の闇と向き合いたまえ。そして殺すのではなく、共存の道へと導くのだ。平和的にな」
ごめんなさい、それはちょっと難しいです。
ぎゃいぎゃいと怒鳴る殺人鬼の姿を思い浮かべながら、ボクは弱々しく首を振った。




