PHASE:3-6/何とか大地に立つ
「……こまった。ここ、うまくいじれない。あやしい……」
しばらくファルシオンの中に引き込もっていた時紅が、ひょっこり顔を出した。
「……どうしたんだ?」
「コントロールレバーがつかいにくそう……だからマインドコントロールしきにしたい……でもいじるぐらいじゃムリ。あとなんかへんなそうちがあったのに、それもはずせない……」
しょんぼりとした彼女は、コクピットからぽーんと飛び降りてわたしの腕の中に収まる。
「チヒロ、あれつかうべき。クロはでないけど、サキにいまのこという……それでたすけてもらう」
「咲お姉ちゃんは結玉を持ってないよ……た、多分、他の人が管理してると思うけど……」
「……そうか」
わたしの機械音痴のせいでこんな事になってしまっているのだ。……これぐらいで諦める訳にはいかない。すぐ使い方を覚えて、幽界に行かなければ……
わたしが口を開こうとすると、レリーユーズがぽん、と肩を叩いてきた。
「いんや、ここは任せとけぃ!俺氏に掛かればそんなの朝風呂前だぜぃ、ほいっと!」
彼女が人指し指を振ると、青い光球がファルシオンの目に飛び、吸い込まれていった。やがて目は赤色に変わり、持っていたバリアシールドは何故かマシンガンになった。
……そして何のおまけなのか、わたしの手にもボタンが二つ付いた携帯電話の様なモノが握られていた。
「どんなもんよ!ついでに武装も俺氏好みに変えてやったぜぃ!ガトリングとかホーミングミサイルとか遠距離武器で銃ばっかし!めちゃくちゃかっけぇ!!」
「……何故銃撃戦特化に?」
「え?そりゃ銃撃つメカはかっけーってのもあるけど、幽界は斬撃とかそういうのは効かん。基本的に境界の住民は魔界の住民より弱いし、魔界の住民は幽界より弱い。そーゆーもんなのだね、じゃんけんみたいな。そんであんたは境界のヒトで、『銃になってる』から……」
……銃になっている?
「待て。どういう事だ」
「んぇ、知らねーの?魔界じゃ色々と要素が反転すんの。チョコはカカオマスに、ハンマーは刀になる。でもあんたの場合、この世界でだいたいの要素が反転してんのな。そのひとつに能力がある。なんか変わってねーのもあるけどー、とりまやってみ?」
言われた通りに能力を使おうとすると、俺の腕は剣ではなく錆びついた猟銃になっていた。……ただ、完全な銃と言う訳ではなく、引き金やグリップが無い。これでどうやって撃つのやら。……念じたらいいのか?
「チヒロ、じゅーつかえるか、おしえてやろうか」
「……時紅、それならもう教えてもらっているぞ」
機関に改造される前の短い間だけど、わたしは時紅と彼のお義父様に銃の指南をしてもらっていた。結局生きているうちに銃を使う機会は一度もなかったけど、まさか死んでから使う事になるとは。
……とにかくこれでは撃てる気がしないので、「威力の高い銃」のイメージを固める。猟銃は錆を落としながらパキパキと折れ曲がり、捻じ曲がってやがてガトリングの砲身になった。
「……お、おお」
「な?とりあえず乗ってけドロボー!ワゴン車並みに乗れるから!」
レリーユーズは得意気に笑うと、いきなり消えてしまった。瞬間移動したらしい。
「……二人も乗るか?」
おそるおそる尋ねると、二人は首を縦に振った。
物騒な腕を急いで元通りにしてから、ファルシオンの近くに立てられたハシゴを登り、コクピットまで移動する。
時紅と淋を乗り込ませ、最後はわたしだけ、となった所で、声が掛けられた。
「千絋姉ー!!」
「待ってぇ……ぼ、ボクも行く!」
振り向くと、宙に浮いたネクがいた。どうやら鳥の翼で飛んでいる様だ。牛の尻尾が生えていて、そこにトランが掴まっていた。
「だ、大丈夫か?」
「……マークにないしょで来ちゃったけど、大丈夫。ボク……トモダチが欲しいんだ、それもいっぱい……ダメかなぁ……?」
眠たそうな涙目で訴えてくるネク。……しかし、彼女は腹を空かすとなんでも食べてしまう。そちらの方はどう対処すれば……
「心配ないネ、オレがついてるアル!」
トランはどこからかお玉とフライ返しを取り出し、それらを二刀流の構えで構えてみせた。
……その持ち方だと料理が粉になりそうだぞ、と言いたくなる。彼の料理の腕は何回も見せてもらっているので、心配する必要はないが。
「トラちゃんはすごいよ、食べ物がなくても料理が作れるんだ……本で見たアルケミストみたいに……!」
……その「要素」はどこから来たのだろう。確か生前の彼はよく物を故障させていた気がするから、その反転だろうか。
……また考え込んでしまった。ともかく、これでネクの問題は解決だ。
「なら、一緒に行こうか」
ネクはこくんと頷き、トランを抱えて地面に潜っていった。
さて、あちらでの目標を決めよう。
幽界は壊さない。幽界にいる王も、住民も、殺さない。揉めたらなるべく穏便に済ませる。
……あと、マークの正体を探る仲間を増やしたい。
「ええと……ひゃっ!?」
コクピットを開閉するボタンを押そうとしたわたしは、あろう事か指を滑らせていかにも危険そうなボタンを押してしまった。
それと同時にファルシオンの目が金色に変わり、機体の色もみるみるうちに黒く染まっていった。
「じ、時紅ぅ!!ここここれはどうしたらいいんだ!?」
「いいからはやくのれ!!」
確かに、この様子だと勝手に発進してもおかしくない。彼女に言われた通り、急いでコクピットを開いてファルシオンに乗り込んだ。




