PHASE:1-1/クロトとクウと
「クロトー!」
逃げる様にこちらへやってきたボクに気がつくと、クウは人混みの中だと言うのにぴょこぴょこと跳ねた。
人々は彼女をぎょっとした顔で見て、またそれぞれの方向へ歩いていく。中には小さく舌打ちをする人もいた。
今は4月だから、就職やランクカードの更新で忙しいのだ。
「……人が多い所であまり動かない方がいいよ。呼ばなくてもちゃんと来るから、待ってる時はお利口さんにしてて」
諭す様に言うと、クウはこくこくと頷いた。迷子にならない様に彼女の手を取って、外へ歩き出した。
まるで母親みたいだ、と自分で自分を笑ってやる。勿論、いい気分にはならなかった。
総合拠点(ユニオンベース)から外に出ると、見慣れない人と一緒にいるせいかいつもより視線が刺さった。
「あら。お久しぶりねぇ、クロトさん。一緒にいる子、あなたにそっくりだけど……妹さん?」
構わず歩いていると、ふくよかな女の人が声を掛けてくる。
……ボクが入院した時の担当看護婦だった人だ。
「違うよ!クウはクロトの……もごもご」
「お久しぶりです。……はい、クウって言います。家を飛び出してきたみたいだから、こちらで面倒を見ているんです」
クウの口を塞ぎながら営業スマイルで言うと、女の人はまぁ、と感嘆の声をあげた。
「偉いわねぇ、やっぱりポルカさんに似たのかしら。……あ、私はもうすぐ休憩が終わっちゃうからこれで。クウちゃん、お姉さんと仲良くね」
クウとボクの手のひらに包装された飴をぽんと置いて、女の人は去っていった。
「クロト、知らない人から飴もらったよ。どうしよう?」
「ボクの知り合いだから大丈夫。……それより、ボクから作られたって事は内緒にしとかなきゃダメだよ。一緒にいられなくなるからね」
「分かったよ!」
……元気そうで何より、だ。ため息をついた。
「……クロト、クウの事嫌い?」
「嫌いじゃないよ、ちょっと疲れてるだけ」
寂しげに見つめてくるクウの頭をそっと撫でてやる。じっとして気持ち良さそうにしているのを見ると、気分が少し軽くなった気がした。
「クウ、行くよ」
「うん!」
手を繋いで人混みの中を歩いていると、ふとクウが足を止めた。
「クロト、あれ何?」
指さす先を見ると、近くの広場で桜が咲いていた。
懐かしさを感じると同時に、少し胸が痛む。
「あれは桜って言う花。毎年春になると咲くんだよ」
教えてやると、彼女はしばらく目を輝かせながら眺めていた。
「クウは花を初めて見たよ。綺麗だねー」
そう言うクウの頭に、風に乗って花びらが落ちてきた。
「頭に花びらついてたよ」
取って渡すと、にっこりと笑った。
「えへへ、クロトは優しいんだね」
「そうでもないよ」
「でも、クウから見たら、クロトは優しい人だよ」
「……そう?」
「……うん、すごく優しい人」
クウは花びらをきゅっと握りしめて、幸せそうにそう言った。




