PHASE:3-4/従属の機神と魔砲使い
「……」
わたしは一人、頭を悩ませていた。
……数分前の事である。
やけに楽しそうなマークに連れられ、格納庫に入る事になった。
「……なぁ、本当にわたしがこれに乗るのか?」
「うん。むしろ君以外乗れる人なんかいないと思うよ?ネクはこいつをいじれないし、君にはタヌキちゃんがいるし。ボクは別行動して色々と探らなきゃいけない。この『ファルシオン』じゃないと幽界の入り口を完全に破壊出来ないしさ……ほら、適任じゃない?」
「いや、だがな……」
まるで騎士の様な姿の鎖に繋がれたそれ……ファルシオンは、蒼い光を放つ目で静かにわたし達を見ていた。
……こんなロボットに乗れだなんて、無理があるのではなかろうか。
正直、わたしは機械をいじるのが大の苦手である。パソコンだって3年掛かってやっと普通に使える様になったし、リストフォーンも時紅に教えてもらうまではまともに使えなかったぐらいだ。
……そう言えば日曜の夕方辺りにこういうロボットのアニメがあって、クロトと澪さんとトランは毎週その話題で盛り上がっていた。あの三人ならおおはしゃぎで乗り込みそうだ。
「すげー、これカイゾーしていいのか!?」
ただ時紅もあれを熱心に見ていたらしく、話す事はあまりなかったが部屋にはロボットのプラモデルがたくさんあった。片づけようとすると物凄い形相でこちらを見て、「何しようとしてる、ロボットとヒト型決戦兵器は男のロマンだ!!」と怒られたのをよく覚えている。
……わたしはロボットに魅力を感じる事は出来ないけれど、楽しそうな時紅を見られるのは嬉しかった。
「改造は……うーん、ちょっと分かんないや。出来そうならやってみてよ、見た目も今より格好良いのにしてさ!」
「おう!」
……と言う訳で、わたしは彼女がファルシオンを改造し終えるのを三角座りして待っていたのだ。
現在、ファルシオンの背中には翼の様なモノが取り付けられ、肩にはミサイル、右手にはバリアシールドまで持っていた。真っ白だった色も所々青く塗られている。……確かにマークは「格好良くして」、とは言ったがここまでしても許されるのだろうか。そして時紅はどこでこんな改造技術を覚えてきたのか。
時々出そうになるあくびを我慢しながら尻尾を揺らしていると、格納庫の扉が開かれた。
「……やーっと見っけたぜぃ!ってオーノー、すっかり魔改造されちゃってるじゃねーの。どうなってんだこりゃ?」
狼の耳と尻尾を生やし、黒いとんがり帽子に黒いローブを纏った……「怪しい魔法使い」と言う言葉がよく似合う様な、金髪の人物がやってきた。
「ふえぇ、何これ……」
更に驚くべきは、その隣に淋がいた事だ。
「淋!?どうしてここに!!」
わたしが思わず叫ぶと、彼女は垂らしていたうさぎの耳をぴんと伸ばした。
「え、えっとね……境界の時間が止まっちゃってて、外部からは干渉出来なくなってるみたいなの。それで困ってたんだけど、この人が来て……」
「よぅ!ヒトじゃなくてカミサマだぜぃ、そこんとこ分かっといてくれよな!さてさて、ご挨拶しとこーか。俺氏はレリーユーズ、カミサマ兼魔砲使い兼文字書きだっ!」
猫の様な赤い目を細め、彼(髪を二つ括りにしてはいるが、どうにも中性的なので性別が分からない)は両手でVサインを作ってみせた。
……カミサマにはとても見えない。
「すまんがね、こう見えて俺氏女なのよ。あと疑ってるみたいだけどホントにカミサマだかんな。世界創ったのは俺氏でー、おまいら生んだのも俺氏でー、ついでにこれ作ったのも俺氏!すごかろ?えらかろ?どーよ?」
「はぁ……」
すごく胡散臭い。こちらの胸の内を見透かして癪に触る言葉を発してくるのも、なんだかネムさんみたいで嫌だ。
「おいゾクブツ。なにいってんだ、しずかにしやがれ」
今まで黙々と作業していた時紅はようやく口を開いたかと思うと、レリーユーズに毒を吐いてコクピットに入っていった。
「おーのー……」
「……じゃ、じゃあ……とりあえず、カミサマ(仮)って事で……」
溶接音が響く中、淋は張り付いた笑みを浮かべながらそう呟いた。




