PHASE:3-3/騒音のレオリル
シクロトはシクロトで何か用事があるのか、すっと消えていった。後を追い掛けようにも、消えてしまっては追い掛けられやしない。ついでに言うと皆当たり前の様に消えてるけど、その消え方も分からない。
……と言うか、千夜千祭の会場ってどこなんだ。せめてそこぐらいは教えて欲しかった……
「……咲、どこ行ってたの。昨日ずっと帰って来なかったけど」
城の前で取り残されしょんぼりしていると、音もなくロギが現れた。
「あー、ちょっとシクロトん家にな。本当は置いて帰ろうと思ったけども、中がすげー気持ち悪かったさかい……まぁ、一緒に寝てたわ」
「ねっ……!?」
ロギはアゴが外れるんじゃないかってぐらい口をあんぐり開けて固まり、少し後にわなわなと震えた。
「……ま、まさか城に入ったのか!?大丈夫!?怪我とか……」
「してねーよ!あっしはよう分からんが入れたの!とにかく、早いとこ連れてってくれ!!頼む!!」
ロギの左手を取ると、しゃらんと音がした。手首には赤い鎖があり、花火の光を受けて鈍く輝いているのが見えた。
「……僕も出る事になってるんだ。そうそう、昨日のあれのおかげで……今回は面白い戦い方になる、かもね」
「どゆこと?」
ロギは曖昧に笑って小走りする。……おいこら、面白い戦い方って何なんだ。そこは教えてくれなきゃダメだろ。
色々と不満はあったけど、黙ってついていく事にした。何があるかぐらい、誰かに見るか聞くかすれば分かるだろう。
「ンンッ……レデイィィイィイイスアアァァアアアンドジェントルメエェェエエエェンッッ!!ついにこの年がやって参りましたアァァアアッ!!懲りずに居残っている大人もッ!!新生児程度の幽界知識しか持たないお子様もッッ!!めッッちゃくちゃ可愛くてお胸の大きなお姉さんもォッッ!!選ばれたなら平等に争い!!そして生まれ変われる夢の様な一時ッ!!それがァ!!千夜千祭ッッ!!」
『うるせぇっ!!黙ってろボンクラ!!』
『実況席に出てきたらどうなるか分かってんだろうなァ!?』
『いいからとっとと成仏しやがれ!!』
全身を真っ黒な布で覆った怪しいおっさんが、限りなくうるさい声で失礼な挨拶をしてきた。それに反応して、批判の声が広がる。
……ロギに連れて来られたのは、あっしが目を覚ましたあの巨大な荒れ地だった。いつの間にか置かれた観客席の周りには鉄線が張り巡らされ、鉄線の先には鬱陶しいMCと巨大な蒼い門がある。
そしてこの門、何らかの魔力で出来ているみたいだ。魔力に敏感な体質のあっしとして、力がみなぎってくるのはすごく嬉しいけど……
「見えねえぇ……気持ち悪りぃ……」
あのおっさんのせいで観客達は荒れ狂う海の様にブーイングをかまし、立ち上がったり飛び上がったり、あっしは前が見えなくなったりうるさかったりしてまるで地獄に投げ込まれた様な気分になった。ロギに肩車してもらう事で、問題はとりあえず解決した。
「なぁロギ、あいつ何なんよ」
「お父さんって呼びなさい。……あの人はレオリル・タオレンって言って、かなり偉い人だよ。主にあらゆる知識を授け、この世界をより良くするための道を示す人達……「老院」の一人なんだ」
あいつが老院……シクロトを閉じ込めた奴らの仲間なのか。
「……いけ好かねぇ。絶対ぶっ飛ばしてやる」
……よし決めた。シクロトに勝っても勝たなくても、このレオリルって奴だけは一発殴ってやる。
シクロトの問題を抜きにしても、あいつはうざったかった。




