PHASE:3-2/砕け散る果実
「枯葉、あのスイカ頭のおじさんは何なの……?」
すぐ隣にいる吸血鬼やらド変態な龍人やらで、人外の存在にはある程度慣れていたつもりだった。
だけどなんだ、あれは。
「ああ、この人は水汰。ファニーヘッダーっていう種族なんだよ。なかなかナイスガイでしょ……ってクロト?」
ボクは突如ココロの底から渦巻いた衝動に駆られ、ふらふらとスイカ頭のおじさんに近づいた。
「おう嬢ちゃん、枯葉の知り合いなのか?さっきも聞いたと思うけど、俺は水汰っつー……」
「ていっ」
「チェイサアァッ!?」
ホコリっぽい部屋に、無惨に割れた頭とその脳汁が飛び散る。
……おお、割れた。中身もちゃんとスイカだ、と感激していると、スイカ頭を無くして無頭人(デュラハン)みたいな姿になったおじさんは怒鳴ってきた。
「おいマセガキ!!なんて事しやがる!!この頭はなぁ、邪魔されずにじっくり育てて大きくなったレアな奴なんだぞぉ!?」
「そんな頭してる方が悪いんじゃ……」
「よく言われるよ!!ああ……また1週間コスプレしなきゃいかんのかぁ……」
割るべきモノを割って満足したボクの足元で、トトはスイカの欠片をペロペロ舐めていた。
「それ、美味しい?」
「同志、これは実に美味だぞ!魔界でもこんなスイカは千年に一度現れるか現れないか……」
……魔界のスイカ事情はどうなってるんだろう。と言うか美味しいとか聞いてない、こんな事ならもうちょっと綺麗な場所で割れば良かった……とそこまで考えた所で、ボクは自分の置かれている状況のおかしさを再認識してしまう。
変なとこに連れて行かれてスイカ割りって、どうなってるんだ。最後のは本能に従ってやった事だからまだ理解出来るとして。
……とにかく情報を整理するために、ここに来てからずっと思っていた事を口にしてみた。
「あのさ。その、修行?する前に……どういう事になってるか教えて欲しいんだ。何も知らずにやらされても、こっちは達成感ないし……やりたい事も出来ないって、焦っちゃうし」
そう、ボクの目的は千絋を目覚めさせる事である。トトを猫の姿に変えた犯人を探したり、魔界に繋がる門を探したりするのは、あくまでも千絋を救う事に繋がるからと言う理由に過ぎない。なかなか動かない現状に、正直ボクは密かに苛立っていた。
「仕方ないなぁ。もう少し後で言うつもりだったけど……シーユー、センセー。ミーはクロトと大事なトークをしなきゃいけないからね」
「お、おう……つーか覚えてろよそこのちんちくりん、今度割ったらツルで宙吊りにしてやっからな!!」
勿論ボクは「誰がちんちくりんだ」、と返して枯葉に担がれていった。
……で、その数分後の今、ボクは何故か枯葉の家の脱衣所にいる。
「……もう服脱いだんだったら、先入っててよ」
「へー、クロトがそんなガールズ・ライクな反応見せるなんて珍しいね。うーん、ベリーキュート!」
全裸の吸血鬼に抱きつかれるなんて状況を、この世で経験した人は果たして何人いるんだろうか。
いや、何人いてもこんなのは恥ずかしいけど。
「……話聞いてる?」
「答えはノーだ!ミーは都合の悪いトークに興味なんかナッシングだからね、早く脱いでよ。ジャパンのヒトって、大事なトークはバスルームでするんでしょ?」
「絶対しない」……そう言っても無駄だと判断したボクは、ため息をついてコートとネックウォーマーを棚の上に置き、シャツのボタンに指をかけた。
「はぁー……」
乳白色のお湯に肩まで浸かると、今までの疲れが全て吹っ飛んだ。やっぱりどこに行っても、浴槽の中は落ち着くものだ。
「クロトもオジサンみたいなボイス出すんだ。いやー、実にユニークだよ」
身体を洗い終えた枯葉が浴槽に入ってくる。正面から彼女の裸体を見る事になったボクは、とっさに目をそらした。
一応言っておこう。18禁要素なんてボクは認めないし、ここにあっちゃいけない。どうせボクも枯葉もあるのは貧相な胸だけだから、ハレンチを見出す必要はないのだ。いいね?
「う、うるさいってば……ほら、早く話してよ!」
「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらおうかな……」
彼女は珍しく英語無しで話したかと思うと……
その身をゆっくりと重ねてきた。




