PHASE:3-1/世界奇怪遭遇
「ウェルカム・トゥ・マイワールド!さぁクロト、ここがアンダーエデンだよ!」
枯葉に連れて行かれた先は、赤い三日月が浮かぶ奇妙な街だった。
街の中心部には、ネオン灯で嫌と言うほど装飾された観覧車やジェットコースターが鎮座している。民家らしい民家はどれも屋根が尖っていて、煙突からは、いかにも身体に悪そうな7色の煙がもくもくと吐き出されていた。
「……へぇ……」
ちなみに、ボクは高い所に「連れて行かれる」のが苦手だ。戦闘の時は仕方ないと割り切ってボコボコにするのだが、今回はそうもいかなかった。どの様にして『アンダーエデン』に来たのかなんて全く覚えていない。……勿論、目を瞑っていたからである。龍人達の胴上げよりは遥かにマシだろうけど、怖い事に変わりはないのだ。
「どうしたのだね?この程度でふらついていては、異世界の住人には勝てないぞ」
偉そうにそう言ったトトは、ボクの足元でくるくる回っていた。なんて落ち着きのない猫だ。……気持ちは分かるけど。
「うわっ……」
枯葉の隣で突然ピンクの煙が立ち、反射的に一歩退く。煙が消えると、そこには着物……っぽい服を着た女の子がいた。
桜色の髪を後ろで括り、左目には桜を模した紋章が刻まれている。見た感じは15か16歳ぐらいだけど、こんな所にいるんだから100年200年は余裕で生きているに違いない。
右目の視界では桜の花びらが舞い、彼女のいる所に何かの尻尾……?がたくさん風に揺れていた。
「……枯葉殿、そこの者は新入りか?」
「ノーノー、この子は例の救世主だよ、禁夏!」
「……なるほど。では貴殿がクロト殿であるな。はじめまして、三日月 禁夏(みかづき きんか)だ。何とぞ宜しく」
禁夏と名乗った女の子は、ややハスキーな声で挨拶してきた。
「はぁ、どうも……」
「禁夏、ユーのワークはだいぶ後でやってもらう事になると思うから宜しくねー」
「承知した……では某(それがし)は用があるのでもう行くぞ。さらばだ」
彼女は小さく礼をして、ピンク色の煙に包まれて消える。
「……で、あの人は何者なの?」
「禁夏はキュウビだよ。昔痛い目に遭ったらしくてね、それ以来ヒトの姿にフォルムチェンジはしなくなったんだって」
キュウビ……嫌な名前だ。ロギの事を思い出してしまう。
憎いと思う訳ではないが、「キュウビがいなければロギはまだ生きていたんだろうか」、と考えては複雑な気持ちになるのだ。
「……何かあったってフェイスだね、面白くなさそうだ。早くセンセーのとこに行こうよ」
興味のない物事に対して、枯葉は異常なぐらい冷たいし、知ろうともしない。なんだか猫みたいだ。……そこがありがたいのだけど。
その後身体の半分が犬になった人、羽の生えた巨大なイモムシなどに遭遇しながら枯葉について行くと、学校の様なレンガ造りの大きな建物があった。
「……ここは?」
「エレメンタリースクールってとこかな。でも皆ジーニアスか脳筋ばっかだから、あんまり来る人はいないよ」
開いていた校門から玄関に入る。中もちゃんとした学校だったけど、下駄箱の上にはホコリが溜まって、蜘蛛の巣が張りついていた。本当に生徒や客が来ないらしい。一人ぐらい来ていたっていいのに。
ここでスリッパに履き替えなきゃいけないのかと思うと少し憂鬱だったが、枯葉は特に気にする様子もなく土足で歩いていく。ボク達も下駄箱からすぐに離れ、そのまま枯葉について行った。
「失礼しまーす」
ほどなくして職員室らしき場所に辿りついたボク達を待ち受けていたのは……
「よぉ枯葉。……ん、なんだそこの二人は。新入りかぁ?」
よれよれの白衣を羽織った、スイカ頭のおじさんだった。




