時止まれども呪いは止まらず
ただでさえ色彩の少なかった墓地が、突然全ての色を失った。
「何かと思ったら、時間停止か」
背負っていた布袋を下ろして周囲を見渡す。眼球をくり貫かれた死体の山と破壊された墓石は、当然ながら動く気配を見せない。その中で唯一動く事が出来ているおれは、やはりこの世界からして見ても規格外の存在なのだろう。
一息ついてから、布袋の中を覗く。無数の濁った眼球が、こちらを見つめていた。
「……これじゃあ、まだ足りないな」
ここで集めた眼球の数はたったの50個で、今までにおれ一人で集めたのは7000個。「獣の王の数字」……666666個にはほど遠い。ジン教団なんて言うイカれた宗教団体にも集めさせてはいるが、ロクな集め方をしてくれないのが現状だ。もう少し効率良く、かつ人目につかない様に集めたいのだが……
「あれは……」
ふと死体の山を見上げると、空間の裂け目……の様なモノがあった。
正に神々しい、とでも言うべき光が渦を巻いているのをしばらくじっと見つめてみたけど、そこから何か出てくる気配は一向にない。
「……やっぱり無意味だな」
思えば、この人生でおれはカミサマの存在なんて意識した事がなかったし、いるとも思っていなかった。それはきっと、咲が色々なモノを与えてくれて、色々な悪から守ってくれていたからだろう。カミサマはいないけど、それに近い存在を挙げるなら、咲だと思う。
彼女がいない世界には最早何の意味もなく、彼女がいないならば、全ての命は無意味と化すのだ。
おれはそんな世界を許せない。どうにかして、かつて二人で見ていたあの世界を取り戻したい。
なら、どうすればいいのか。……簡単な話だ、咲を呼び戻せばいい。おれと彼女が愛していた「花」で世界を埋め尽くせば、咲は戻ってくる。
そのためにはまず、今ある無価値なモノを滅ぼす事から始めなければ。
光の渦に手を伸ばすと、それは一瞬にして消えた。




