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BORDER:BREAK ~人魔幽界と目覚めた悪意~  作者: GAND-RED
PHASE:2/蝕む影の色
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ACT:2-9/Who are you?

「今のとコろ、お前は彦根駅前ニ配属さレる予定ダ。後で今回発生シたゾンビに関する資料ヲ渡してやるカら、そレを参考ニ準備をしテ3日後の……そうダな、昼にこちラに来イ」

 応接間に着くなり、界人はそう言った。ボクは慣れてるから何も思わないけど、彼の事をよく分かっていない人は「せっかち過ぎやしないか」と眉をひそめるのではないだろうか。

「あのさ、ボクも話していいかな?」

 来客用とは思えないボロ椅子に腰掛けると、ぎし、と嫌な音が鳴った。新調する金はたんまりあるハズだ。それなのにかれこれ一年ほど変わっていない所を見るに、この要塞の主……つまり目の前にいる吸血鬼……に人をもてなす気は皆無らしい。

「おおカタその右目ト、妙なアームガードで覆わレた右手の事ダろう?」

「……鋭いね」

「あの豆腐の病院ニ行ッた時に奴カら聞いタんダ。「貧血デ噛んダんジゃないか」とカ怪しまレテ、散々な目ニ遭っタぞ。奴は何も分かッてないナ、こんなダラケモノの血なんカ吸っタらこっちまデ怠惰になルじゃナイか」

 彼はため息をついて、ボクの向かいのボロ椅子に腰を下ろした。

「……まァ、それニついテは我ガ妹ニ聞くトいい。あイつハヒトの世カラ離れた場所ニいル。イブキヤマとか言ったカ……」

 ……おかしい。ボクの記憶では、枯葉は死人扱いされる様になっていたハズだ。

 彼の心臓をじっと見つめた。そこでは相変わらず紫と青の炎が揺らめいていたけど、青の割合がさっきより多くなっている気がした。

「枯葉の事、気づいたの?」

「アア。……自分ノ死体を妹に操られルトは、屈辱の極みだナ」

 それにしても、何故彼女の存在に気づいたのか。もしやゾンビが関係してるんじゃ……いやそもそもの話、ゾンビが自我を持つなんて事があるのか?

「ほう……貴殿は奴の兄なのかね?」

 じわじわと出てきた頭痛に苦しんでいると、ボクの膝で呑気に寝ていたハズのトトが急に口を開いた。

「うわっ、喋ったらダメだって……ごめん界人!さ、さっきのは腹話術で……」

 トトをとっさに隠そうとしたが、界人は首を振った。

「そノ通り、俺ガ枯葉の兄ダ。……ぬこよ、俺ニ何か用があるノか?」

「うむ、昼寝をしていたら丁度思い出したのだ。貴殿の妹……と言うか貴殿の血族は、魔界の始祖でありながら魔界を去った一族だそうじゃないか。どの様に生きていたか気になってね」

「そこらの異能者ト大差はなイさ。父も母も、平和に過ゴしテいたガヒトに殺されて死んダ。俺はその敵討チのたメにヒトやクリーチャーヲ狩り続ケ……」

 界人はおもむろに、口元に巻いていた包帯を解き始めた。

 腐敗臭が鼻をつくと同時に、抑え込まれていた記憶が少しずつその鎖を千切り始める。そして……

「クロトに殺さレた」

 真一文字に裂かれた口が露わになった。

「……っ」

 拒絶するかの様に頭痛が襲ってくる。右手が震え、アームガードがカタカタと嫌な音を立てた。

『……おい、弱虫。お前は大人しく下がってろ……俺が楽にしてやる!!』

 目の前には、赤い劇場があった。

 座席はズタズタに切り裂かれ、壊れた照明からはバチバチと電気が弾け、見事に荒れ果てている。やっぱりここはボクの精神世界なんだ、と再認識した。

「おら、退けよ」

 ジギーはボクを睨みながら、不機嫌そうに言った。腕組みをして仁王立ちと、偉そうな態度は相変わらずで、翼もガシャガシャと嫌な音を立てている。

「嫌だ。ボクは楽にならなくていいんだ、許されなくてもいい……キミも言ってたじゃないか。ボクは親殺しで……友達殺しの」

 何故か、「バケモノ」と言う言葉が出なかった。それを見た彼はボクを鼻で笑い、腹を蹴って壁まで吹き飛ばした。

「はっ、いい子なのは口だけじゃねぇか。続きは俺が言ってやるよ。お前は親殺しで友達殺し、罪のない人間どもまでなぶり殺した怠惰で甘ちゃんなバケモンだ」

「……違う」

 どうしてボクの身体は震えているんだ。バケモノになってもいいハズなのに、痛めつけられても立ち向かえる力があるのに、何故ボクはこの言葉に怯え、彼に服従しようとしてしまうんだ。

 ジギーはゆっくりと歩み寄り、壁にめり込んだボクの身体を乱暴に引き剥がして床に転がした。

「へへ、絶望しただろ。更にいい事を教えてやるよ。……俺はな、お前を殺戮兵器にするために生み出された侵略プログラムだ。お前が俺を拒絶し、憎むほどに俺はお前のココロを喰らう。お前が死に対してやたら冷たくなったのも、俺を拒絶し続けたからだ」

 ……ジギーが、侵略プログラム?

「……だったら、処刑邪眼は……」

「はっ、あれか。あんなのはお前を構成するあらゆる因子の中から、殺戮とお前の侵略に適したのを探して作った能力だ。あの頃の脳ミソ筋肉なお前は、俺にまんまと乗せられてたんだよ……まぁ、変なのに書き換えられて今じゃ全然機能してねぇんだがな」

 信じられない。いや……信じたくない。ボクがジギーに喰われて消えるなんて、絶対に嫌だ。

「そんなに嫌な顔するんじゃねぇよ。もっと喰われちまうぞ?まぁその調子で憎んでくれれば、俺の侵略があと一日で終わるから歓迎だけどな。……とにかく、俺からはそんぐらいだ!終わったらそのゾンビ?っつーのもなぶり殺してやるから、安心しろよ弱虫!!」

 憑き物が取れたかの様な笑顔で、ジギーは頭を蹴り上げてきた。ボクの身体は一回転して仰向けに倒れてしまい、更に頭を打った衝撃で段々と意識があやふやになっていく。

「ボクはボクだ……そんな事、させな……い……」

 最早立ち上がる事も出来ないボクは、意識を失う寸前に彼を睨みつけた。


 ジギーは、笑いながら涙を溢していた。

どうも、竜を6体狩っていたので久しぶりの投稿になってしまいました。

作品に対する熱意はまだたっぷりあります。

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