ACT:2-8/インパクト・ストリーム
「……ごめんなさいアル」
散々泣き続けていたトランは何時間か経ってようやく泣き止み、申し訳無さそうに言った。
「いいんだ。こういう事には、慣れているから」
トランの頭を撫でていると、時紅もこちらにやってきた。どうやら店の戸締まりをしていたらしい。
「うらやまじー、チヒロ、オレにもオレにもっ」
彼女は膨れっ面でぽこぽことわたしの肩を叩いてきた。怒っているのか優しいのか分からないぞ、と言いたい所だったが……
「はいはい、お利口さんにはご褒美がいるんだな」
「むふー」
流石にそんな事を言える『耐性』はなかった。
……いくらクリーチャー、かつ身内とは言え、猫と子タヌキ……
「か、かわいい……」
「アルゥ!?」
聞こえてしまったのか、トランが顔を真っ赤にして飛び退く。
「かっ、かかか可愛いなんて漢には似合わないネ!!どこが可愛いアル!?どこアルっ!?」
狼狽えている彼に、「耳と尻尾がふわふわで可愛い」……と言ったらどうなるだろうか。
「チヒロ、わるいかおだ」
「……えっ」
わたしはそんなに悪い顔をしていただろうか。
「『しっぽがもふもふでカワイイ』とか」
「アルっ!!」
「『みみがピコピコしててカワイイ』とか」
「ぎゃあっ!!」
「トランがかわいそうだ、もふもふするのオレだけでいい」
あろう事か、彼女はわたしの思っていた事を容赦なくトランにぶつけてしまった。彼はたちまち床にへたり込み、両手で顔を覆う。
「ああ……情けないネ……やっぱりこっちじゃ『オンナノコ』の方が向いてたアルか……」
「そ、そんな事は……ないと思うぞ……きゃっ!?」
わたしは必死に慰めようとしたが、トランの周りでバチバチと火花が散り始めてすぐに飛び退いた。
「お、おちつけ、オレにてもやいてもおいしくない……」
トランがやおら立ち上がると、火花の勢いが増した。青と赤の火の粉や電気が無数に飛び交う光景は、ちょっとした花火大会の会場かと錯覚するほどだった。
「もういいアル、オレは一人で考える時間が欲しいアル……時紅兄、千絋姉、キッツい助言ありがとネ……」
トランが怒りに満ちた目でこちらを見たかと思った次の瞬間、物凄い速さで掴まれたわたし達は店の外へ放り投げられた。
「うわあぁあぁぁあ!!」
衝撃波で扉が粉砕され、店の前を歩いていた数体のクリーチャーも被害を被りふっ飛ばされ、これ以上被害を増やしてはいけないと思い路上に思いきり拳を振るった。
「うおー」
すると今度はズン、と言う地響きと共に地面に巨大な穴が開いてしまう。
「まずい、落ちる……ってひゃああぁっ!?」
虚空に手を伸ばしたその時、穴から溢れ出した謎の光の奔流がわたし達の身体を押し上げた。
光はどこまでも登って行き、わたし達は途中でその流れから押し出されてしまう。
「地上が、とても遠い」。そう思った途端に急降下が始まった。
「Gがあぁぁ……ぐぅ」
こんな時にも関わらず、時紅はわたしの腕の中で眠り始めてしまった。
「……くそっ、能力でどうにか出来るか……!?」
つま先からラウンドシールドを展開しようとしたその時、わたし達は何かの上に着地した。
だが、地上にはまだほど遠い。恐る恐る顔を上げると、目をキラキラと輝かせたマークがいた。
……受け止めたのか。
「……おねーちゃん、タヌキちゃん……無事?」
「よくやったよチヒロ!お手柄だよっ!!」
マークは龍の翼を広げたネクに抱かれていた。
「……ありがとう、二人共。……マーク、お手柄……とは?」
「これでキミが境界に戻れる可能性が高まったんだよ!後は……あは、はははは!!さぁ帰ろうチヒロ!これからの事、話してあげる!!」
マークは無邪気に笑っていた。ただ、わたしにはその笑顔が悪魔の様にしか見えなかった。




