ACT:2-3/頭痛・災厄・亡者行進
昼になると、すっかり昇りきった太陽が窓際を微かに暖めていた。クウはボクの隣で本を読んでいて、トトはクウの膝の上でうたた寝している。
ボクはと言うと、さっきから頬杖をついて唸り続けていた。
ボクの身体をおかしくした人物は誰なのか、考えてみたのだ。それも、『ヒトならざる者である事』と言う、たったひとつの条件で絞って。
まず半分人外……界人。彼は戦闘バカだからそんな凝った事はしないと思う。
龍人……ポルカ、キルカ、三賢龍。ポルカはしそう。三賢龍は微妙。やるならヌー辺りか。キルカはセクハラ要員だから論外。
他に人外との交遊関係は……そこそこある。喋る龍とか猫の耳を生やした女の子とか。……あの子のはただのバンダナだった気もするけど……
「ああもう、思い当たる節が微妙だぁ……」
とうとう机に突っ伏した。
「ひゃっ」
クウが驚いて本を閉じ、ぽん、と乾いた音が鳴る。
「むん」
それを聞いたトトがすぐに目を覚ます。
本来ならまさかこんなに見事な連鎖反応が起こるなんて、と感激している所だけど、今のボクは頭を抱えるだけだった。
「同志よ、物思いに耽っている暇があるなら動きたまえ。何か常識離れした事件の情報を集めるのも解決に繋がるぞ」
トトは伸びをしてからクウの膝から飛び出し、テレビのリモコンに歩み寄って適当なチャンネルに変えた。
「おお、早速異常事態が発生している様だね」
くっくっ、と笑ってトトは目を細めた。
最近話題のニュースキャスターが、眉間にシワを寄せて何やら話している。テロップを見ると、とんでもない文字列がボクの目に飛び込んできた。
……『彦根市にて“ゾンビ”発生か』。
ゾンビと言うと、ボクは腕がハサミになった奴とかケルベロスの様に首の増えた犬、あと美味しいお粥をイメージする。
しかし、中継カメラに映されたのは腐った死体の群れと、それをマシンガンやライフルで駆逐するラスト・アズールのメンバーと言う光景だった。
画面越しとは言え、フィクションでしか見た事がなかった動く死体をリアルで見せられるとボクも固まってしまう。
「クウ知ってるよ、ゾンビってたしかシニメが持ち出そうとして止められた奴だよね」
「何だって……!?」
……まさか、ボク達がいなくなっていたあの日にバラ撒かれていたのか?いや、それだったらもっと前から話題になっていたハズだ。
トトはテレビをじっと見ていたけど、にゃあと鳴いてからボクの元にやってきた。
「同志よ。このゾンビはヒトが作ったニセモノのゾンビではなく、『死徒(ノスフェルト)』によって使役されているモノかもしれないぞ。ニセモノはあんなに鈍くはない、何より無駄に賢いからなぁ」
「なんで分かるんだよ」
「人異戦争で見たからに決まっている。今映っているのはバリケードの前で止まっているだろう?ニセモノだったら壊して喰らいに行くぞ。奴らは人間も異能者も関係なく……とにかく生き物なら何でも囲んで喰い散らかしていた。ウィルスで作られていた様子だから、空気感染して生まれるゾンビもいたさ……フミャッ!?」
偉そうな顔をしていたので、尻尾を引っ張る。ぶわっと翼が広がって辺りに羽根を撒き散らした。
「何をしてくれる!!」
「いや、むかついたからつい」
アーモンドの様なトトの目が光り、彼女はぶるぶると身体を震わせて翼を閉まった。
画面には『ゾンビ討伐部隊志願者募集、高額報酬あり』の文字、その下はラスト・アズールの電話番号が表示されていた。
「ぐぬぅ……早速ヒコネとやらに行くのだ、そして全てを見極めたまえ。同志の眼と腕ならばこの異常事態を解決出来るだろう」
「はいはい……なら、界人の所に申請しに行かないとね。ここも維持費がバカにならないし」
最近のボクは殺し屋の仕事は当然だが、クリーチャー討伐や迷宮攻略も行っていない。副業に龍殺しがあるが、今の所害になる龍も現れていない。
最早ニートである。
「よし、行こう」
……クウはネムの所に預けるとするか。
テレビの電源を切って、ボクは準備を始める事にした。
かゆい うま




