PHASE:2-9/死ぬ事も生きる事も
ボクの身体に起きた不可解な現象をどうにかしようとすると、千絋を救えなくなるらしい。
しかし、こんな腕で街をうろついていたら騒ぎになる事請け合いだ。
今朝あった出来事を話してみよう、そう考えたボクとクウは、ネムと澪の元へ向かった。
「……ふーん。それでオキシマの猫ちゃんが変な事を喋った、と」
本来ならこれに関わっているらしいトトも連れて行きたい所だったが、彼女は猫だ。病院に動物を連れて行く訳にはいかないので、留守番させている。
「本当に訳が分からないよ。魔界とか幽界って、ボクがそんなの知ってる訳ないじゃないか……」
「あたしには知ってる風に見えるっスけどね。なんかドンって異世界から来たって言っても通用する気がするんスよ。なー、ネム」
「……そうだねぇ」
澪はナース服ではなく、青い熊の描かれたパーカーに半ズボンと言う私服姿でネムの頭にあごを乗せていた。
看護婦の仕事は性に合わなかったらしく、やめたそうだ。ああいう繊細な仕事は澪には向かないとボクも思う。
一方、ネムはため息をついたり髪の毛をいじったりして、露骨に落ち込んでいた。……澪は自分から看護婦になったのではなく、ナース服姿を見たいと言う理由でハメられただけではないか?
疑いの目でネムを見ると、素知らぬ顔で澪の手を大事そうに握っていた。
……本当に仲が良いなぁ。
「ネム、クロトの手なおるの?」
「……治そうにも、よく分からないんだよ。専用の機械で調べてもクリーチャー扱いされなくて、霊的なエネルギーだけがある。それなのにレントゲンを撮ったら人体の腕とクリーチャーの骨が写るなんて、前代未聞だよねぇ」
クウは首をかしげてこちらを見た。分からないのも当然か。分からなくてもいいんだよ、と頭を撫でると嬉しそうにした。
「本当にだよ」
話をする前にまず右腕を検査してもらったのだが、結果はネムが話した通りだった。霊、クリーチャー、異能者、3つの要素が複雑に絡み合っているのだ。
バケモノになっても構わない。そう思っていたが、こんなのはもうバケモノじゃないか。
「核の研究はどうなの?」
「トランは難しいねぇ、拒絶反応が激しいんだ。淋はなんとか……目覚める直前まで来てるんだけど」
ネムの頭にひっついていた澪が、ぴくりと動いた。
「……問題なのは、仮に生き返らせたとしてどういう姿になるかとか……何より、二人がそれを望むのか。道徳的な問題だよねぇ」
……道徳、か。
ボクも望まぬ形で不老不死の身体にされた身だ。死んだのなら死んだままで良かったのに、ずっとそう思っていた。だけど機関を潰して、クウがうちにやってきてからは、これはこれで良かった、と考えてしまうのだ。
こんなボクは、道徳的に麻痺しているのだろうか。
「ドンはどう思うっスか?」
「……ボクは……」
あの子達にまた会えるならとても嬉しいけど、そうすれば、二人はもう一度死の苦しみを味わう未来を与えられるのだ。
……ボクにとっての死はひたすら冷たいモノだったけど、思い出していい気になるかと聞かれると決して頷けない。
「あたしは、やっぱり良くないと思ったっス。だって、生き返ったらもう一回死ぬんスよ?死ぬって絶対怖かったに決まってるっス。誰だって「死にたくない」、「誰かに死んで欲しくない」……そう思うもんじゃないっスか?」
それを聞いたネムの表情が、少し翳った。
「……僕としては、生き返らせた方がいいと思うんだけどねぇ。あの子達は、普通に……幸せに生きてくれるハズだったって思うんだ。考えてみてよ。まだ11年しか生きてないんだよ、あの子達。生きたかったって思ってたハズじゃないか」
ネムの意見も澪の意見も、何もおかしくはない。おかしくはないが、どうにも頷けない。
「……リンとトランに聞けたらいいのに」
そう呟いたクウは、寂しそうな目で窓から見える空を眺めていた。
「……二人に聞けるなら、か」
聞けるなら、どう答えるんだろう。仮にあの子達が「生きたくない」と答えたとしたら……
ボク達は、死の受け止め方を変える事になるのだろうか。
こう言う事を考えると終着点が見当たらなくて困りますよね?




