PHASE:2-6/家庭不破
「……何もしてあげられなかった事は、本当に申し訳ないと思ってる」
ロギはあっしの顔を見ようともせずに、うつむいていた。
こう言う時、普通に育てられた人はどうするんだろう。慰めるのか、だんまりを決め込むのか。……ああ、そもそもそんな事言われないか。
あっしは普通の家庭で育った訳じゃないから、こんな場面にいる。おかん一人に育てられ、おかんが死んだ後は兄貴と一緒に厳しい現実を見てきた。兄貴と緋煉が死んだ後も、それなりに山と谷がある人生を送っていたつもりだ。
……そんで、今度は谷だか山だかよく分からないのが来ただけの話。あっしはあっしなりに解決策を考えて、それを飛び越えたり、乗り越える必要がある訳だ。
この場合の解決策は、「とにかく感情的になる」である。この場合とは言ったが、何事も感情的になる事で解決してきた。何か困ったら感情的になる、それで全部どうにかなるんだ。
で、今のあっしは謝った事を恥だと感じていて、さっきから黙ってばっかのこいつを殴りたいとも思う。だから殴って、言いたい事言って、終わり。うじうじ悩んでる奴は嫌いだ。
早く実行に移さなきゃ、こいつはずっと黙り続ける。
「そぉい!!」
右ストレートをまともに喰らったロギは、サッカーボールみたいにぽーんと吹っ飛んだ。
「おい、よく聞いとけコロコロ虫」
困惑する奴にずかずかと歩み寄り、びしっと人さし指を向けてやる。
「あっしはな、父親がいなくてだーいぶ面倒な目に遭ってたんだ。見てたならそんぐらい分かるやろ」
「……」
「いたなら顔見せろや、話し掛けるぐらいしろや。……あんたがいないってだけで、辛い思いしてる奴がいたんだよ……分かるか?」
「でも」
地面を蹴り上げると、ロギの顔にまんべんなく砂がまぶされた。顔面を蹴らなかっただけまだマシだと思え。
「でもじゃねぇよ、バカ野郎!!あっしがあんたの娘名乗ってる以上は、あんたはあっしの親父なんだっつの!!それは兄貴も一緒や!!親父なら構えよ、面倒見ろよ!!そういうもんとちゃうのか!?」
数百年分の思いを全て吐き出す勢いで、あっしは怒鳴り続けた。
「他人のフリされるのはもう散々なんだよ、帰って来いや!!おかえりでも何でも言ってやる!!何ならあんたのために飯も作ってやらぁ!!
だからよ……いい加減何か言ってくれてもいいやろうが、親父!!」
ロギが腕で顔を覆っている。僅かに頬が濡れているのが見えた。男のくせに泣くなんて、みっともない奴だ。
「……ごめん……もう逃げない、から……これからはちゃんと、父親らしい事するから……」
「だから、何だよ」
奴の顔を覆っていた腕が下ろされる。
「……そんな風に、泣かないで……」
ごしごしと目をこすってからロギを強引に起こし、片手で担いだ。
「まぁ、考えといてやるよ。……『親父』」
男のくせにしてやたらと軽いけど、そんなんで大丈夫なのだろうか。帰ったら飯をたらふく食わせてやろう。
「ちょっと、流石にこれは」
「知らぬ!!」
抵抗する親父にはお構い無しに、あっしは騒霊街へと歩を進める。
「ほれ見ろ、これで解決だ」
崩れかかったビルの群れに向かって呟いた。
じっと見守っていたシクロトは、優しげな目をして消えていった。




