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BORDER:BREAK ~人魔幽界と目覚めた悪意~  作者: GAND-RED
PHASE:2/蝕む影の色
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PHASE:2-5/壊鬼日蝕

 巨大な樹に街が喰われていき、どうにかしようとしても全く歯が立たない。一体どうすればこれを退ける事が出来るだろう。ボクの力が通用しないのならば、何の力が通用するのだろう。

 ふと頭上を見上げ、ボクは絶句する。そこにいたのは……


「……っ!?」

 思わず飛び起きた。……せっかくの土曜日だと言うのに、変な夢を見てしまった。冷や汗が出る様な身体であれば、きっと滝の様に流れていた事だろう。

 中途半端に閉ざされたカーテンから漏れた光が、傍らで眠るクウの顔を僅かに照らしている。

 リストフォーンを見ると、丁度5時ぴったりだった。

「……なんで夢にまでキルカが……」

 おかげで食欲が無くなってしまった。こんな時間からする事なんて、ちょっと早めのご飯ぐらいしかないと言うのに。

 ……どうやら、ボクはすっかり千絋のいない朝に慣れてしまったらしい。

 いつからだろう、早くに目が覚めると、隣には千絋がいた。(何でも、ボクには夜遅くにおかしくなっていた時期があったらしい。だからボクが寝静まった頃に様子を見に来て、そのまま寝る様になったのだとか)

 あんまり可愛い寝顔だったから、バレない様にこっそり彼女の指を自分の指に絡ませようとした。

 その度に起こしてしまって、驚いて手を引っ込めるとふんわり笑って手を包み込んでくれたのだ。

 そんな彼女はもういなくて、代わりにクウがいる。彼女に手を握られるボクではなく、クウの手を握るボクになっている。

「……キミは、凄い子だなぁ」

 起こさない様に、ゆっくりと頭を撫でてみた。クウは夢の中にいるのか、幸せそうに寝息を立ててちっとも起きる気配を見せない。よく寝る子だ。

 こうやって余裕を持って見る事が出来ると言う事は、クウは沙羅じゃないと、ココロの底から思える様になっている証拠だろうか。確かに以前の様に怯えや恐れを抱く事は無くなった、けれど。

 ボクの意思とは相反して、右手が震えている。

『……目の前にトラウマもんの怪物がいるってのに、殺さねぇのか?』


 瞬きした次の瞬間、ボクは赤い劇場の中にいた。

どうやら、しばらく見ないうちに変化が起きていたみたいだ。座席の色が黒に変わり、モニターも巨大な窓になっていた。そこからは宇宙の様な空間が見える。

 奇妙な光景に息を飲むボクの隣で、ガシャガシャとうるさく羽をはためかせながら、ジギーは貧乏揺すりをしていた。

「おい、なんで殺さねぇんだよ。バケモンの名が泣くぞ」

 さも不機嫌そうに言って親指の爪を噛む彼に、ボクは首を振る。

「クウと沙羅は違う。それに、ボクはもう人を殺さなくていいハズだ」

「あぁ?」

 瞳の十字架が、禍々しい輝きを放った。

「くっ……!?」

 困惑している間に身体が座席から放り出され、床に倒れてしまう。ジギーはすかさずボクの腹を踏みつけ、きっと睨んだ。

 ここでは痛覚遮断が通用しない。強烈な痛みが、起き上がる事を許してくれなかった。

「……何のつもり?」

 少し前のボクなら、怯えて目を背けていただろう。けれど今のボクは目を背ける事なく、ちゃんと受け止めていた。

「ふざけんじゃねぇぞ、クソガキ。俺を散々苦しめた挙げ句、ココロに残すってのか?」

「……どういう事だ」

「考えれば分かんだろうが。今の俺はな、不必要なモンがクソほど嫌いだ。そんで、それを壊すのが最ッ高にエクスタシーなんだよ」

 見下す彼の瞳に、ボクは狂気と怒り以外の感情を見出だす。

 ……永遠に錆びない、終わる事のない悲しみ。

それはボクが抱えていたモノだった。

「……存在する事、消える事。両方許されねぇなら、主であるお前ごと世界をぶっ壊してやる。覚えてろ」

 最後に思いきり腹を踏みつけて、ジギーは消えていった。


「……クロト、クロトってば!」

 気がつくと、クウがボクの顔を覗き込んでいた。

「よかった、ちゃんと起きてくれた!今日のクロトはお寝坊さんだねー、もう8時だよ!」

 くすくすと笑うクウを見て、何だか申し訳ない気持ちになった。

「さっきのは夢……か?」

 腹部の痛みは、嘘の様に消えている。当然か。

「そうだ!ねぇ聞いてクロト、今日は変な夢みたんだよー」

「どんな夢?」

「えっとねー……」

 クウがぴょん、とベッドから飛び下りる。

「お行儀が悪いよ」

 捕まえようと腕を伸ばして、すぐにボクは固まった。

「おっきくて黒い木がぶわーってなって、街を食べちゃったんだよ!」


 ……右目……いや、それだけじゃない。右手もおかしい。

「……はは。変な夢、だね」

 黒く硬い殻に覆われた右手。

 視界の右半分、赤く染まった部分に映らないクウ。

 何気ない朝を食んだ闇を前に、ボクは乾いた笑みを浮かべる事しか出来なかった。

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