PHASE:2-1/審判不可避の不審龍
『塾』に向かったはいいもののそこにポルカはおらず、子供達に話を聞くと「仕事に戻った」との事でボクは急いで総合拠点の最上階に向かった。
最上階はガバメント・エリアの最重要階層であり、一般人の立ち入りは特別な場合を除いては認められていない。
ちなみにボクはある程度政治への参加が認められているから立ち入りは出来るけど、参加した事は一度しかなかったりする。議会で半ば冗談のつもりで週休7日制を提唱したのだが、追い出されたのだ。それ以降は一切参加しなくなった。
最上階らしく間近で雲が見えると言うのは凄いけどなぁ、と感心しつつ怯えていると、テラスでコーヒーを飲むポルカを見つけた。
「……ただいま、ポルカ」
茜色に照らされながらどこか憂いを帯びた表情で外を眺めていたポルカは、ボクを見つけるなり駆け寄ってきた。
「……?クロトさん、キルカは……」
「問題ない、ちゃんと捕獲してきた」
「ほ、捕獲?」
「とんだ変態だったね、家なんか外から中までボク一色だ。それだけじゃなくて性的に喰われる所だった。……四次元リュック!」
すぽん、と言う気持ちいい音と共に、リュックから拘束されたキルカが出てきた。
「フーッ!!フゥーッ!!」
恍惚の表情で何か言おうとしているキルカの口からボールギャグを外す。
「うわっ、ベットベトじゃないか……うへぇ」
ボールギャグが見事に唾液まみれになっていたのでティッシュで拭き、消毒液を吹き掛けてケースにしまった。
「んはーっ!!クロ尊い!!クロ尊いいぃ!!」
じたばたとのた打ち回り、キルカはたちまち警備ロボに囲まれた。
ああ、遠くでカラスの鳴く声がする……カラスが鳴いたら帰るべしって、どこかで聞いた気がするけど何だっただろうか。……帰る口実にはならないから気にしないでおこう。
「……ほら、見ての通り。ポルカ、次に会う時までにはどうにかしといて……もうボク、疲れたから」
手をひらひらさせて転移術式に向かう。テレポートが終わる直前に、「きーちゃん!!なんでそんな子になったの!!」と言う怒鳴り声が聞こえた。
「……さて、晩ご飯何にしようかな……え?」
総合拠点を出て雑踏の中を歩いていくと、檜を見つけた。
しかしその姿はずいぶんと変わっていた。萌木色の可愛らしいパーカーは真っ黒なモノになっていて、頭に生えていた芽も成長して黒い茨になっている。
そしていつも光を帯びていた茶色の瞳が、妖しい深紅になっていた。
「檜……?」
ボクの声が聞こえたのか、檜はこちらに振り向く。
「……」
しかし、彼女はこちらを少し見ただけで、ふらりとどこかへ行ってしまった。
……明らかに様子がおかしい。テトに様子を聞きに行くべきか、と思ったけどもうすぐ夜だ。明日に回しておこう。
……そうだ、オキシマを出る時に魚をもらったから、今日は海鮮丼でいいかな。刺身単品だとクウもお腹が空くだろうし。
……しかし、さっきの事もあってどうにも食欲が湧かない。ボクだけ刺身でいいや。
カラスがばさばさと羽ばたく音に不穏を感じながら、ボクは帰路についた。




