ACT:1-5/第二のクロト
後ろにいた幽霊達が一斉に跪く。クロトじゃないらしい女の子は、あっしの胸ぐらをがっと掴んでこう言った。
「……音邨 咲。お前は外界のみならず、こちらにとっても面倒事を増やしてくれた極悪人だ。本来ならボク直々に手を下すつもりだったけども、厄介な事に今年は『揺らぎの年』。0%に限りなく近いが、その罪を無しに出来る可能性がある。感謝しておけ」
「……分かったけどよぉ、クロト……」
「軽々しく名で呼ぶな、ボクを誰だと思ってるんだ?」
彼女はぎろりと睨んでこう言ってきた。目付きが悪いけど、これはこれですごく可愛い。
「……おい」
……いや、クロトだけど。そう返そうとしたあっしは、ある事に気づいた。
「……むいー」
「お前、バカなのか?ボクはそんな役職じゃあないぞ」
よく見ると、クロトとはアホ毛の形が微妙に違う。身長も2mmぐらいは上だ。それに、この子は「『Σ』なるモノから生まれた」とか言っていた。
「よしっ、決めた!「シクロト」!シクロトでいいや!」
クロトって呼んじゃダメ、ならシクロトはOKだろう。ソシャゲで打ったIDが使われてたら、適当な数字を付け足せばそれで通るのと同じだ。うんうん、我ながらとても頭が冴えている。
「お前……ぼ、ボクをバカにしてるのか!?ボクはこの世界の王だぞ!?王にそんなアホらしい名を冠するモノと本気で思っているのかぁ!?」
「主、落ち着いて」
「落ち着ける訳がないだろう!!……『命令(コード):01』!!ボクに従え、無礼者め!!」
シクロトは猛犬みたいに怒鳴り、抑えようと伸ばされたロギの腕はポッキーかなんかの様にへし折って、最後にあっしに向けて至近距離で変な光弾を投げつけてきた。当たったら死ぬ(……もう死んでるから成仏?)んじゃないかと思ったけど、光弾は痛くも痒くもない代物だった。
「土下座しろ、そして謝れ!!」
……と思ったら身体が勝手に動き、あっしは地面にでこを擦り付ける形になる。そして、
「ごべんなざい」
……と自分でも知らないうちに情けない声をあげてしまった。
「ふん、お前の様な奴にはその格好がお似合いだ。……興醒めした。ロギ、後はお前が話せ」
ぷい、と顔を背けてシクロトは音もなく消えていき、線香っぽい匂いが後に残された。こう言う匂いは好きなので、少し落ち着く。
ロギはあっしの方をちらりと見て、生意気にもため息をついてきた。
「……では、主の代わりに僕が話そうか。今年は千年に一度の『揺らぎの年』。罪人でさえ王座を勝ち取る可能性が与えられ、王でさえ更なる高みへ登る可能性を手にする。……第7141回、『千夜戦祭(サウザンド・バトル・ナイツ)』が明日から始まる。それが終わるまでは、外出許可を出そう」
キャシャーン!!とどこかで聞いた事のある音と共に門が開いた。
「外出が許されているのは日暮れから夜明けまでだ、後は各自好きにしなさい」
『ヒャッハアァァ!!祭じゃああぁぁ!!』
幽霊達と共にあっしは叫び、輝かしいシャバへと飛び出していった。