ACT:1-4/三賢龍
キルカを探しに民家のある方へ向かうと、ぞろぞろと龍人が出てきた。オキシマで暮らす龍人は、翼や尻尾を隠そうとしないらしい。
……異能者区域で暮らしている龍人は、ポルカ以外見た事がないけど。
「おや、ぬしは異能者かね?」
「……そう、です」
どう接していいのか分からず戸惑っていると、赤い角を生やした龍人が現れじっとこちらを見てきた。
「ほう、良い目をしている。……もしや貴殿、絶対王ですかな?」
「はい……」
ボクにしがみついて今にも泣きそうなクウをなだめながら、なんとか受け答える。龍人達は目を輝かせてさらに集まってきた。
「邪なる同族を打ち倒し、次元の向こう側をも征す絶対王よ!我ら龍は貴殿を歓迎する!」
「ささ、こちらへ!我らの教えられる事は全て教えましょう!」
「三賢龍様もきっとお喜びになられるハズだ!」
「わーっしょい!わーっしょい!」
何故か龍人達に胴上げされながら進む事になってしまった。何をどうしたら胴上げをして歩こうなんて考えになるんだ、龍人は胴上げが趣味なのか。
掛け声の度に町を見渡せるほど高く上げられ、もの凄い速さで落下したと思ったらまた上げられる……が繰り返される。とても怖い。
「クロト……たすけてぇ……」
「だ、大丈夫だからほら……うわあぁ」
「わーっしょい!わーっしょい!」
……断言しよう。船なんかより、こっちの方がキツい。胃の中のモノは船で綺麗さっぱり(どう表現しようがボクの勝手である。「ハチミツトースト角切りりんご入りヨーグルト濃縮トマトジュースetcに胃液が混ざったモノがボクの口を経由して」などと表現すれば眉をひそめる人だっているだろうし、これが一番なのだ)無くなったが、もし少しでも残っていたら……と考えるだけで鳥肌が立った。
『三賢龍様!!絶対王がお越しになりました!!』
天と地の往復はようやく終わり、ボクは丁寧に地面へと下ろされた。そこだけ丁寧にされても困る。
「うへぇ……」
「びえぇぇん!!クロトぉ!!クロトぉぉ!!」
クウは長い赤髪の龍人にがっつりホールドされており、ボクと離れた事がよっぽど怖いのか泣き叫んでいた。ふらつくのを我慢して返してもらおうとすると、赤髪の龍人は口を開いた。
「やぁ、『絶対王』死々王 クロト。お会い出来て光栄だよー。ワガハイは三賢龍『緋眼龍(ニル・クアール)』のイサキ。イサキおねーさんって呼んでねー」
「ぐぬぅっ……」
「ふえぅ……」
握手などはなく、イサキと名乗った龍人はいきなり抱擁してきた。胸が圧迫してきて、憎たらしいし何より息苦しい。クウ共々みっともない声をあげてしまった。
「待ってお母様……へくしっ、せっかくの異能者の客人だと言うのにそんないかがわしい格好は非常に宜しくないのでは……へくしっ」
「ホロロねーさまの言う通りだぞなマム。おぱんつも見えてるしハレンチ極まりないぞな」
背の高い青髪の龍人がくしゃみをしながら現れ、続いて金髪の小さな龍人が腕組みをして低空飛行で飛んできた。
「……うちの母が失礼な事をしてしまい……くしゅん、申し訳ございません。私は三賢龍『蒼牙龍(ガレード・クアール)』のホロロと言います……へくしょい!!」
「よーう絶対王君。ぞなは同じく『黄刃龍(ロイン・クアール)』のヌーぞな。ホロロねーさまとは違って頻繁にくしゃみもしないし、マムみたいにぎゅーぎゅーしないから宜しく頼むぞな」
ホロロとヌーはぺこぺこと頭を下げながら自己紹介してきた。
「どうも……あの、聞きたい事があるんですが」
「何これ」、と口に出そうになるのを押さえて、ボクは龍人語で書かれているらしい紹介状を見せた。オキシマと言う存在を知った時からずっと思い描いていた三賢龍のイメージと、目の前の彼女らはあまりにもかけ離れていたのだ。
「そう固くならなくていいぞな。ぞな達龍人は強い異能者大好きぞな、最強な絶対王君はもうファミリーみたいなモノぞな」
「クロトぉ!!怖いよぉ!!このおねーさんやだあぁ!!」
「この子も可愛いなー、おーよしよし」
二人はぐいぐいとボクの背中を押し、イサキは泣き叫ぶクウを背負って、伝統的な瓦屋根の民家に連れ込んでいく。
ボクは今の状況を、「地獄」以外の言葉で表す事が出来なかった。