ACT:1-1/龍と猫の島
覚束ない足取りで船を降り、口許を拭う。
「……うぇ」
「ん?そういや兄ちゃん、何か変な声出してたけど船苦手だったかい?」
「いえ……あとボク、女です……」
所々ボロボロになったセーラー服を着た船主に首を振り、判を押された切符を受け取る。人生初の船だったけど、とても景色を眺めてなんていられなかったしクウに見えない所では吐いていた。ビワマスさんアユさんその他琵琶湖に棲息する魚類甲殻類外来種クリーチャーさんごめんなさい、次からは泳いで行きます……と謝罪していると、クウに袖を引っ張られた。
「クロト、白いのとか黒いのがいるよ」
クウの指さす先には猫が5匹ほどいて、船に付けられたタイヤに乗っていたり、水揚げされた魚のおこぼれをもらったりしている。なるほど、溜まり場か。
「あれは猫だよ。オキシマは猫もいっぱいいるんだ。……お?」
コンクリートの上で昼寝をしていたオッドアイの白猫がむくりと起き上がり、こちらにやってきてまた寝そべった。しゃがんで身体を撫でてやると、ごろごろと喉を鳴らしていた。
……しかしこの猫、パンダ柄のスカーフを身につけているとはなかなかのおしゃれさんである。こいつが異能者だったら、気が合いそうだ。
「人慣れしてるみたいだね。……クウ、せっかくだし撫でてみなよ。うちで動物なんか飼えないんだし」
「わ、わかった」
クウはおずおずと手を伸ばし、白猫の頭をゆっくりと撫でた。
「にゃーん」
「ひゃあっ!?」
「大丈夫だって。……あれ」
暴れる様子も無かったのでしばらく撫でていると、白猫がもぞもぞと身体を動かしたので手を離してやる。
初めての場所で緊張していたけど、この猫のおかげで解れてきた。感謝の念を込めて、持ってきたおさかなソーセージ(5本入り・おまけシールつき 100円+税)を1本剥いて渡した。
「にゃん」
白猫は器用にそれを受け取り、むしゃむしゃと食べる。そしておもむろにスカーフを脱ぎ、ボクの足許に置いたかと思うと……
「我が名はトト。真の名はいずれ分かる事だろう。同志よ、また会う日までさらばだ」
流暢な日本語を話し、どこから出てきたのか白い翼を羽ばたかせて飛んでいった。
超次元を体感した瞬間だった。
「クロト、猫って羽が生えてて喋るの?」
「……普通は喋らないし、羽も生えてないと思うよ」
スカーフを拾い上げる。何か丸いモノが包まれていたらしく、広げてみると妙な球体の付いたストラップ……の様なモノがあった。
その球体は一見ラムネに付いているビー玉だが、覗き込んでみると、驚く事に青と白と紫、3色の光が漂っていたのだ。
「……何だろ、これ……」
謎の球体をとりあえずコートのポケットに入れて、ボク達は龍人が住む民家へと歩き出した。