森羅万象に意味なんてないけど結婚してください。
深夜テンションで書きました。ええ、深夜テンションです。
寒い冬の、夜の12時を少し過ぎた頃。
海を臨む崖の淵に、私は、靴を脱いで立っていた。
ここで死のうと考えていた。
しかし、いざ死のうと思うと、やはり怖い。
飛び降りようか、飛び降りるぞ、今に見てろ、と、心でこの無情な世界に向けてなんども宣言して、右脚を前に出すが、いや待て、と、脚を元に戻す。そんな動作を繰り返しているうちに、私は自分が情けなくなってきた。
その情けなさが、やがては『自分はこんなだから生きていても仕方ないんだ』という呟きに変わった頃、とうとう私は決心して、今までより大きく脚を踏み出そうとした。
「何をしているのか。」
突然、背後から聴こえてきた男の声で、その脚は再び元の位置に戻った。
振り返れば、まるでスパイ映画の主役がパーティ会場に潜入する時のようなタキシード姿の男が、無表情を携えて立っていた。
心中で舌打ちを1つ。
なぜ、こんなタイミングで人が来るのか。世界は己の命さえ自由にさせてくれないのか。
この理不尽な世への恨みと怒りで、頭の中が一杯になった。もはや、男のおかしな格好も気にならない。ここに、この時に人が来たことが問題なのだ。
「何をしているのか。」
男が、再度、妙に古めかしい口調で訊いてくる。
さて、どう答えたものか。
『死のうとしていました』なんて馬鹿正直に答えれば、常識的に考えて、きっと止められる。それは嫌だ。しかし、その時の私の思考はもはや泥で出来てダムの如く脆く、決壊寸前だったが為に、私は馬鹿正直に答えてしまった。
「私、死にたいんです。」
沈黙。男は表情を変えることなく、そこに立っている。と、男がおもむろに口を開いた。
「なぜ死ぬのかね。」
私は、少し考えてこう答えた。
「生きる意味が無くて、それが苦しいからです。」
冷たい風が吹き抜ける。
「では、生きる意味が有れば、君は生きていけるのかね。」
「そうでしょう。」
「馬鹿馬鹿しい。」
男は、私の意見を一蹴すると、一呼吸。一気に、捲し立てるように語り出した。
「人間に生きる意味なんてあると思ってるのかい。あるわけ無いじゃ無いか。そもそもこの世界の全て、森羅万象に意味なんて無い。我々人類が滅びようが、大地ではきっと何事も無かったかのように生物は存在しているだろうし、生物が全ていなくなっても世界は存在するし、時は止まらずに流れてゆく。我々が一般的に世界としている地球だって、宇宙にとってはなんの意味も無いし、無くなろうが潰れようが宇宙は変わらない。そう、私達が存在する理由なんて無いんだよ。そもそも無いのだから、考えても答えなんか出るわけが無い。出たとしてもそれは錯覚、虚像に過ぎない。」
ぽかん。と、頭にタライが堕ちるような感覚。私は呆気にとられて、眼前の奇妙な男を見つめた。
意味が分からない。それが私の心境だったが、そんな私の視線を、スピーチの続きを所望していると勘違いした彼は、また口を開く。
「そもそも、死ねば救われると思っているのか。おめでたい奴だ。仏教だとか基督教だとかでは、死ねば極楽か天国に行けると教えているらしいが、現実は違う。人が死ねば死人は消える。全ては闇に。いや、そいつにとっては世界が消えるんだ。何も残らない、無だ。怖いだろう?だから人は生きようとする。生きて、幸せになってそれを紛らわす。しかし、稀にお前のような阿呆がどうやったらそんな思考になるのか考えも出来ないロジックで正解の無い問いのありもしない解答にたどり着いて『死ねば天国いけて幸せになる』とか確証も無い戯言に掛けようとする。まぁ、私の予想では99%以上の確率で失敗するんだが、勝ち目の無いギャンブルをしたいなら勝手にやってくれたまえ。なに簡単だ。あと一歩踏み出して飛んで頭から落ちれば確実に死ねるさ。君の命と言うチップをホップステップジャンプというたった3ステップの動作で無いに等しい可能性に全力でブン投げるだけだ。ベガスのカジノまで行ってアメリカンドリームを掴みに行ったり、宝くじの列に並ぶよりかは時間も手間も金もかからない。あぁ、ただ私を巻き込むなよ。」
男の言葉は、あまりにも無茶苦茶で、あまりにも意味不明だった。
そして、次の瞬間、更に理解に苦しむ事が起こる。
「と、普段の私ならそう言って君が身投げするのを高所からトランポリンに飛び込むサーカスのピエロを見るような気分で手拍子しながら眺めていたのだが、君は女性として私の好みに最も近く、理想的であり、私の幸福を追求する為に必要なパーツであると思う。ので。」
男が、そう言っておもむろに膝を付き、私に手を差し伸べてこう言った。
「結婚して下さい。」
思わず、「え」と、言葉が漏れた。もはや思考はオーバーフローしていた。
*
拝啓。
お父様、は居ない。お母様、も居ない。では親愛なる友人、も居ない。
・・・誰かへ。
この度、私、久城 雅は、23歳にして結婚する事となりました。いや、しました。
お相手の名前は、フレイヤ・ヴァインベルガー。
どこかの国から違法入国してきた、白皮症による白い髪と紅い瞳がとても美しい女性です。
ええ、声を大にしては言えませんが。密入国者なんです。
なんでも、家族を支える為に出稼ぎに来たんだとか。しかし、そんな健気な彼女ですが、家族が全員お亡くなりになられるという訃報を受け取り、ついには自殺を図りました。そんな時、私が自殺を止めるように説得して(大嘘)それが切っ掛けで結婚しました。
ええ、交際はしてません。
そんなんで大丈夫なのか?って?
ええ、大丈夫ですよ。もう結婚して3ヶ月ですが、今日も、仕事から帰ってきた私を、美味しい手料理と共に優しく迎えてくれるでしょう。
「ただいま。」
「おかえりなさい、久城さん。」
いつ聴いても、流暢で美しい日本語です。きっと、家族の為に必死に勉強したのでしょう。その苦労が水の泡になった時の彼女の顔を見てみたかったですね。きっと可愛らしいんでしょう。そう、保護欲を掻き立てられるような。小動物のような彼女を想像すると、堪らなく興奮します。
「可愛いなぁ。可愛いなぁ。」
「や、やめて下さいよぅ」
私のより10センチ下の位置にある頭を撫でてやると、彼女は恥ずかしそうにして頭を振ります。もう堪らなく愛らしいです。あ、ちなみに、私の身長は183です。どうでも良いでしょうけど。
さて、その後、なんやかんやで夕飯を食べ終えた私達は、風呂に入って、ベッドルームへ。あ、もちろん風呂の時もベッドルームへ入る時も一緒ですよ。
で、ベッドへインしまして。それからは彼女が添い寝してくれます。ああ、至福。
え?なんで一緒に風呂入るのに、添い寝だけなのかって?
そりゃ、強制はしたくないですからね。ま、無理矢理ってのも悪くないですけど、彼女に嫌われるのは嫌ですからね。
ああ、明日はどんな1日になるんだろうか。今日も明日が楽しみです。
楽しんでいただけましたら幸いです。