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7(紙を折る)

 うん、それでね、もう帰るつもりだったのに、ずかすか教室に入ってきた町村に促されてまた席に戻って座らされて、渡された紙を折るようにいわれた。理由を聞くとかじゃない。そうしなきゃいけない雰囲気だよ。折り方もなんか面倒でさ、いわれるままに三角に重ね折りしたよ。ちょっとした厚みになった。

 町村は鞄から紙の包みを取り出して、ガサガサ開いた。中身は先の尖った銀色のハサミ。持ち手って普通、プラスチックじゃん。そのハサミ、全部、金属なの。それからラベルの無い小瓶を出して、中身をハンカチにしみ込ませて刃先を拭った。何って訊いたら「消毒用アルコール」って。確かにお酒みたいな匂いがした。

 町村は刃に触れないように、くるっと持ち手をこっちに向けて、だからわたしも刃に触らないように注意しながらそれを受け取った。

 ハサミ、見た目よりも、ずっと重たかった。それで今し方、三角に折った紙を切り抜けって。型紙を渡されてさ、鉛筆で書いたものだけど、人の形だった。切り絵を作れってことだって分かったんだけど、正面に座った無言の圧力がイヤな感じで。逆らう気もなく渋々と型紙を重ねて、さっさと終らせたくて線に沿って切ったよ。

 すごいね、良く切れるハサミって。さくって感じで切れるの。何回も折り重ねた紙なのに。でも形が形だからいうほど簡単ってこともないくて。「千切らないように」って強くいわれてゆっくり工作。「汗で濡らさないで」注文、多い多い。セーラー服の裾で指先拭いながら、チラチラ町村を見ながら間違えてない? これでいい? って確認のつもりだったんだけど、じぃって手元見られてやりづらいったらありゃしない。けど、じっくり町村を見たのは初めてだったような気がする。小学校も一緒だった筈なのに、同じクラスになったことなかったしね。なんだか日本人形みたいだって思った。でもこの日本人形ってのはホント無口で。いや、お喋りな日本人形も嫌だけど、髪の輪郭が夕日で赤く燃えていた。肌もかなり白いんだろうね、ティーカップみたいに。すっかり夕焼けって感じで鮮やかだなぁって思ってたら、「手元がお留守」びっくりするくらい無愛想。ウワサとか別にして、普通に近寄り難い、まぁ特殊女子だ。

 そんなんで切り抜き終ったら、「ん」って手を出して受け取ったハサミを紙に包み直し片づけながら、わたしにはそれを広げろって。「破かないよう注意して」

 また注文。はいはいってな感じで、折り目をゆっくり広げていくと、ぞろっとヒトが手を繋いで輪になってるの。自分でいうのもナンだけど、かなり良くできたと思うよ?

 町村はぐりっと首を巡らせて、「絶対に動かない場所はどこ?」って。意味分かんない。つまり、この切り絵を教室の何処かに隠しとけって話なんだ。だから「ロッカーの裏?」って。

 今も教室の後ろにあるでしょ、ねずみ色のスチールロッカー。上下二段でお腹の高さぐらいの。下の段に当たると使いづらいんだよね。奥行きもそれなりにあって、長くて重いから大掃除でも動かさないよね。春休みに業者さんがワックス掛けするときも確かそのままだったはず。だから壁とロッカーの隙間に、切り絵の人形を広げて──千切らないように注意して、そろそろっと差し入れた。

 そんで遅まきながら訊いたのさ、「これってなんか意味あるの?」

 なんていったと思う?

「面倒だから」

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