第8話 冒険者ギルドの美人受付嬢。
ホーム設定は終わった! お腹も程々に満たし、おやつまで用意出来た!!
そして何よりついに武器を手に入れた!! その名も鬼斬丸! あらゆるモンスターを切り裂き滅する正義の剣!! 待っていろモンスター! 僕の経験値と所持金になる為に!!
さようならコテツさん! いざ行かん冒険の日々!!
「ユウ、木の棒を振り回して何を得意げにしてるのかわからないけど、次は冒険者ギルドに登録に行くわよ。」
マヤが可哀想な子を見るように少し離れて僕を見ていた。
おかしいな、完璧に決まってた筈なのに。男心は女にはわからないという事か。
でも……
「モンスターと戦いに行くんじゃないの?」
木の棒を仕舞い、コテツさんに改めて別れの挨拶をしてから、てってってとマヤの側まで小走りで近づいて訪ねる。
「ええ。移動しながら説明するね。『セカンドアース』でレベルアップやアースを入手する方法が大きく3つあるんだけどわかる?」
「モンスターを倒す!」
「それが1つ目『バトル』ね、あと2つ」
他に……?
「…………冒険者ぎるど?」
「ユウ、意味わからずに言ってるでしょ」
「知らないんだからしょうがないじゃないかっ! 聞くは一時の恥だからセーフだよ!?」
「恥って自覚があるならいっか。あと2つは『クエスト』と『イベント』よ」
なにか馬鹿にされた気がするけど説明を聞かないのは一生の恥だからここは我慢。
「で、その『クエスト』を受ける事が出来るのが『ギルド』な訳。ギルド以外で発生する似たような物が全部『イベント』に分類されるけど、こっちは突発だったり全然情報が揃ってないから能動的には出来ないのよね」
ふむふむ、『ギルド』で『クエスト』を受けてアバターを育成するのか。
「具体的にはモンスターを100体倒すよりクエストを1個受けた方がレベルが上がりやすかったりするの」
「そんなに!? じゃあ是非行かないと!! えっと……冒険者ギルド?に!!」
マヤのマントの裾を掴んで引っ張りながら急かす。
「だから行くって言ってるじゃない。そもそもユウは何処に冒険者ギルドがあるか知らないでしょ」
そうだった。落ち着け僕。
それから暫く歩くとすぐ冒険者ギルドに到着した。
プレイヤーが行き来しやすくなるように自然発生したのだから当然なのかもしれないけど、露店通りと冒険者ギルドは割合近い位置にあるっぽい。
あれ? じゃあ結構離れた所にあったあのホテルはあまり冒険者は利用しないのかな……?
両開きの扉を開くと広めの多目的スペースという感じで左側にテーブルと本棚、掲示板らしき物があり、何組かが屯している。
右側にはカウンターが設置されているらしく、いくつかある受付にそれぞれ人がそれなりに並んでいる。
冒険者ギルドって荒くれなイメージだけどやはり受付にいるのは女性らしい。そりゃ話すならオッサンより女の子の方が良いよね! 何処の世界でもその真理は変わらないようだ。
その中の1つに並んで、行列の長さから結構待たされるのかなぁ…と手持ち無沙汰にしていたけど思ったより早く順番が着た。
「あら、マヤさん、今日はどのようなご用件でしょうか?」
受付の女性が僕たちを見て笑顔でそう言った。
この女性もマヤの知り合いらしい。ミディアムヘアでスーツを着こなした落ち着いた感じの女性だ。少し垂れ気味な犬のような耳が頭の上に載っているように見えるし犬系の獣人さんなのだろうか?
よく見えないけど尻尾もあるのかな?
コテツさん程じゃないけど胸も程々にスーツの下から自己主張している。
し、仕方ないだろ、健全な高校生男子はそういう所に目が行くんだ。僕だけじゃないはず!……多分。
しかしこんな綺麗な大人の女性と仲良くなれてるなんて、これが一週間の差か、うらやましい。
「ええ、新規加入者を連れてきました。ソニアさん、一通りの説明をお願いします」
「はい、了解しました。其方の方ですか? 初めまして、冒険者ギルド受付担当のソニアです」
落ち着いた声で僕を見つめ、優しく微笑んでくれるソニアさん。
そんな笑顔を向けられたら経験のない高校生男子は惚れてしまうじゃないか。
「は、はい、えっと、ユウです。よろしくお願いしましゅ……ごほんっ!……お願いします」
上手く誤魔化せた。ソニアさんは僕に微笑んだまま説明を続ける。
「ふふ……はい、ユウさんですね。本日は冒険者ギルドに新規加入して頂けるという事でありがとうございます。まず簡単に冒険者ギルドのシステムについて説明しますね。
冒険者ギルドではユウさん達のような国民でない方、冒険者の方に『クエスト』という形で王国内で発生する様々な問題に参加、解決して頂き、国や街に貢献して頂く為の組織です。
勿論、その際相応の謝礼を支払わせて頂いております。」
「私達のような流れ者、流民って呼ばれてるらしいけど、が就く事が出来るのはギルドのクエストのみ、と決まってるそうよ」
マヤがソニアさんに続いて言う。なるほど、そうやって国内のプレイヤーを管理して、言い方は悪いけど汚れ仕事を任せる事で国民感情もバランス取ってるのかな?
突然国内に出現した戦闘力のある集団の扱いとか難しそうだしなぁ……。でもさすがセカンドアース、細かい所の設定が作り込んである気がする。
まぁ他の仕事に就けないのなら冒険者になるしかない。いや、他の仕事をするつもりはないけど。
「ちなみに冒険者になる為の契約金や更新料等は一切かかりません。維持費は主にクエストの発注元である各種団体からの謝礼金の何割かを先に頂き、残りを達成した冒険者の方に支払う、という形で賄っております。
ですのでクエストを多く達成して頂けると冒険者ギルドとしても助かります」
「はい! がんばります!!」
いっぱいクエストをこなしたらソニアさんの心証も良くなるだろうしね!ここでがんばらなきゃ男じゃない!!
燃える僕を見てソニアさんはクスリと笑い、
「でも無理はなさらないようにしてくださいね。流民の方は不思議な加護で死ににくいと伺っておりますが、安全第一ですよ。」
うん、そうだった。僕はその加護? があるかどうかわからないんだし石橋を叩いて渡りながら良い所を見せないとな、うん。でも……
「死ににくい、って事は死んだ……えっと……流民?の人も居るのですか?」
「こちらの記録では把握しておりませんが、居なくなる方は時々いらっしゃいますし、全ての冒険者の方の生死を把握している訳ではありませんので。
流民の方にあまり選択の余地はないとはいえ、危険な仕事である事には変わりありません。
……特に貴女のような可愛らしい子がするような仕事ではないのですが……。」
という事はやっぱり僕みたいな状況の人が居たって情報はない訳か……残念。
ん? 最後何か言ったかな? 小さな声で聞き取れなかったや。
「ごめんなさい、最後聞き取れなかったんですが、なんでしょう?」
「あ、いえ、何でもありません。ともかく、クエストを受ける際も十分吟味して選んでください」
「はいっ!!」
と、ソニアさんはにっこり微笑んでくれた。耳がパタパタ動いてるのが少し気になるけど……。
大人の女性の笑顔って良いなぁ。
「それでクエストですが、あちらの掲示板に今発注されているクエストが貼り出されていますので、各自確認して、受付に持ってくる事で受注、達成して改めて受付に来て頂く事で報酬の支払い、という形になります。
クエストの内容はモンスター討伐が中心となっております」
ソニアさんの手をやる方にはさっきの掲示板と、それを見ている何人かの冒険者の姿が見える。つまりあの掲示板は毎日確認した方が良いんだな、うん。
「同時に複数のクエストを受注する事は可能ですが、それぞれ達成期限は決まっており、達成出来ない場合ペナルティが発生する事があるのでご注意ください。」
「ペナルティって?」
「いろいろです」
にっこりと微笑むソニアさん。今の笑顔の目が笑ってない気がする……耳もぴんと立ってて動いてない……苦労してるんだろうか? なんか怖い。
「ちゃ、ちゃんと出来る物を無理せずしましゅね」
「はい、よろしくお願いします。ちなみに複数受注は可能ですが、クエスト自体に制限レベルがあり、受けられるクエストと受けられないクエスト、というのはございます。
これは無茶なクエストを受けて亡くなる冒険者の方等を極力減らす為の冒険者ギルド側の措置となりますのでご了承ください」
「はい、わかりました」
僕だって絶対勝てないモンスター退治とか知らずに受けたくないからむしろ有り難い。
「ありがとうございます。もっと高レベルのクエストを、って方が意外と多くて、ユウさんのように受け入れて頂けると正直助かります。」
困ったような顔で微笑むソニアさん。やっぱり苦労してるらしい。受付嬢というのは何処でもそうなんだろうか? リアルの受付嬢の事情とかイメージの中でしか知らないけど。
「そんなにレベル以上のクエストってやりたがる物なの?」
「そりゃそうよ、私達は死なないんだし、試してみたくなるでしょ」
僕の質問にマヤが答える。そういえばそうか、死なないんだからやってみよう、ってプレイヤーは多いか。
僕は死んでもご免被る! いや、死にたくない!!
マヤの答えにソニアさんは又苦笑して、
「流民の方の加護を疑う訳ではありませんが、無理なクエストを受けて達成期限を守られないとこちらも困りますので」
冒険者ギルドとしては切実な問題らしい。そりゃそうか、クエスト失敗が続いたら信用問題だろうし。
「その点、マヤさんはクエスト達成率100%で、とても優秀な成績を残されてる冒険者なんですよ?」
「簡単なクエストしかしてないからですよ」
恥ずかしいのか慌てて訂正しようとするマヤ。
「それが出来ない方が多いのが現状ですから」
と微笑むソニアさん。くそう、僕もソニアさんに褒められたい。
「ちなみにパーティ単位でもクエストを受注する事は可能で、その場合は一番レベルの高い冒険者の方のレベルに合わせて受注する事ができます。又、そうしたパーティ結成等の交流の為、掲示板の前にはカフェスペースとしてテーブル席を用意し、飲食物の販売等もしてますから良かったら使って下さいね」
オススメはアップルティーです、とソニアさんは僕にウィンクしてくれた。
大人のお姉さんのお茶目な表情も良い。お金が出来たら是非飲もう、アップルティー。
「あとは受注したクエストのモンスターの資料等も掲示板横の本棚に用意してあり、閲覧は自由ですのでわからないモンスターの場合等は前もって調べておくと良いでしょう。
でも大事な資料なので汚したり、食べカスを付けたり、持ち出したりはしないようにはお願いします」
それは本当に助かる。ログアウト出来ない僕はWIKIや掲示板みたいな外部情報を得られないし、『鑑定』スキルもない。
ゲーム内で無料で情報が集められるならこれほど有り難い事はない。
「はい! わかりました!!」
「ふふ、ではユウさんを新規冒険者として登録しましたので、今後とも末永いお付き合いをよろしくお願いします。」
・『ユウ』は『冒険者』の称号を得た。冒険者クエストの受注、資料閲覧が可能になった。
ソニアさんの言葉に反応して、ピコンと視界の隅でメッセージが流れた。