第78話 それぞれの戦い。
第二試合『神羅万将』対『まおまお』は第一試合と違い、オーソドックスな形となっていた。
2人の前衛が突撃し、1人の後衛が魔法を発動させる。
ただし『神羅万将』の後衛が侍祭であり、前衛に支援魔法をかけるのに対し、『まおまお』の後衛は魔法師で、前衛が稼いだ時間で大魔法を発動させて勝負を決める戦略だったようだ。
支援魔法がある分、前半は『神羅万将』が押したが、それでも後衛までは届かず、『まおまお』の大爆火球が発動。その火球の大きさはホノカちゃんの使っていた物より一回り大きかった。
結果、『まおまお』の前衛を巻き込んで『神羅万将』全員が炎が舞い踊り、収まったリング上に立っていたのは『まおまお』の魔法師ただ1人だった。
というか魔法師怖い。僕もホノカちゃんを怒らせないように気をつけよう……。
そして第三試合が『白薔薇騎士団』対『ゆずっちNo1』。
第二試合もそれはそれで面白かったけど、やはり知り合いが出ているとなると気合いが変わってくる。
「ほう、彼等がユウの言っていた知り合いかい?」
隣の席で見ているシルフィードさんが『白薔薇騎士団』を見ながら僕に声をかけた。
「うん、リーダーがアンクルさん、その後ろの2人がリリンさんとダムさん。皆同じクランの人達だよ」
「なるほど。確かにリーダーの男性はよく鍛えられている。ユウが黒騎士の戦いを見た上で私の賭けに乗ってきたのも頷けるな」
いや、賭けに乗ってしまったのはその場の勢いとか、そういうので自分でもやっちゃったと思うんだけど……。
でもそうやって自分の知り合いを褒めて貰えるのはやっぱり嬉しいなぁ。
と思っていると試合が開始されたみたいで歓声が上がる。
アンクルさん達は全員前衛だけど、『ゆずっちNo1』の方も同じだったようだ。と言ってもアンクルさん達が騎士にしては軽装な鎧なのに対して『ゆずっちNo1』は全員がクロノさんみたいなごっついフルフェイスの全身鎧を身に纏っている。流石に色は黒じゃないけど。
見た目だけだと『ゆずっちNo1』の方が騎士団っぽくもある。
明らかに鈍重そうな『ゆずっちNo1』に対してリリンさんは飛び込んでいって愛刀を振り回す。
けど、流石全身金属鎧。表面を凹ませても中のプレイヤーにまで殆どダメージは与えられてるように見えない。
逆に『ゆずっちNo1』の戦士の振り回すハルバードで危うく吹き飛ばされそうになるリリンさん。
見た感じアンクルさんもダムさんもパワーファイターじゃないし、ここまで防御を固めた相手ってもしかして相性がすごく悪いんじゃないだろうか?
いつもアンクルさんって余裕で戦っている所しか見た事なかったけど、もしかして負けちゃうんじゃ……と不安に胸が苦しくなる。
と、一瞬アンクルさんと目があった気がした。僕を安心させるように微笑みかけて、それから散歩に行くように軽い足取りで再び『ゆずっちNo1』の方へと歩いて行く。
当然ハルバードを振り上げる『ゆずっちNo1』の戦士達。
その瞬間、アンクルさんのフランベルジュが閃き、ハルバードが地面に叩き付けられる頃にはアンクルさんは元の立ち位置まで戻っていた。
「必殺、間接通し」
アンクルさんがそう呟くと同時に『ゆずっちNo1』の戦士2人の体中の間接から血が噴き出し、崩れ落ちた。
訳がわからずシルフィードさんの方を見る。
「あれは……恐らく高速の剣技で全身金属鎧の間接部や鎧の隙間を狙って剣を差し込んだ……のか? 顔に似合わず恐ろしい事をする人物だな」
シルフィードさんも驚きながらも解説してくれた。
なるほど、それであんな倒れ方になったのか……笑顔でそれをしちゃうアンクルさんが正直少し怖くなった。
今も爽やかな笑顔でこっち見て手を振ってる。うん、いつもの変わらない笑顔だ。
ちょっと引きつりながらも僕も手を振り替えした。
と、『ゆずっちNo1』の残った最後の1人が奇声を上げて突撃して来た。
それを見たダムさんが何か球体を投げつけ、突撃してきた戦士の顔面に直撃して割れる。……いや、割れたというより、戦士の顔面にへばりつくように広がる。
さっきのアンクルさんのとは違った意味で訳がわからず見ていると、戦士はすぐに藻掻き始め、ハルバードを落として兜の上の何かを剥がそうとしているが、取れないようだ。
何か粘着性の液体か何かなんだろうか? 見てても苦しそうなのがわかる。
結局フルフェイスの兜を取り外してしまったが、それでも顔面に貼り付いた何かは外れず、どうやら口と鼻が塞がってるように見えた。
「そのままだと溺死するよ~? 負けを認めた方が良いんでない?」
藻掻く戦士を眺めていたダムさんは降伏を勧める。
やはりあの液体か何かで口を塞いでいたみたいだ。
しかしダムさんの降伏勧告を聞いた戦士は逆に怒りの形相でダムさんに飛びかかる。
「必殺っ!! 強撃っ!!」
飛びかかった戦士の顔面にリリンさんのグレートソードの一撃が叩き込まれ、勝負が決まった。
さすがに兜を外して素顔の状態で顔面に大剣の一撃は耐えられなかったようだ。
それにしても……
「ユウの知り合いというのは随分とえげつない戦い方をするのだな」
シルフィードさんが苦笑しながらそう感想を漏らした。
僕も同意見です。
第四試合は『エルフルズ』対『銀の翼』……だったんだけど……。
色気ムンムンの女性3人組のエルフルズはリングに上がってからずっと観客へのアピールをし続け、『銀の翼』……というかマヤは物凄い怖い目線で観客席を睨んでいる。
僕もその視線が怖くてフードを被って隠れてしまった。
そして試合は『銀の翼』の勝利。というか『エルフルズ』が開始早々ギブアップして終了した。
「えっと……今のは一体……?」
状況がわからず解説のシルフィードさんに尋ねる。
シルフィードさんも苦笑していた。
「恐らくだが……『エルフルズ』は『本戦出場』のイベント報酬目当てでの参加だったのではないだろうか? その上で本戦のレベルを見てそれ以上は望まず棄権したんだろう」
「なるほど……そういうのもあるんですね」
「あまり褒められた行動ではないが……ルール上は可能だな」
確かに少し肩透かしを食らったような感じだ。コテツさんも消化不良で暴れ足りないとか言ってそう。
と、『銀の翼』の皆の事を考えていて、さっきのマヤの様子を思い出す。
あれは一体何だったんだろう? 伝言メッセージで聞いておいた方が良いかな?
そう思ってウィンドウを開くと、大量の伝言メッセージが届いていた事に気付いた。
マヤから1分おきに受信していたようだ。あとコテツさん、ノワールさん、アンクルさんからも数通来ている。
ざっと目を通すとどうやらお昼に僕が人に追われてるのを見て心配してくれていたようだった。
最後の方のアンクルさんのメッセージで白薔薇騎士団で安全に街を歩いている僕を発見して、捜索を中断、その旨を『銀の翼』にも伝えた事が書いてくれてあったけど……それでマヤが心配してくれてたのかな?
なんだか悪い事をしてしまった。
急いでマヤ、コテツさん、ノワールさん、アンクルさんにお詫びのメッセージを送る。
2秒でマヤからのお怒りのメッセージが返ってきた。
曰く「危機感が足りない。」「人の居ない所に行かない」「人混みにも行かない」「危ない時は走って逃げなさい」「すぐにホームに帰ってきなさい」「定期的に連絡を忘れない」「知らない人についていかない」「何か貰っても信用しない」「世の中オオカミばかりなんだから」えとせとらえとせとら……。
もし目の前に居たら正座させられていたかもしれない……。今が大会中で良かった。
でもマヤは僕の事をなんだと思ってるんだろう……高校生にもなって、しかも男としてそこまで言われるのも何だか納得はいかない。
あの人の波が怖かったのは事実だし、伝言メッセージに気付かなかったのは悪かったけど……。
メッセージを見ながらそう愚痴ると、シルフィードさんがそんな僕を見て苦笑した。
「ユウはそのマヤという子に愛されているんだな」
「あい……?」
シルフィードさんの見当違いな発言に僕は顔をしかめた。
「ん? 違うのかい?」
「全然違いますよぉ。マヤはただの幼馴染みだし、結構僕にひどい事言うし、酷い目に遭うし、すぐ怒るし、説教されるし、」
「…………違うのかい?」
「違うでしょ?」
「ふむ……そうなのか」
どこか納得いかないような顔をしているシルフィードさん。
シルフィードさんの恋愛観は少しおかしいのかもしれない。イケメンだしお金持ちっぽいし、やっぱり普通とは違うのかな?
僕も恋愛については詳しくないからよくはわからないけど。




