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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第四章 転職祭
80/211

  閑話 エイプリルフール顛末。

「ユウさんっ!」

 いつものように冒険者ギルドへ向かう途中、突然僕は聞き慣れた可愛い声に呼び止められた。

 振り向くと想像通りの人物が満面の笑みで立っている。


「おはよう、タニアちゃん。今日は何だかご機嫌だね」

「はいっ! えっと、それでちょっとユウさんにお願いがあるんですっ!」

 我慢出来ないようで溢れる笑顔で僕に抱きついてくるタニアちゃん。

 可愛い子に懐かれるのは正直気分が良い。


「僕に? 何だろう?」

「あ、えと……こっちに……」

 僕に抱きついたまま、路地裏の方に僕を引っ張っていくタニアちゃんに抗う事なく付いていく。

 ちょうど日陰になった路地裏は汚れている訳ではないが人通りもなく、大通りの喧噪からも離れて僕とタニアちゃん2人きり不思議な空間を作り出していた。


「それで、何の用なの?」

 状況的にみて他人に聞かれたくない話なのだろうと思いつつ、僕はタニアちゃんに尋ねた。

 僕の腕の中で少しモジモジしていたが、それでも口元は笑ったまま、タニアちゃんが僕を見つめる。


「その、やっとお姉ちゃんに許して貰えたから、ユウさんに知って欲しい事があって……」


 そう言うタニアちゃんの頬は少し上気していてちょっと色っぽい。

 ってアレ!? もしかしてコレってアレじゃないのか!?


 路地裏、美少女と2人きり、その美少女は頬を赤らめて、僕に知って欲しい事がある。


 人生初の女の子からの告白っ!?

 相手がまだ子供で、ゲーム世界で、NPCなのが残念だけど、それでも嬉しい事には変わりないっ!

 そしてここは大人の男性として優しく受け止めて傷つかないようにいなしてあげなくてはっ!


「なななな、何かな?」

 僕は平静を装いつつ、タニアちゃんを促す。


「その……実は今まで言えなかったんですけど……」

「う、うん……」

「私……実は…………男の子なんですっ!」

「そっか、その気持ちは嬉し…………へ?」


 おおおおお、男の子? ってアレだよね? あれ? タニアちゃんが? え? どういう事!?


「ずっと、お姉ちゃんに秘密にしなさいって言われてたんだけど、ユウさんになら打ち明けて良いって」

 目に見えて狼狽する僕に嬉しそうにタニアちゃんは言葉を続ける。

 ソニアさんに言われて女装してたって事なのかな?


「ど、どうしてそんな事を……?」

「…………ぷっくく……あはははははっ」


 女装していた真相を尋ねようとした僕に、抑えきれないように吹き出し、笑い出すタニアちゃん。

 カミングアウトからの爆笑について行けず、笑い続けるタニアちゃんを呆然と見つめる。


「ふふっ、今のは『嘘』ですよ~」

「…………へ?」


 未だ笑いが収まらないタニアちゃんはそれでも笑顔のままで説明をしてくれた。


 曰く、王都テランでは年に一度、嘘をついて良い日というイベントがあるらしい。

 と言ってもあまり大袈裟な物や被害が発生する物は当然罰せられる訳だけど、それでも国民、特に子供達はその日に普段禁止されている『嘘』を言い合って楽しむのだという。


 そして今日がその『嘘をついて良い日』であり、僕はまんまとタニアちゃんに騙されたという訳だ。


「というかユウさんひどいです! 私の事を男の子だって信じちゃうなんてっ!」


 ひとしきり笑った後、今度は頬を膨らませて怒るタニアちゃん。

 でもタニアちゃん位の年齢だと出る所も出てないしギリギリ性別は偽られてもわからないから仕方ないと思うんだけどなぁ……。それでも男の子だとしたら美少年すぎてアレだと思うけど。


 でもこんな時そういう事を言っても女の子を怒らせるだけなので男がする事は謝罪しかない。


「ご、ごめん。タニアちゃんの嘘が上手だったから、すっかり騙されたよ……」

「うー……じゃあ、許してあげます」


 そういってタニアちゃんは再び笑顔に戻ってくれた。

 やはり女性が怒った時は男性が謝るというのは正しいようだ。

 そうして笑顔のままのタニアちゃんと別れ、僕は1人大通りへと戻った。




 しかし今日が『嘘をついて良い日』だったなんて知らなかった。

 リアルだと四月一日がそうだけど、『セカンドアース』でもそういう日があるんだなぁ……。


 そしてそうと知ってしまったからには僕も何か嘘をつきたくなるのが人情という物だ。


 問題はどんな嘘をつくかだけど……。やっぱり人を傷つけるような嘘や大袈裟な物はダメだよね。それでいて驚いて貰ったり楽しんで貰えるのが良いんだけど……そんな嘘って何だろう?


 …………困った、思いつかない。


 うーん……何か……人をびっくりさせて、でも実害が無くて……うーん……


「お、ユウじゃねーか。どうしたそんなウンウン唸って」

「コテツさん」


 悩みながら歩いていたらコテツさんの露店の前まで来ていたらしい。

 しまった。まだ嘘を決めてないのに知り合いに会ってしまった。何か良い嘘をつかないと……あ、そうだっ!


「こっ、こてっこてつしゃん!!」

「ん? なんだ?」

「今まで黙ってたんですが、実は僕、リアルじゃ女の子だったんですっ!!」

「…………お、おう」


 僕の嘘を聞いて驚き呆然としているコテツさん。

 ふっふっふ、作戦大成功だ。

 僕がタニアちゃんに騙されたように、同じ嘘でコテツさんを見事騙してしまった。

 アバターが男性体で幼馴染みのマヤからは僕が男性だと聞いていてもリアルの性別を調べる術はないんだから、あとは僕の話術次第でこうして騙す事も可能なのだ。

 あぁ僕って詐欺師の才能もあるのかもしれない。自分の才能が怖い。


「じゃ、じゃあそういう事でっ」

「あー、あぁ、わかった」


 すっかり騙されているコテツさん。

 真相をばらすのは夜にしておこうかな。




 次に出会ったのはアンクルさん、リリンさん、ダムさん他白薔薇騎士団の方々だった。

 ふっふっふ、次の獲物はアンクルさん達か。僕の話術に騙されると良いっ!


「これはユウ様、ごきげんよう。良い笑顔をされておりますが何か良い事がありましたかな?」

 いつもと変わらないアンクルさん。しかし僕の方は笑顔だったらしい。いけない、顔に出てしまっていたようだ。平常心、平常心。


「こんにちわ、アンクルさん、皆さん。えっと、実は今日、皆さんにお伝えしたい事があって」

「ほほう、何でしょう?」

「実は僕……女の子だったんですっ!!」


 僕のカミングアウトに言葉を失う騎士団の皆さん。それはそうだろう、昨日まで男性だと思っていた人物に突然女性だと言われて驚かない方がおかしい。


「えっと……それは……一体?」

 それでも一番最初に立て直したのはやはり騎士団長だからか、アンクルさんだった。

「そ、その……これまでは秘密にしてたんですが、親しい人に言ってみようか……みたいな……とか?」

「『親しい人』っ!! ……何という有り難いお言葉っ!!」

 何故か身体を震わせて泣き出し喜ぶアンクルさん。……な、泣かれるとは思ってなかったんだけど、ちょっとコレはやりすぎただろうか?

 あ、後ろの騎士団の皆さんも泣いたりしてるっ!?


 ど、どうしよう……これはちょっと大事になってる……んだろうか? すぐにネタばらしした方が良い?

 でも「うそでしたー」と言う空気でもなくなってるような……。


「あら、そこにいらっしゃるのはユウじゃなくて? こんな所で何を……って本当に何をしてらっしゃるの? ……って、あああああ、アンクル様までっ!?」


 僕がどうやってネタばらしをしようかと悩んでいると、更に声をかけられた。

 そちらを見ると涙を流している白薔薇騎士団、特にアンクルさんを見て慌てているシェンカさんが居た。


「えっと……その……アンクルさん達に、僕が女の子だって言ったら、こうなったんだ」

「……それでどうしてこうなるのか、よくわかりませんわね」

「うん……僕もよくわからない」

「まぁ、いいですわ。ここは(わたくし)が……っは! そ、そうですわ、こここここ此処は(わたくし)が何とかして差し上げますから、ユウはもう行かれると良いですわねっ!!」


 何か名案を思いついたようにそう捲し立てるシェンカさん。

 確かに今はシェンカさんに任せた方が良いだろうか?


「うん……じゃあ、お願いします」

「! おまかせあれっ! ささっ、アンクル様っ! 騎士団長がこのような往来の真ん中で泣いていてはいけませんわ。わわわわ(わたくし)とあちらのカフェにでも」

「おぉ……これはシェンカ殿。いつこちらに……」


 これ以上ない程幸せそうな笑顔でシェンカさんがアンクルさんを連れて行く。……これはこれで良かったのかな?


 夜には落ち着いてるだろうし、その頃に伝言メッセージでネタばらしをしておこう、うん。




 そうして僕はソニアさん、宿屋のおかみさん、偶然出会ったクロノさんまで見事な話術で騙しきり、『嘘をついて良い日』をやりきってホームへ帰ってきた。


「ただいまー」

「あらユウ。おかえり」


 ホームにはマヤ、コテツさん、ノワールさん、ルルイエさん、サラサラさんが居た。

 もう夕方だし、コテツさんは一度騙したし、マヤはこの嘘じゃ騙せないからもう『嘘をついて良い日』はおしまいかな?


 そう思っていると、マヤが『にやぁ』と笑った。

 こ、この笑い方は……マズイ、何か身の危険を感じるっ!?


 と思った瞬間、僕はノワールさんに腕を抱きしめられてしまった。

 ノワールさんの胸が僕の腕に当たって、な、なんだこれ!? 罠かっ?! 罠なのかっ!?

「ユウ、お風呂行こう」

「……おひゅろっ!?」

「ユウちゃんとお風呂に入れるなんて楽しみね~。お背中流して貰おうかしら~」

 僕の反対側の腕を抱きしめながら楽しそうにそう呟くのはサラサラさん。


 両手に花なんだけど……これは逃げられない!?

 というか、一体どういう状況なんだこれっ?!


「ユウは『女の子』なんだから一緒にお風呂入っても大丈夫よね~」

 そう言いつつにやにや笑うマヤ。

 その言葉を聞いて僕は血の気が一気に引く。慌ててコテツさんの方を見つめた。


「コテツさん、もしかして……」

「ん? あぁ、さっきの話なら皆にもちゃんと伝えたけど……まずかったか?」


 こ、これが『嘘』の恐ろしさかっ!?

 しまった、まさかこんな事になるなんてっ!?


「あ、あの、あの話は、今日はその、『嘘をついて良い日』でっ」

「ユウ」

 慌てて弁解しようとする僕の言葉をマヤが遮った。


「その『嘘をついて良い日』って話……『嘘』よ」

「えっ!? そうなのっ!?」

「勿論嘘よ」

「どっちがっ!?」

「まぁまぁこんな美人さんに囲まれてお風呂入れる言うんなら、ユウっちには天国なんやし、どっちでもええやん?」

「よくないよっ!?」

「ユウ、私達とお風呂、イヤ?」

「あ、や、イヤじゃなくて、その、でも」

「なら問題ないわね~」

「ゲームコード的にあるんじゃないかなっ!? ちょっと待っ……」


 混乱する僕を皆で抱きかかえるようにしてお風呂へと連行されて行った。

 その後お風呂場で僕の悲鳴が響き渡る事になる。




 結局その後も僕は嘘をついた人達への弁明と謝罪に走り回る事になる。

 その大半の人が、僕が何を謝ってるのか、何を嘘をついていたのかよくわかってない感じだったから余計にこんがらかって大変だった。


 結論、『嘘をついて良い日』でも嘘をつくのは気をつけよう。

 本当に『嘘』ってむつかしい……。





 

風邪引き継続中のリハビリついでに閑話閑話。

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