第7話 露店通りと最強装備。
タレの照りが虹色に輝き、香ばしい匂いが食欲をそそる。串に刺さってでっかい肉に小さな口を精一杯開けてかぶりつくと口いっぱいに広がる肉汁の甘味と旨味。タレに香草を使っているのか肉汁たっぷりなのに脂っこくなく、どんどん食べられる。つまり
「美味ひい……っ!!」
ただの肉の串焼きかと思ったらこんなに美味しいとは。空腹を抜きにしても美味しいですよ? セカンドアースに来て良かった! 本当に良かった!!
両手に肉串を持ち、交互に食べる。こんな幸せがこの世になったなんて!ゲーム世界ってこの世って事で良いのかな?
「ほらユウ、何やってるのよ、口元にソースがべったり。」
あぁうるさい。こういう串焼きみたいな料理は豪快に食べるのが男らしいのだ。
マヤに無理矢理ハンカチで口元を拭かれてしまった。それを見て店主のオッサンに笑われてしまう。心外だ。
「あぁスマンスマン。あんまり美味しそうに食べてくれるから、ついな。お詫びにオマケしてやるよ。ほれ」
「!……ありがほう」
僕が憮然としていたからだろうか? オッサンがオマケしてくれた。いい人だ! 両手に串、口内にたっぷりのお肉が詰まったまま、なんとかお礼を良い、串の乗った容器を受け取る。
でもそんなに食べられないよ?
仕方なく食べられない分はアイテムウィンドウに放り込み、両手の串を食べながら武器露店に向かう。
なんでもマヤが普段懇意にしている鍛冶系のプレイヤーが居るそうだ。
鍛冶かぁ……生産系も良かったかなぁ……盛り上がる筋肉から振り下ろされるハンマー、飛び散る火花と熱気と汗、鍛冶師も男の職業だよねぇ。
稀少金属を求めて色んな土地を巡り、モンスターと戦い、オリジナルの最強武器を鍛え上げる……格好いいなぁ……。
「あ、コテツさん。よかった、今日もログインしてたんですね!」
目的の露店に着いたらしい。なんとか串を全部食べ終え、口元を拭きながら僕もそちらに目を向ける。
「よう、マヤ。昨日ぶり! 又装備を新調するのかい?」
「昨日買ったばかりじゃないですか。それよりちゃんとクランチャットを有効にしておいてくださいよ。連絡取れなくて困るんですから」
「いいじゃん。アレって突然声が聞こえてくるから慣れなくてさぁー。ん? そっちの子は?」
話題を変えようとしてるのか2人が僕の方を見る。
「もう……。お客さんの紹介ですよ。この子……ユウです。ユウ、こちらが私の所属してるクランのコテツさん」
と、前に押し出されてしまった。
「ふぅん……初心者ローブ……後衛職? あたしの所に来るって事は術師じゃなくて侍祭かね?」
上から下まで舐めるように僕の事をみつめる二つの目。
僕も負けじと見返そうと思ったけど難しかった。
何故ならその目の持ち主は身長が高く、僕の視線の位置には溢れんばかりの二つの果実。
そう、コテツさんは女性だった。
しかも水着かと思うようなヘソだしタンクトップにカットジーンズ。胸が大きいのは勿論、腰も細くて腹筋が浮き出てるし太股もがっしり太い。赤いウルフヘアに日に焼けた肌が健康的な色気を醸し出している。
上から下まで目のやり場に困る。こっちは健全な高校生男子なんだから。
見てるこっちが赤くなってしまう、ゲームだから大丈夫って考えなんだろうか?
「嬢ちゃん、あたしは鍛冶師のコテツってんだ。よろしく!!」
「嬢ちゃんちがう! 侍祭のユウ、どう見ても健全な男子だよっ! よろしくお願いしますっ!!」
「どう見てもって……」
コテツさんが困惑気味に僕を又僕を凝視する。そりゃローブ姿でわかりにくいかもしれないけど、こういう事は最初にハッキリ言っておかないといけない。
「そういうプレイなんで気にしないでください」
見かねたマヤが助け船を出す。なんだろうプレイって?
「そういう事ならまぁ構わないが……で、ユウだっけ? あんたの武器が欲しいのかい? どんなのが良い?」
「あ、うん。えっと……鈍器で……えっと……」
よく考えたらどういう武器があるのかとか全然知らない。侍祭が刃物を持てない、くらいしか知らない。
困ってコテツさんとマヤを交互に見ながらあたふたしてるとマヤが口を開いた。
「筋力が低いから軽めの鈍器で、出来るだけ威力重視でお願いします」
なるほど、そうやって注文するのか。
「となると……これとかどうかな?」
ドスン、とどこからともなく鈍器が飛び出してきた。その動きに合わせてコテツさんの大きな2つの膨らみが目の前で上下に揺れる。
本当に揺れるんだ! バーチャルリアリティの迫力は伊達じゃない!! ゲーム世界万歳!!
関係ない所で感動してしまったけど、今は武器だった。1m程の金属製の棒で持ち手があり、先端が球状に膨らんでいる。メイスだろうか?
手に取るとポップアップした名称は『Lv3メイス』と表示されている。
んだけど……
「お、重い……」
振り回すどころか手に持っただけで先端を持ち上げる事が出来ない。
その姿をマヤがにこにこと、コテツさんがあきれ顔で見ている。
「ユウは本当に期待を裏切らないね」
「いくら筋力初期値の侍祭だからってそりゃ筋力なさすぎだろ……」
僕のせいじゃないやい。それにしてもやっぱり僕の能力値は初期値にしても異常なのか。
やっぱり前衛で鈍器を振るい、後衛を癒す戦神官とかは夢の又夢かな……
その後コテツさんがフレイル、モーニングスター、はては棍棒まで出してくれたけどどれも重くて振り回すのは無理そうだった。
「もうコレくらいしかないぞ」
「うん……これなら……なんとか……」
60cm程度の木の棒、棍棒と呼ぶべきか杖と呼ぶべきか木刀と呼ぶべきか、これなら僕でもなんとか取り回せそうだった。
滑らないようにコテツさんが持ち手に布を巻いてくれる。『Lv2木の棒』が完成した。
「それで、これ……いくら位だろう?」
「そんなので金は取れねーよ。鍛冶師として殆ど加工した訳でもないし。好きに使ってくれていい。……どうしてもってんなら何か良い素材が入ったら持ってきてくれたり、次ウチで買ってくれれば良いから」
それは有り難い。ありがたいけど……むやみに物を貰うとかは初心者といえど良くないと思う。
良くないと思うけど……実際問題僕の所持金は0Eである。値段を付けられても僕にはマヤに頭を下げて借りるという選択肢しかない以上、どう言えば良いのか頭を悩ませる。
うんうん唸っていると、コテツさんがぽんと僕の頭に手をおいた。
「じゃあさ、武器だけじゃなくて防具を買い取ってくれないか? どうせこの後防具も買いに行くつもりだったんだろ?」
と、アイテムボックスから一着のローブを取り出す。
「あれ? コテツさん縫製系の生産スキルも取ったんですか?」
ローブを手にとって不思議そうにマヤが呟く。
「いや、コレは昨日ソロで狩りに行って手に入ったレアドロップ。でも後衛用のローブだし、私には着れないから売り飛ばそうと思ってたんだ。
ユウには使えそうだし、買い取ってくれたらあたしの手間も省けて助かる。どうだろう? レアドロップだけあって防御力も耐久性も申し分なしだぜ?」
「えと…それで良いのなら……」
いいのかな? とちらっとマヤを見ると笑顔で頷かれた。
なんでそんな良い笑顔なんだろ?
「じゃあ木の棒とローブ合わせて50万アース、の所をまけて45万アースでよろしく!!」
「はい、取引ウィンドウで決済しますね」
マヤとコテツの間で取引が完了し、僕に木の棒とローブが手渡される。
ローブの方は『Lv5純白のローブ』と言うらしい。確かに真っ白だ。洗濯が大変そう。
早速装備を選択すると身体が僅かに光ったかと思うと着替えが完了していた。ゲーム世界万歳。
でも……これは……
「ねぇマヤ……これって女の子用のローブじゃないの?」
「そんな事ないわ。女性用のローブをユウが着れる訳ないじゃない」
そっか、そうだよな。もし着れたらそれは変態だ。
でも真っ白なローブはコレまで以上に裾が広がってスカートのようになっている。袖がまた少しぶかぶかなのはサイズが合ってないんだろうか? 裾は地面に擦ってないから問題ないけど……随所にあるリボンやレースがローブというよりロリータファッションを彷彿とさせる。
「うん、やっぱユウに似合ってたな。レアドロップとはいえ似合う奴に使って貰うのが一番だ」
「そうね、ユウはやっぱりこういう時期待を裏切らない。」
マヤとコテツさんの評価も上々みたいだ。けど、僕としてはこれはちょっと……でももう支払いも終わって譲ってもらったレアドロップを返す事はできない。
ちょっと恥ずかしいけど気にしないようにしよう、うん。
どうせ自分の見た目なんて自分ではよく見えないんだし!
「コテツさん、ありがとう! 大事にするよ!!」
「いや、防具はさておき、武器はさっさと卒業してもっと良いのをウチで買っとくれ」
ですよねー