第71話 黒騎士語り。 前編
俺はVRMMOが大好きだ。特にファンタジーなら最高だっ!
剣と魔法の世界、様々な種族、職業、スキル、必殺技、そして手強いモンスターと危険なダンジョン!
男ならコレに燃えない訳がないっ!
そんな俺が『セカンドアース』に手を出さない訳がなく、夏休みと同時に友人達と一緒に冒険の世界へと旅だった。
……筈が、初日はアバター作成中に1時間程寝落ちしてしまったらしく、「遅いっ!」と姉に叩き起こされ、軽く説教されるハメになった。
流石に徹夜明けにゲームは良くない。説明書にも書いてあったし、ゲーマーとして良くなかったと自分でも反省している。
それはさておき叩き起こされて再開したアバター作成画面で俺は驚いた。
なんと『固有スキル』が3つもあったのだ。
『固有スキル』とは『セカンドアース』でアバター作成時にランダムで手に入る特殊スキルで、当然その性能も通常スキルに比べて格段に強かったり珍しかったりする。
バランス調整の為に『固有スキル』1個手に入れる事で能力値がマイナス10される位だ。
これはつまり『固有スキル』には能力値がそれだけ減らされるだけの価値があるという事に他ならない。
実際『セカンドアース』において能力値は1レベルアップ毎に1しか上がらない事を考えても、マイナス10というのどれだけ大きいかがわかる。
そして通常0~1個、2個手に入ればチートキャラと言われる『セカンドアース』で3つの『固有スキル』持ちのアバターが目の前にある。
これはもう行くしかないっ!
確かに能力値マイナス30というのは流石にきつい気がするが、それもまた一興だろう。
こうして俺は3つの固有スキル『剛力』、『神速』、『闘気』を持つ戦士、クロノとしてセカンドアースに降り立った。
『セカンドアース』の世界は最っ高だった。いや最高以上だ!
何と言ってもこれまでやってきたVRMMOとはレスポンスが段違いなのだ。モンスターの動きをギリギリまで見切り、動きたいと思う方向に身体が動かせる。
様々なゲームを渡り歩いて来たが『セカンドアース』ほど意識と動作のタイムラグが殆ど無いのは初めてだった。
見える景色や音、匂いや味のリアリティにも驚いたが、俺にとっては『本当に思い通りに動ける』という事が何より衝撃だった。
そしてそんな素晴らしいゲームにハマらない訳がない。
夏休みという事もあって俺は昼夜問わずサルのように『セカンドアース』をしまくった。
ゲーム内での『夜』はモンスターが強化されると聞いたが、むしろ腕が鳴った。より強い奴と戦いたいとフィールドを駆け回った。
俺は『セカンドアース』をする為に生まれてきたのかもしれないと思う程だった。
「クロノ君はこのゲームを始めてから活き活きしてますね」
そんな充実した生活を送っていたある日、一狩り終わってホームで報酬を整理していると、リアルでの友人で『セカンドアース』でも一緒のクランで遊んでいるグラスが笑顔で話しかけてきた。
「当然だろっ! こんな思った通り自由自在に動けるゲーム初めてなんだからっ!」
「自由自在……そう……ですか?」
不思議そうに首を傾げるグラス。男が小首を傾げても可愛くないな。
まぁグラスは元々身体を動かす事は得意じゃないし、『セカンドアース』でも魔法師を選んでる位だから違いがわからなくても仕方ない。
「どのゲームも大差ないんじゃないの~?」
頬杖つき、エロい衣装を纏った豊満な胸をテーブルに載せてそう言うのはシャーリ姉ぇ。残念ながら実の姉だ。
「全然違げーよ! つーかちゃんとした服着ろよっ!」
「なによ~、他のプレイヤー達だってこれ位の格好してるでしょ~?」
そう言って胸を反らして頬を膨らませるシャーリ姉ぇ。
シャーリ姉ぇのその動きで揺れる胸がビキニから溢れそうになる。
身内の胸にドキドキとかはさすがにしないが、男の哀しい性かそこに目が行ってしまう。
「あら~ん? もしかして、クロノちゃん、私の胸に興味津々だから、そういう事言うのかな~?」
「ち、違げーよ! 実姉に欲情する弟が居る訳ねーだろ! 見苦しいものを見せるごふっ!」
言い終える事が出来ず俺の顔面にめりこむシャーリ姉ぇの拳。
やばい、これはマジギレの方かっ!?
と思った次の瞬間にはシャーリ姉ぇのチョークスリーパーが俺の首筋を締め上げていた。
「何か聞き流せない言葉が聞こえたのは気のせいかしら~?」
「ぎ、ぎぶ、ぎぶです、お姉様っ」
「よく聞こえないわ~」
笑顔でギリギリと締め上げていくシャーリ姉ぇ。本当に容赦がない。
「綺麗なお姉さんにそうしてボディタッチして貰えるクロノ君は私から見たら羨ましい限りですが、確かにこのゲームには扇情的な格好の方も多いですし、シャイなクロノ君が姉とはいえ若い女性のそういう姿を見て赤面してしまうのも当然かもしれませんね」
「あら~、グラス君も私にメロメロ~?」
「勿論ですよ」
締め上げる腕を緩めないまま笑顔で会話を続けるシャーリ姉ぇとグラス。
そうなのだ。このゲーム、結構な頻度で薄着な女性プレイヤーやNPCを見かけるのだ。
そしてあらゆる事が『リアル』であるがゆえに、健全な男子である俺はそうした色っぽい格好をしている女性プレイヤーやNPCとまともに会話が出来ず、今では普通の女性プレイヤーですら会話が困難になってきていた。
まともに話せるのはシャーリ姉ぇ位だ。
あ、やばい、本当に意識が……。これって状態異常とかなんだろうか?
「まぁ、そんなクロノ君の為に今日の狩りで私のレアドロップで入手した装備を放出しちゃいましょう!これはおそらくクロノ君に最適な装備ですよ!」
「最適な装備~?」
「ええ、それがコレこれですっ!」
そう言って取り出したのは真っ黒な全身鎧だった。兜が付いていてフェイスガードで顔まで完全に覆っている。
「なんか……悪役みたいな鎧ね」
「『黒騎士の鎧』だそうです。防御力だなんだはさておき、フェイスガードのお陰で表情や視線がバレなければヘタレで奥手なクロノ君だって女の子と話位出来るでしょう!」
誰がヘタレで奥手だっ! グラスだって彼女居た事ねーじゃねーかっ!
そう言いたいが少しでも動いたらそのまま意識が飛びそうだ……グラスめ……このタイミングを狙ってアイテムを取り出したのか?
「なるほど! ヘタレで奥手なクロノ君にはぴったりねっ!」
「それにこの悪役デザインもクロノ君好みですしね」
そう言われれば確かにデザインは悪くない。黒騎士というのもベタではあるが格好いい。
そして悔しいがグラスの言う通りコレで表情を隠せるなら女の子と会話位は出来そうだ。
「でもいいの~? せっかくのレアアイテムをウチのにあげちゃって」
「私は魔法師だからどちらにせよ装備できませんし、代金はちゃんと頂きますよ」
くそう……タダじゃないのか……。
それでもいいか……格好いいしな、うん……しかし……もう、本当に限界……。
「そっか……。ありがとう、グラス君」
「シャーリーさんの為ならこれ位何でもないですよ」
俺のためじゃないのかよっ!
心の中でそうツッコミを入れながら俺の意識は暗転した。
「今度の大規模アップデートに合わせて『転職祭』というイベントがあるらしいですよ。その中で『PVPトーナメント』と呼ばれるPVPの大会も開催されるそうです」
「PVPっ!?」
『黒騎士の鎧』を着た生活にも慣れてきて知らない女性とも普通に話せるようになった頃、グラスの持ってきた情報に目を輝かせたのはシャーリ姉ぇだった。
シャーリ姉ぇは対人戦が大好きなのだ。
しかし俺はあまり対人戦って興味がなかった。プレイヤー同士だと確かに駆け引きとか面白いんだけどそもそもゲームとはいえ人間同士で殺し合うってのが気になってしまう。だから俺の答えは決まっていた。
「あんま興味ねぇなぁ」
「そんな事言って、前もクロノ君が拒否したからPVP公式第一回大会出れなかったんじゃな~い~! 今回こそ出たい出たい出たい出たい出たい出たい出たい~!」
何処の子供だという感じで地団駄踏むシャーリ姉ぇ。そんな事しても無駄だ、俺はそんな暇があったらダンジョンを攻略したい。
「でもクロノ君? PVPの上位入賞者には賞品があるそうですし、それがあればダンジョン攻略も楽になるかもしれませんよ?」
「う、それは確かに……」
「それに『転職祭』自体で普段は出店しないようなレアな料理の露店や、『料理コンテスト』まであるそうですよ?」
「それもかなり惹かれるな……」
正直『セカンドアース』の料理はリアルを超えて美味い物もある気がする。
俺が単にリアルでまともな物を食べていないだけかもしれないけれど、ゲーム内でとはいえ霜降り牛や大トロなんかを食べて感動で口から火を噴いたあの日を俺は忘れない。
「そうだよ~! 『転職祭』楽しいに違いないよ~? 行こうよ~! 出ようよ~ と~なめんとぉ~!」
今度は甘えた声でおねだりしはじめるシャーリ姉ぇ。でもその声を聞いたら何故か行きたくなっていた気持ちがストンと落ち着いた。これが姉弟パワーか?
「ふむ……ところでクロノ君?」
「……なんだ、グラス」
シャーリ姉ぇをあやしてる俺にグラスがニヤニヤとした表情で声をかけてきた。こいつのこういう表情の時はヤバイ。
「その鎧。まだ代金の支払いは完了してないよね?」
「っ!! ず、ずりーぞ!? コレはお前が『いつでもいい』って言ったからっ!」
「ええ、勿論。いつでもいいですよ? でも、借金をしてる事には違いないですよね? ならカリのある私のお願いを聞いてくれても良いですよね?」
俺に選択の余地はなく、シャーリ姉ぇが子供みたいに喜んで駆け回っていた。
仕方なく参加した『転職祭』のPVP、とりあえず午前中に規定の10戦をさっさと終わらせて俺にとっての主目的である『美味しい昼食』を探す事にした。
と言ってももう目星はついている。『料理コンテスト』で昼の時点で最高点を出した料理人が居たそうなのだ。
その料理人の名前は『ユウ』。そして同じ名前のプレイヤーが出している露店がある事も『転職祭ガイド』のMAPに記載されていた。
これは行くしかないっ!
勿論PVPが好きだとはいえ、同じ位美味しい物が好きなグラスもシャーリ姉ぇも同意してくれて、早速狙いの露店を目指す。
到着時点で少し行列が出来ている事に驚くもとりあえず3人で並んで自分の番がまだかまだかと楽しみにしていると、俺たちの後ろに更にどんどん列が出来ていく。
「……つーか、列できすぎじゃね? 他にこんな露店ないぜ?」
「皆、狙いは同じという事ですかね」
当然のように言うグラス。
それもそうか。なんてったって『料理コンテスト』暫定一位の料理だ。並んでだって食べたいに違いない。
皆も並ぶ程の料理。これは胸がときめく。
そうして待つことしばし、露店が見えて来てそろそろ俺達の番も……と思った時、男の怒声が聞こえてきた。
「だぁからぁ! 金は払うっつってんだろぉ? んで今ある在庫全部売ってくれって、ただそれだけの事を頼んでんだよ」
……何を言ってるんだ? そんな事されたら俺が食えなくなるじゃないか。俺だけじゃない、今並んでる皆も食べられない。
突然そんな事言って許される訳もないだろうに。
大声を上げている男を見てみると筋肉質で巨大な体躯、スパイクの付いた金属鎧、モヒカン、と何処かで見たようなザコキャラ臭漂う3人組だった。
……こ、これはロールプレイなのか? そういう三下キャラをやってるだけなのかっ!?
いや、仮にそうだとしても、それで人に迷惑をかけていいという話ではない。
俺だって結果的に黒騎士キャラになってるし、知らない人の前で兜を取らないのは失礼だと思うが、円滑な会話の為にやむを得ない事に過ぎないのだ。
「う、うちの店員に何か御用ですかっ!?」
モヒカンがキャラなのかマジなのか、それは兎も角この暴挙をどうするか、正直しばし呆気にとられている間に、可愛い女性の声が聞こえて来て俺は我に返る。
そこに天使が居た。
『○○語り。』は主人公視点じゃないから1話完結でサクサク主人公視点に戻そうと思っていたけど、とうとう前後編になってしまった。




