第65話 マヤ語り。 その3
ユウが『銀の翼』にやってきて一週間が経った。
それはユウと私が同棲生活を初めて一週間が経ったという事でもある。
正直他のメンバーも居るのは残念だけど、この際仕方がない。
それに、実際1人でユウを守っていた時よりずっと楽になり、又確実にユウを守れるようになっていた。私達と、そして白薔薇騎士団の監視護衛があればユウに害が及ぶ事はほぼ無いと思える。
ユウが行方不明になってもう一ヶ月が経とうというのに、何の手がかりもなく、ユウが不安で押し潰されてしまわないか不安だったけれど、それは私の杞憂だったみたい。
むしろ生活が安定した為か、最近のユウはとても楽しそうに毎日を送っていた。
誰よりも早く起きて朝食を作り、ホームの掃除をし、買い出しを行い、昼食を作り、私達と狩りに出かけ、夕食を作り、休む。
誰に言われた訳でもないのに……いや、「ごはん作って」位は言ったかもしれないけど……今では率先して行っている。
私も一度手伝おうとしたけど、全力で断られてしまったし……お皿って食べる時は平気なのにどうしてキッチンで持つと割れるのか不思議で仕方ない。
リアルでも思ったけど、ユウってどうしてそんなに楽しそうに料理が出来るんだろう?
そしてどうしてユウのごはんってこんなに美味しいんだろう?
この食事の為に毎朝ちゃんと早起きしてリアルで食事を取った後、ログインしてもう一度朝食を食べる習慣が出来てしまった。
コテツさんやノワール達もきっと同じだと思う。
麻薬的と言っても過言ではないと思う。
しかも私達が食べる姿を見てニコニコ微笑んでいるユウの顔が又可愛いのだ。
私達が料理に手を付けるまでの不安そうな顔、料理に口を付けた時の安心した顔、「美味しい」と言って貰えた時の嬉しそうな顔。
本人に自覚があるかは疑わしいが、全部SSに撮って保存しておきたい位だ。
撮って保存してるけども。
それが1日3回も堪能出来るのだから堪らない。
もし2人きりのホームだったら今頃我慢出来なかっただろう。ぺろぺろしていただろう。
そういう意味ではクランのホームでの同棲生活で正解だったのかもしれない。
又、生活が安定した事と、来週に大規模アップデートの情報が出た事により、クランでのメンバー全員のレベルアップを行う事になった。具体的には『転職』が可能になる20レベルまでの引き上げである。
何処に行くか、何を狩るかについては前日の夜、ユウとホノカが眠った後に皆で集まって相談していた。
『ユウが傷つく危険が限りなく低く』『経験値が稼げる場所』
この二つ条件に合致した狩り場の選定である。
勿論『銀の翼』がフルメンバーで本気で挑めば現在実装中の大抵の狩り場では戦う事が出来るとは思うが、無意味にユウのリスクを高める訳にはいかない。
掲示板やWIKIの情報を精査し、狩り場を決めて、私とコテツさんで前もって行って情報との差異を確認して安全が確保できると判断したら全員で狩りに行く事を決定する。
MMO本来の楽しみの一つである『新しい場所に行く』『手探りで探索していく』といった楽しみが本番のクラン狩りで無くなってしまっているのは本当に申し訳ないのだけど、皆それを了解してくれていた。
「楽してお金稼げるんならそっちのがええやん?」
「私は~あまりそういうの興味ないから~」
「まぁあたしは先遣隊でも楽しませて貰ってるから、2倍楽しんじまってるしな」
「ユウの方が大事」
との事だった。
前から少し思ってたけど、ノワールってもしかして……いえ、そんな事ないわよね。
そんな日々の中、ユウが又面倒事を運んできた。
来週のアップデートに合わせたイベント『転職祭』で『露店』と『歌唱コンクール』に出場するらしい。
きっと安請け合いをしたんだと思う。昔からユウはそうやってスケジュールが一杯になっちゃう子だった。
更にサラサラさんに頼まれて『料理コンテスト』に出場し、更に私やコテツさんがエントリーしている『PVPトーナメント』の観戦にも来てくれるという。
観に来てくれるのは嬉しいけど、そんなに詰め込んで大丈夫だろうか?
大丈夫じゃなかった。
当日どころが準備でいっぱいいっぱいになったユウはそれでも何とか成功させようとがんばっている。
夜もその作業の為に宿屋の厨房を借りて籠もると宣言した。
こういう時に私が何を言っても聞いてくれないのは昔から変わらない。
無理矢理気絶させて監禁というのも考えたけど、出来ればしたくない。それに、ユウががんばっている事だから、出来れば応援したい。
料理の手伝いを出来ない私には見守る事しか出来なかった。
ルルイエは少し手伝ったそうだ。ずるい。
そうした生活を続けた四日目、ユウが物凄く元気になっていた。
倒れる直前の兆候だ。
小学生の時も電池が切れるまで走り回って、次の瞬間倒れるように眠っていた。
もう一時も目を離す事が出来ない。
そうしてユウを観察していると、ユウが錬金系の露店に寄っていた。侍祭のユウには基本的にはあまり関わりのないお店の筈だ。
ユウが立ち去った後に、慌てて店主に声をかける。
「今の子が買って行ったアイテムを教えて欲しいのだけど」
そう言う私を胡散臭げに見る店主。……考えてみれば当然か。
「……アンタは?」
「あの子と同じクランのメンバーよ。一緒に仲良く写ってるSSを見せてもいいわ」
「いや、そこまでしなくてもいいが……なんでそんな事聞くんだ?」
どう言えばわかって貰えるだろう? 自分自身、今の自分がやってる事ってストーカー以外の何者でもないと思う。
「……あの子、いつも無理して頑張っちゃうから……今も無理してて、それで此処で何かを購入したんじゃないかと思って。心配で……心配で……出来れば何を買ったのか教えて貰えないかしら? それであの子のやりたい事もわかると思うから……」
結局素直に言う事にした。
それ以外に私に出来る事はなかったから。
暫く考え込んでいた店主は、一つため息をついて了承してくれた。
「まぁ別に隠すようなアイテムでもないし、いいぜ。彼女が買ってったアイテムは『睡眠無効ポーション』だ。飲めば眠気が吹っ飛ぶ。後遺症も一切なし。俺様の自慢の一品だ」
「『睡眠無効ポーション』……って事はあの子は無理に徹夜して作業をする気なのね」
「そういう使い方も出来なくはないな」
「それで?」
「ん? それで、とは?」
「練金アイテムは現状副作用のないアイテムは存在しない筈よ? そのポーションの副作用は?」
「あぁ! 大した事じゃねーよ。ただちょっと効果中は気分が高揚して多幸感を感じるだけだ。ちょっと夢見心地になるだけで、激しいもんじゃない。勿論さっき言った通り後遺症も絶対ない! これは錬金師のプライドに賭けて誓う」
「そう……ありがとう」
お礼を言って露店を後にする。
戦闘中なら普通に戦っていてもある程度の高揚感はあるだろうから、問題じゃないんだろうけど……ユウの使い方だとどうなのかしら?
ユウが私の膝枕で眠っている。
こうしてユウを膝枕できるのっていつぶりだろうか?もう随分してない気がする。
いつもなら恥ずかしがって絶対私の膝でなんて眠ってくれないのに、素直にこうして寝息を立てているのはあの練金ポーションのお陰かしら?
結局人の為に倒れるまで無理をして、自分の命が危なくても人を助ける為に飛び出して。
それを何度注意しても、説教しても、結局また同じ状態だと飛び出しちゃうユウ。
「本当に……死ぬまで治らないのかもね」
そう言いつつユウの頬を撫でる。
むず痒そうにイヤイヤするユウ。そんな姿も可愛い。
可愛くてもっと撫でてしまう。
「んぅん……やめてよ……まやぁ……」
不意に零れたユウの声に驚く。
が、ただの寝言だったようで、起きたような様子はない。
もう何日も殆ど寝てないのだからコレ位で起きないのは当然か。
緊張を解いて一息つき、緊張した自分が酷く馬鹿らしくて笑えてきた。
ユウは変わらず天使の寝顔を見せている。
「やめないわよ、ユウ。……死ぬまで治らないんだから」
これ位なら許されるだろう、そう思って私はユウの頬にキスをした。
そして唇から溢れる絶頂。
日々の食事でも感じていたが、それ以上、いや桁の違う快楽が唇から全身に走る。
目を見開いて眠るユウを凝視するも、ユウの寝顔は変わらない。
今のは何だったんだろう?
もう一回すればもっとはっきりするかもしれない……でも、もう一度アレが起こったら本当に抑えが効かないかもしれない。
それはさすがにまずい。
せめてここが厨房じゃなければ……そう思いつつ、いつ帰ろうか? でも膝枕ももっとしていたいし、抱っこもしてあげたい。
そもそもさっきので腰が抜けたかもしれないし、この状態で我慢をし続ける自信がない。
「どうしよう……」
そうやってピンク色に私が頭を悩ませている中、ゆっくりと東の空が明るくなってきていた。




