第5話 マヤ語り。 その1
今日から高校は夏休み。そしてそれは私、元 摩耶の幼馴染み神屋 優が居なくなって一週間が経った事を意味する。
優は昔から可愛い男の子だった。
まだ小学生の頃、私の家の隣に引っ越してきた神屋家、同い年の子供が居ると引き合わされた優を見た時、こんな可愛い女の子が居るんだと驚いた。
ショートヘアでキラキラした目で私を見る優は本当にどこから見ても女の子だった。
男の子だと紹介されてびっくりしたものだ。
そんな可愛い優だから、昔から誘拐の危険と隣り合わせだった。優は全然気付いてなかったと思うけど。
誘われるままに人に付いていき、簡単に人に騙される優を見てご両親が過保護になるのも仕方ないと思った。私だって「優は私が守らなきゃ」と小学生の頃に既に心に誓って、その為に剣道も習った。
実際何度か優を誘拐から守ったのは私だ。
だから今回の優の失踪も「とうとう誰かに誘拐された」と思った。
だって優が自分で居なくなる理由がない。
最後に見た優はVRマシンがうちに来る、新しいゲームが出来る、どんなアバターを作ろうか、と1日中にこにこしていた。その姿は微笑ましくて、抱きしめて、撫でて、舐めて、食べてしまいたい程だった。
食べてしまいたい程だった。
すぐに警察に捜索願が出されて、私も私なりに優を探していた時、奇妙な事に気付いた。
それはおばさんにお願いして優の部屋を見せて貰った時、ある筈の物が無かったのだ。
そうVRマシンと『セカンドアース』
梱包材はゴミとして出されていたから届いてない訳はない。おばさん達も知らないとの事だった。
優は間違いなく一度VRマシンを手に取っている。
そして犯人?は優と一緒にVRマシンを持っていった?あんなかさばる物を?何故?
別にVRマシン自体はそんな珍しい物じゃない。持っている家庭の方が多いかもしれないし、欲しければお店に行けばすぐ手に入る。持っていく意味がない。
普通に考えて意味がない行動をしたという事は理由があるはず。
私のやるべき事が決まった。
リアルでの優の捜索はプロである警察に任せる。素人で学生でしかない私に出来る事なんてたかが知れてる、なら私に出来る事をした方が良い。
私の出来る事、『セカンドアース』の中で優を探す。
勘でしかないけどその中にきっと優の情報があるはず。
幸い私はVRマシンは勿論だけど『セカンドアース』も持っている。一週間前優が遊ぶと言っていたから、即購入していた。――その直後優が行方不明になったからそのままになってたけど。
丁度今日がサービス開始日、私は急いで自分の部屋に戻りゲームを起動する。
どんなアバターにするべきか?
私の目的は優を見つけ、守る事。ならば優が言っていた前衛戦士と同じ職業なら同じ場所やクエストを受ける可能性が高くなるし、いざという時身体を張って守る事も出来る。
武器は剣を選んだ。剣道の経験が活かされれば良いのだけど。
後は戦闘に役立ちそうないくつかのスキルと、優とのニアミスを防ぐ為に聴覚強化を取った。
アバターが完成した。サービス開始は今日の0時だったからもうゲームにログイン出来る。
今なら殆どのプレイヤーは開始地点とその付近に居るはず。私も急いでログインした。
あれから一週間が経った。優は見つからない。
『ユウ』に対してメッセージを送ってみても返事はない。
積極的に人と交流し、情報交換をしているけどそれらしい噂さえ聞こえてこない。そもそも外見がわからないのだから仕方ないのだけど。
その間に私は11レベルとなり、親しくなったクランに入れて貰っていた。優を探す為に単独行動を度々する私にも理解を示してくれる良いクランだと思う。
だからこそ、優を探すだけでなくクランに貢献する為にも今日は東の森の薬草採取に来てみた。
薬草採取自体は低レベルクエストではあるけど、ここのモンスターはそれなりにレベルが高く、この一週間で初心者殺しと言われていた。
でもこの森の薬草は回復ポーションの材料として高品質で、クラン内での自家生産では重要な素材になる。1人で行動してる以上、こういう所でポイントを稼がないとね。
ある程度薬草を採取し、途中であったモンスターを倒して一息ついた頃、私の『聴覚強化』がせっぱ詰まった悲鳴を聞きつけた。
誰か初心者が森に入ってしまったのだろうか?それともトラブルでもあったんだろうか?
採取も休憩も終わっていたし、悲鳴が聞こえてしまった以上取り敢えずそちらに向かう。
暫くして見えたのは木の幹を背に追い詰められた初心者ローブを着た物凄く長い銀髪の少女と、今にも襲いかからんとする森狼の姿だった。
『セカンドアース』も他のMMOと同じで横殴り等はノーマナーとされている。けど、どう見ても少女は今まさに殺されようとしている。
少女に飛びかかった森狼に合わせて私も少女と狼の間に飛び出し、剣術アーツ強撃を撃ち込み、なんとか一撃で倒す事が出来た。
森狼は単体ではそこまで恐ろしいモンスターではないが手負いになると仲間を呼ぶ固有スキルを持っている。
普段なら問題ないが今仲間を呼ばれて少女を守りながら戦い抜くのは少し厳しい。
「横殴りしちゃ悪いとは思ったけど、どう見ても初心者ローブだし、危なそうだったから咄嗟に助けちゃった。ゴメンね。」
出来るだけ安心させようとそう声をかけながら倒した森狼のドロップアイテムを回収する。
ついでに『危険感知』で他にモンスターが近くに居ない事を確認した私は剣を納め、少女と向き合った。
「でもダメだよ。この森は王都に近いとはいえ、結構危ないモンスターも多いんだから、低レベルのソロで来るなんて自殺行…為……」
私は夢を見ているのかと思った。
その顔は私がずっと探し続けていた人、私の勘違いだったのかと諦めかけていた存在、やっと出会う事が出来た……
「優?」
「摩耶?」
あぁ優の声だ。間違いない。優だ。
でも前衛重戦車をするんじゃなかったの? 何この可愛い姿。中学に入ったばかりの頃の優を見ているようだ。いやリアルの数倍可愛くなってる気もする!
これは二週間会えなかったせいで私の優分が不足してるからだろうか?
顔は優のままなのに肌はずっと白くなって、足まで伸びるサラサラの銀髪も憎らしい程似合ってる!!
ちょっと大きめの初心者ローブのせいでよくわからないけど僅かに覗く手や足首もちっちゃくて可愛い。
もしかして女性アバターなんだろうか? 性別は偽れないはずだけど優ならありえる。
そして優なら私はどっちでもオッケー!!
ゲームだから良いよね? 良いんだよね!?
しかも何故か優はどう見ても後衛魔法職、前衛職がしたいとか言ってなかったっけ? 心境の変化?
どちらにしろ今の私は前衛戦士職、カップリングとしては完璧!
一緒にパーティ組んで何らおかしい所はない、そして一緒に危機を乗り越える事で芽生える想い!
えへへ、えへへへへ……
表情に出さず私の妄想はどこまでも羽ばたく。ゲーム万歳。