第56話 新しい日常の夜。
邪霊神官を倒してお説教が終了した後、古寺院地下ダンジョンは今までの禍々しさが消えて、アンデッドモンスターも消滅していた。
お陰で帰り道は安全に帰る事が出来た。正座でまだ足が痺れていたから本当に、本当っっに助かった。
コテツさんとかは戦い足りなかったぽくて不満そうだったけど。
それでも帰り道も森を抜けて王都まで歩いて行かなければならない為、ホームに着く頃には夕方になり、西の空が赤く染まっていた。
皆狩りでお腹を空かせているし、ホームに着くなり僕は慌てて晩ご飯の準備にとりかかる。
お昼のうちに捌いておいたホロホロ鶏を、これまたお昼のうちに用意しておいたニンニク醤油に漬けて揉み込み味を染みこませる。
ついでにチューリップと手羽肉も準備して、それ等に衣を付けて揚げていった。
後は残ったササミ肉をさっと湯通しして、千切りキャベツと一緒にササミサラダを作る。
朝焼いておいたパンと一緒にテーブルに並べて行って、夕食完成。
時間が無くてお肉ばかりになってしまったけど、大丈夫だろうか……?
みんなお肉大好きみたいだし、男の料理だから仕方ないんだけど、正直不安だ……。
とりあえず脂っこくなりすぎないようにオニオンスープも追加しておいた。
「ぃやー! ダンジョン攻略してボスモンスター倒した後にユウっちの作る料理と美味しいお酒で食べる夕食言うんは、我慢なんて出来へんねっ!」
ホロホロ鶏のカラアゲを一個口に放り込みながらルルイエさんが舌鼓を打った。
「一度行ったダンジョンだし、大して仕事してねーだろ」
「そんな事ないやんっ!? うちチョー頑張ってたやん! このカラアゲは当然の報酬やと思うんやけどっ!」
コテツさんのツッコミを受けながら新たなカラアゲに手を伸ばし今度はマヨネーズをかけ始めるルルイエさん。一個づつ違う調味料をかけて食べているらしい。
僕の不安をよそに、今日の夕食も好評みたいで胸をなで下ろした。
が、同時に別の不安が鎌首をもたげた。
「えっと……コテツさん、僕も、さっきのダンジョン探索、何もしてないと思うんだけど……」
そう、僕は付いていっただけ。
道中のモンスターもコテツさんやマヤが全部倒しちゃったし、ルルイエさんは何もしてないと言われていたけど、ちゃんと斥候としての役目を果たしていた。
ボスモンスター戦ではサラサラさんとノワールさんが中衛でフォローをして、ホノカちゃんの魔法が決め技になった。
僕がした事といえば聖光で道中を照らした事と、全員に祝福、加速、防護印をかけた位だ。
それで経験値一杯貰って、レベルが上がって、報酬も分配して、申し訳なさ過ぎる。
というかコレっていわゆる吸い取り君じゃないのか!? なってはいけないと常々思っていたヒモ男状態なんじゃないだろうかっ?!
そんな僕の苦悩を見てコテツさんは何故か苦笑した。
「んな事ないぜ。ユウのお陰でスゲー戦いやすかったし」
「? そう……なの?」
戦いやすいって何かしたっけ?
「そうそう、祝福や加速があるだけで全然ちゃうよね。やっぱ支援様が居るとパーティの安定度が段違いやわ」
「いざという時防護印で一撃を防いでくれるのも助かるわ。壁役としてはHPにダメージが入ってから治癒を貰うより、防護印でそもそもダメージを無効化して貰った方がHP管理しやすいし」
僕の疑問にルルイエさんとマヤが答える。
「えっと……で、でも神聖魔法って同じ支援職な僧兵のサラサラさんも使えるんじゃ……」
実際僕が来る前は『銀の翼』の支援役はサラサラさんがしていたと言っていたと思う。
が、僕の疑問にサラサラさんが首を横に振る。
「私じゃダメよ~? 確かに僧兵も支援職だけど、戦える分侍祭より魔法アーツの種類が少ないのよ~」
「ふぇ? そ、そうなんですか?」
「うん~。私が使えるのは治癒、祝福、加速の3つだけ。しかもそれ等も消費APが多いから全員にかけて回るのは無理なのよ~」
「そ、そうだったんだ……」
同じアーツでも職業によって消費APが違うとかあったんだなぁ……でも侍祭でも低レベルの頃は1人、2人へ魔法アーツ回すだけでAPきつかったのに、あれ以上の消費APって1人分とかだったんじゃないだろうか……?
「まぁだから今まで『銀の翼』でのクラン狩りは、ずっと祝福も加速も基本的に使わずに攻略してたから、やっぱ今回はすげー楽だったぜ」
「ホント、コテツちゃんはすぐ突っ込んで行っちゃうから、ユウ君が居ない時は苦労したわ~」
コテツさんの言葉に、自分の肩をトントンしながら愚痴を漏らすサラサラさん。
そういえば今回もコテツさんは毎回一番最初に突っ込んで行ってたっけ。その事を思い出して少し口元が緩んでしまう。
「あー! ユウ、手前ぇ今笑ったろ!?」
「あぅ、あ、いや、これは、その」
めざとく見つけたコテツさんの叫びに慌てて表情と言葉を繕おうとするけど、そんなコテツさんも可愛くて上手くいかない。
「そういう事だから~、ユウ君はちゃんとパーティで自分の仕事をしてるのよ~? 胸を張って良いと思うわ~。 最後はホノカちゃんを守って格好良かったしね?」
「ユウ、すごかった」
悪戯っぽく笑うサラサラさんと、それに同意するノワールさん。
そう言われるとなんだか嬉しくて、今度はこっちが恥ずかしくなってくる。
と、ふと見るとホノカちゃんと目があった。が、すぐぷいっと横を向く。
何故かホノカちゃんも顔を赤くしている。
「た、たしかに、守って貰ったのは事実だから、お、お、お礼くらいは言うわよ、あ、ありがとう!」
顔は横を向いたまま、こっちをを一度も見ずにホノカちゃんがそう捲し立てた。
「あ、うん。えっと……どういたしまして?」
目も合わせずにそっぽ向かれたままお礼を言われた経験がないからどうしても変な返事になってしまった。
そんな僕の声に振り向いたホノカちゃんは真っ赤な顔のまま僕を睨んだ。
「で、でも勘違いしないでよねっ! 一応お礼を言っただけで、あれ位自分でも避けれたんだからっ! そ、それにユウは私と違って本当に痛かったりするんでしょ!? さっきも言ったけど、もう絶対しなくていいからっ!!」
「あ、う、うん。えと、善処します」
「善処じゃダメよ! 絶対よ! 絶対っ!」
顔も声も怒っているけど、心配してくれてる事もわかって、やはり頬が緩んでしまった。
ホノカちゃんは良い子だなぁ。
「何よそのニヤケ顔っ! あんた本当にわかってるの!? これだから男はダメなのよっ!!」
「う、うん、ごめん」
良い子だけど、やっぱりちょっと怒りすぎだとは思う。うん。
一安心したら僕もお腹が空いてきたから目の前の唐揚げを口に入れる。
サクサクの衣の食感に続き、じゅわっと肉汁が口いっぱいに広がる。男の子に生まれて唐揚げが嫌いな子が居る訳がない。
我ながら良い出来だ。
「ユウっちが頑張った事はうちもそう思うし、エエ事やと思うんやけどね、その……報酬の分配についてなんやけど……」
「いつも通り、通常ドロップとクエスト報酬を分配、レアドロップは入手したプレイヤーの物。ね」
何故か手でゴマをすりながら近づいてきたルルイエさん。と僕の前に割り込んで言葉を続けるマヤ。
そう、それも僕が申し訳なかった理由の一つだった。
通常ドロップアイテムは倒したプレイヤーのパーティに自動分配されるようになっているのだけど、邪霊神官を倒した時、何故か僕のアイテムウィンドウにレアドロップが2個も入って来たのだ。
装備品だからそのまま分配という事は出来ないしコテツさんにお願いして換金してから分配を……と思っていたら、マヤが言った通り『レアドロップはシステム分配された人の物』ってクランルールを適用するという事で、僕が貰う事になってしまった。
基本的に自動でアイテムウィンドウに入ってしまうドロップアイテムは、自己申告しない限り誰がどのアイテムを入手できたかは本人以外わからないから、レアドロップについてはいっその事そうした方がトラブルが少ないのだそうだ。
クラン内とか知り合いの間なら嘘をついてアイテムを独り占めする人も居ないだろうし、普通に分配でも良いかもしれないけど、クラン外の人との共闘の場合も考えてこの分配法を採用しているらしい。
「勿論ユウっちのアイテムはユウっちの物やよっ!? でも、侍祭のユウっち『闇のナイフ』は装備出来へんやんっ!?」
マヤを前に慌てて説明するルルイエさん。
確かに侍祭は刃物を装備出来ない。
ルルイエさんが鑑定してくれた結果……鑑定するまでもなくこのアイテムについてルルイエさんはよく知っていたみたいだけど……『闇のナイフ』は急所攻撃のアーツが込められたナイフで、斥候の主装備や弓手の予備武器として垂涎のレアアイテムらしい。
「それで……その……報酬の分配露店や商人ギルドで処分してまうんやったら、ウチに譲ってくれへんやろか?」
こぶし二つを自分の口元に当てておねだりするルルイエさん。
その姿は物凄くわざとらしいのに、ちょっと可愛い。可愛い女の子はずるいな……。
「ユウ、どうする?」
可愛いと思ったルルイエさんを、しかしマヤは冷たい目で見ながらそう尋ねてくる。
「あ、うん。僕は別に使えないし、構わないけど……」
「ほんま!? おおきに! さすがユウっち! 太っ腹!! ウチ、ずっとこのアイテム狙っててん。露店にもさっぱり出てきーへんし、困ってたんよぉ!」
小躍りするように喜ぶルルイエさん。
そんなに喜んでくれるなら僕も嬉しいし、『闇のナイフ』もそんな人に使って貰った方が良いだろう。
「じゃあ金額交渉は私がしてあげるわね」
「あ、じゃあマヤ、よろしく」
「ひぃっ!? マヤっちが代理なんっ!?」
「何か問題あるのかしら?」
「あ、アリマセンデスヨ? 大丈夫ヤヨ?」
『闇のナイフ』を取り出してマヤに渡すと、何故か片言のルルイエさんと2人、いくらにするかの交渉に没入していった。
何となく、もう一つのアイテムもウィンドウから取り出して眺める。
『無病息災の指輪』
何の飾り気も、宝石とかも付いてないシンプルな指輪。
ルルイエさんに鑑定して貰った結果、効果は『装備者をあらゆる病魔から身を守る。既に罹っている病には効果がないが、病の進行を遅らせる事が出来る』だという。
お話にあった神官さんはコレのお陰で助かったんだろうか?
そう考えるとこっちは処分するのが憚られるなぁ……どうしよう。
「それはユウが装備するといい」
指輪を眺めているといつの間にか隣に来て一緒に覗き込んでいたノワールさんがそう言った。
でも男が指輪っていうのも……そういう人も居るけど、僕としてはなんというかちょっと格好悪く感じてしまって微妙な気分だ。
「そうね~、私達は病気といってもバッドステータス程度だろうけど、ユウ君の場合は本当に死んじゃう病気にかかっちゃうかもしれないしね~。『セカンドアース』に近代病院はないんだから、付けておいた方がいいわよ~?」
ワイングラスを傾けながらサラサラさんが続ける。
「そっか、確かにそうかも。……自分で使う事にします」
指輪をつけるだけで病気にならないのならその方が良いに決まってる。
僕は左手の中指にその指輪をはめた。
「うんうん、素直なユウ君は好きよ~。その調子で来週までにレベル20になろうね~」
楽しそうにサラサラさんが僕に抱きついて来て、頭を撫で始める。
なんだか酒場でパーティーをした時のコテツさんとかぶった。……つまり……もしかしてサラサラさん、酔ってる?
落ち着け、サラサラさんは酔っているだけ。酔ってる女性に対して劣情を催すなんて失礼な事はしちゃいけない。
落ち着いて会話を続けるんだユウ。
「ららら、来週までって何かあるるんですか?」
「ん~? そっか、ユウ君は告知みれないんだっけ~?」
「は、はひっ」
ふわふわの柔らかい二つのふくらみをぐいぐい押し付けながらにこにこ笑うサラサラさん。
がんばれ僕の自制心っ! 無理だと思うけどがんばるんだっ!!
「あ~、サラサラ! 独り占めはずりぃぞっ」
自制心が白旗を挙げる直前にコテツさんが僕を抱き上げ、助けてくれた。
……のだけど、抱き上げた結果、今度はコテツさんの弾力のあるふくらみに頭が埋まる。
そのまま僕の頭をぐいぐい撫でるコテツさん。やっぱりコテツさんも酔ってるように感じる。
これはこれでやばいっ!?
「来週のアップデートでぇ~、レベル20以上なら転職出来るようになるのよ~」
そんな僕の思いをよそに、改めて僕を抱き寄せようとするサラサラさん。
しかしコテツさんも離す訳がなく、2人に挟まれる形になってしまった。
両手に花で男としてはこれ以上ない幸せな状態なんだけど……。
1人でも危険だったその感触は2人で2倍ではなく2乗倍となり僕を天国へと誘う。
「そういや来週だっけか。クラン全員で転職する日が楽しみだなぁ」
「そうね~、このペースなら全員一緒が出来そうよね~」
楽しそうに僕の頭の上で会話する2人。
2人が近づく分、挟まれた僕への圧力は高まり、限界が近づく。
「ふたりとみょ、みょう……うぅ……」
酸欠からかどんどん視界が暗くなり、遠くでホノカちゃんが怒ってるような声が聞こえた気がした。
どうでもいい裏話。
昔話の神官は『鑑定』スキルを持っていなかったので、自分の指輪の効果を知りませんでした。
知ってたとしても助かるのは1人だけなのは変わりませんが。




