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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第三章 楽しいクランの入り方
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第52話 歓迎会。

 最初の乾杯を済ませた後、僕はすぐにバーベキューコンロの前に戻った。

 すぐに食べられる様に最初に載せてあったお肉が焦げてしまわないようにだ。


 ほどよく焼けたお肉やお野菜を皿に載せてテーブルの方へ送っていく。

 一通り皿を送り出せば一段落、暫くは僕ものんびり食事を楽しめる。




 と思っていたのだけど、おかしい……。

 何故山盛りにして送り出したお皿がすぐに空になって戻ってくるんだろう……?


 仕方なくすぐ肉を追加して焼き上がって送り出す頃には一つ前の皿が空になって戻ってくる。

 明らかにペースがおかしい。


 会場にいるのは女の子が6人だけの筈なのにお肉が1キロは載ってるであろうお皿が次々と空になっていくのはどういう魔法なんだろう?

 女の子はお肉も入る所が違うんだろうか……?


「やっぱユウの料理は最高だなっ! ハンバーグおかわりっ!」

 今度空の皿を持って戻ってきたのはコテツさんだった。

「ありがとう。これもコテツさんがお肉を買ってきてくれたお陰ですよ」

 そう言って焼き上がったハンバーグをコテツさんのお皿に載せる。

「コレが食べられるんなら毎日だって狩ってくるぜっ!」


 ハンバーグを受け取ったコテツさんはその場でかぶりつき始めた。

 こんな大量のお肉を毎日食べたら太る……心配は無いのか、ゲームだし。でもどこかしら悪くなっちゃいそう。


「ハンバーグ、私も」

 そう言って横からお皿を出してきたのはノワールさんだ。

 見ている感じコテツさんとノワールさんが2トップでお肉を平らげている気がする。


「はい、これがラストのハンバーグ」

「ありがとう」

「えーっ?!」

 ハンバーグを受け取って満足げなノワールさんの後ろでルルイエさんがこの世の終わりのような顔で膝をつく。


「うぅ……しゃーないなぁ……ほなウチは串焼きちょーだい」

 が、すぐに立ち直って笑顔で僕に皿を突き出した。

 苦笑して焼き上がったばかりのバーベキューを数本その皿に載せると、ルルイエさんもすぐにその場で頬張り始めた。

 頬張りながらもルルイエさんは隣にいたノワールさんに近づいていく。


「なぁノワっち、そのハンバーグ一口くれへん?」

「嫌」

「そんなぁ……ええやん、減るもんやなし」

「減る。それ以上近づいたら絶交」

「友情まで減ってまうっ!?」


 ノワールさんとルルイエさんが仲良く会話してる横でコテツさんのおかわりを注文受けていると、マヤとサラサラさん、そしてサラサラさんに手を引かれているホノカちゃんもコンロの前にやってきていた。


 結局全員がコンロの前に居る形になってしまった。

 お肉を焼く速度が間に合わなかっただろうか? コンロのスペースが限られてるから、それ以上に食べられてしまうとどうしようもない。


「ごめんなさい、すぐ追加焼くから……」

 そう言って僕は網の上に肉を並べて行った。

「あ、ゆっくりでいいわよ~。こっちこそユウ君の歓迎会なのに、ユウ君を一番働かせちゃってごめんね~?」

 全然申し訳なさそうになくサラサラさんが頭を下げる。

「まぁあたし等の作った飯じゃみんな楽しめないだろうしなぁ……」

 その横でちょっと申し訳なさそうにコテツさんが笑った。


「いえ、大丈夫です。お肉を焼く事自体は好きだし」

 鍋奉行とか網奉行とかしてしまうのは男の子の性なのかもしれない。

「むしろ、素人料理で申し訳ない感じで……えっと、味とか、どう……かな?」


 僕はさっきからずっとそっぽ向いて立っているホノカちゃんに向かって尋ねた。

 バーベキューを嫌いな人はあんまり居ないと思うけど、それでもお肉や脂っこい物が苦手って人は十分いるし、ホノカちゃんが嫌いな味ならもっとあっさりした物を追加で作りたい。

 せっかく知り合いになれたんだし、仲良くなりたい。


「……いわよ」

「え?」

 顔を横向けたまま、目線だけ少し僕の方を見てホノカちゃんが何かを呟く。が小さくてよく聞こえない。

「美味しいっていったのっ! でも勘違いしないでよねっ! これ位の味ならリアルでいくらでも食べた事あるし、普通よ! そう、普通に美味しいだけだからっ!!」

「あ、うん……えっと……ありがとう?」


 普通に美味しいなら何よりだ。というか素人料理なんだから、プロの料理なんかに勝てる訳がないのは当然なんだけど……なんでホノカちゃんは怒ってるんだろう?


「だ、大体、私が言ったプリンは何処なのよ! それがなきゃ話にならないでしょっ!!」


 あ、そうか! ホノカちゃんはプリンがなくて怒ってたのか。あの状況でリクエストする位好物じゃ当然かな。


「ごめん、デザートにと思って出して無かったんだ。はい、どうぞ」


 そう言って僕はアイテムウィンドウに仕舞ってあったプリンを取り出した皿をホノカちゃんに手渡す。

 その勢いでプリンが揺れ、上に載った生クリームとフルーツが踊って煌めく。


「ふぁぁぁ」


 さっきまでの怖い顔が何処に行ったのか、写真に撮っておきたい位目を輝かせるホノカちゃん。本当にプリンが好きみたいだ。アラモードにしておいて良かった。

 僕が見ている事も忘れてしまったのか、受け取ったプリンを一緒に渡したスプーンでそっとすくい上げ、口に運ぶ。


「んはぁぁぁっっ……」


 意味不明な色っぽい声を上げて全身を震わせているホノカちゃん。

 よくわからないけど……味の方も気に入ってくれた……のかな?


「えっと……どう……かな?」


 僕の声にはっと状況に気付いたのか、ホノカちゃんは真っ赤になって物凄い勢いで僕の顔を睨んだ。


「ふ、ふ、普通よっ! 普通に美味しいだけだからっ!」

「あ、うん……えーと……気に入ってくれたなら嬉しい、かな?」

「気に入っ……た……けど……あぅ……くっ! こ、これくらいで懐柔したとは思わないでよねっ!! 勘違いしちゃダメよっ!?」


 真っ赤になってたかと思ったら涙目になって怒り出すホノカちゃん。

 プリンも気に入って貰えたっぽいけど……情緒不安定でよくわからないなぁ……これが『乙女心と秋の空』というやつなんだろうか?


「ユウ、私にもプリン」


 そんなホノカちゃんを眺めてみたら、いつの間にかノワールさんも僕の側にやってきてプリンを所望していた。


 慌てて用意してあったプリンをテーブルに並べていく。


 が、その端から皆が取って行くからその消費スピードも速かった。

 甘い物が別腹なのは間違いないからコレは仕方ない事か。


 コテツさんやサラサラさんにもプリンは好評だった。

 女の子はいくつになっても甘い物が好きらしい。




「そういえばユウ、さっきユウが料理の準備をしてる最中に少しログアウトしてて、おばさまに会ったわ」

「お母さんに?」

 プリンを口に含みながらマヤが突然そう切り出した。


 僕がこの状態になって僕の状況はマヤからお母さん達へは伝えて貰っていたけど、お母さん達については何も話はなかった。

 んだけど……わざわざ伝えるって事はお母さん達に何かあったんだろうか……?


「なんでも、お二人これからアメリカに渡るそうよ」

「ふぁっ!? ふぁめりか?! なんれっ!?」


 僕が居ないから2人で旅行に出かけちゃったって感じ? 確かに夫婦仲は良かったけど、それってなんだか冷たくないっ!?


「あ~、そういう事ね~」

 隣で聞いていて1人納得しているサラサラさん。

 それを見て頷くマヤ。2人だけで通じ合ってなくて説明して欲しい……。


 少し涙目になってマヤを睨んでいると、僕の視線に気付いたのか、マヤが口を開いた。


「『セカンドアース』の開発運営の本社に直接話を聞きに行くそうよ」

「?……運営本社?」

「そう、セカンドアースはアメリカの大企業……財団って言うのかしら? が作ったものだから、ちゃんと話を聞くなら直接行った方が早いかもね~」

 マヤに続いてサラサラさんがそう説明してくれた。


「へー……アメリカのゲームだったんですかぁ……。それに財団でゲームとか作ってるんですね」


 知らなかった事だけに驚いた。

 確かに物凄くリアルで作り込んであるゲームだし、アメリカで生まれたって言われても何となくそんな気がしないでもない。


「財団でゲームを……っちゅーか、元々は医療用に開発してたんやっけ?」

 プリンのおかわりを手に取りながらルルイエさんもやってきた。

「医療……病院も経営してるんですか?」

「そうね~、日本各地にも財団の病院がいっぱいあるし、ユウ君の近くの大病院とかにも、財団の病院はあるのかもね~」

「へー」


 ずっとネットゲームとかは禁止だったから全然知らなかった。

 でも医療用のゲームだったのが何で普通のゲームとして販売する事になったんだろ?

 僕の状況の事もあるし、何か――――


「ユウっ!!」

 もっと詳しく運営会社の事を聞こうとした時、突然僕を呼ぶ大声が轟いた。


 振り向くと顔を真っ赤にしたホノカちゃんが居た。


「な、何? ホノカちゃん……?」

 確かによく顔を赤くしてる子だったけど、なんだか今は少し様子が変だった。目も胡乱な感じになっている。

 そのまま無言で、ずかずかと大股で近づいてくるホノカちゃん。赤いツインテールが激しく揺れている。

 そして目の前に立ったホノカちゃんはぐいっと僕の胸倉を掴んで引き寄せた。


「あんらっ! 死んららそれまれかもしへらいのろねっ!?」

「あ、う、うん……?」

「らのに、らんれ巨大熊(らぃらんとれあ)とか、オークヒングぅとか、戦っれるろろっ!?」


 僕をぐいんぐいん引っ張りながら、呂律すら回らずに叫ぶホノカちゃん。ついさっきまで普通だったのにこの短時間に一体何があったんだろう?

 と、揺れる視線の先で、おちょこを持ったコテツさんが謝ってる姿が見えた。


 えっと……つまり、ホノカちゃん……酔ってる?


「らんろか言いらさいよぉー! あぶらいんれひょー!?」

「あ、うん、そう……かな?」

「なら、無茶しららめれしょー!!」

「うん……でも、友達が危なかったし……」


 ばんっ! と床を強く踏むホノカちゃん。

 よく見たらホノカちゃんの目に涙が溜まっている。


「あんらも危らいんらから一緒れしょっ、まる自分(りるん)をらいじにしなきゃらめなのよっ! あんらが死んらら、泣くひろも居るんらねっ!!」

「う……うん、ごめん……」


 何故か涙を流しながら説教を続けるホノカちゃんの勢いに反射的に頭を下げていた。


「よろひぃ……」


 そう言うとホノカちゃんは満足したのか、そのまま僕の胸にもたれ掛かりながら、寝息を立て始めた。

 何なんだろう、この状況。


「えっと……」

 助けを求めるべく周りを見渡す。

「ユウ、ごめんな。ユウの事をホノカに聞かれて、出会った経緯とかを説明しつつ、ちょっとおちょこ一杯飲ませたらこんな感じになっちまって……」


 申し訳なさそうに頭を掻くコテツさん。

「あ、いえ、それは大丈夫ですし……ちょっと嬉しかったので、それはまぁ……」


 あれだけ怒っていたホノカちゃんが僕の事を心配してくれてたんだから嬉しくない訳がない。

 それに可愛い女の子をこうして抱きしめている状況も高校生男子としてはありがたい。


 といっても、あまり長い間その感触を楽しんでいて、もし途中でホノカちゃんが起きたりしたら折角少しは仲良くなれたかもしれないのにリセットされても仕方ない。


 ホノカちゃんを起こさないようにそっとサラサラさんに預けて、静かに今日の歓迎会は終了する事となった。


 結局お肉もデザートも一つも残ってはいなかった。




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