第51話 歓迎の準備。
「そうと決まれば早速ユウ君の歓迎会をしなくちゃね~」
楽しそうにそう宣言するサラサラさん。
それを聞いてコテツさんもニヤっと笑う。
「おう、じゃあどっか酒場でも予約すっか」
「それはダメよ。ホノカちゃんは外……っていうか男の人が居る場所嫌ってるし」
「あ~……あいつも仕方ねぇなぁ……」
頭を掻くコテツさんと苦笑するサラサラさん。
ホノカちゃんって外でもあのまんま男嫌いなんだ……よく僕が一緒に暮らすの許して貰えたなぁ……出会い方も最悪だったのに。
背丈もあんまり変わらないし年齢が近そうだから許されたのかな?
たしかに大きい大人の男の人って威圧感あるしなぁ……僕もゲーム内だと更に身長が縮んだ気がするし、周りの人は大きい人が増えた気がするし見上げてばっかりで首が疲れる事が多くなった気がする。
「――――という事だから~、ユウ君」
「うひゃいっ!?」
ホノカちゃんの事を考えていたら、不意にサラサラさんに呼び戻された。反射的に返事をして変になってしまったが、サラサラさんはそんな僕を気にする事もなく、
「歓迎会は此処でしようと思うんだけど……その料理をお願いしてもいいかしら~?」
と、首をこてんを傾けて尋ねた。
「えっと……僕は全然構わないけど……でも大した料理作れないと思うけど、良い……のかな?」
「そんな事ないわ~、さっきのクッキーも美味しかったわよ~」
「あ、ありがとうございます」
本当に誰でも作れる簡単クッキーだからそんなに褒められると申し訳なくなってくるけど、それでも褒められると嫌な気はしない。
というか、僕は褒められて伸びるタイプなので褒められるとどんどん作りたくなってしまう。
「それに前にご馳走になったハンバーグも旨かったぜ! またアレ作ってくれよっ!」
「あら~。ハンバーグも良いわね~。ゲーム内じゃ太る事を気にする事もないし美味しい物は正義よね~」
「わ、わかりましたっ! がんばりますっ!」
コテツさんとサラサラさんの美女2人が食べたいと言ってくれてるんだ。此処で応えなきゃ男じゃないっ!!
「あ、でも……」
「どうしたの? ユウ」
「うん、えっと……ハンバーグを作るのに、あの時の熊肉、全部使っちゃったから材料がなくて……」
食事は普段宿屋で出ていたからお菓子の材料位しか露店で買ってなかったけど、お肉も売ってるのかな? お金足りれば良いんだけど……。
「んだよ、材料が足りないだけかよ。んじゃあたしがちょっと狩ってくるから、調理の方、よろしくなっ!」
「あ、はいっ! お願いしますっ! えっと、人数分買って来て欲しいですっ!」
「おうっ! まかせとけっ! 腕が鳴るぜぇ」
そう言いながら腕じゃなくて指をぽきぽき鳴らしながら嬉しそうにコテツさんは出て行った。
お肉を買うのにどうして腕を鳴らすんだろう……人数分ってそんないっぱいの量になるのかな……?
もしかしてこのクランの女性陣ってみんな肉食系?!
「じゃあユウ、私達はお肉以外の足りない食材を買いに行きましょう?」
「あ、うん」
マヤの言葉に頷く僕。でもお肉の量が多いとなると野菜とかはどれ位買えば丁度良いのかな? 買う時にマヤに聞けばいっか。
「じゃあ私は~……料理が出来るまで自室で寝てるからよろしく~」
サラサラさんはスキップしながら2階へと上がっていった。
「でも良かったの、ユウ?」
サラサラさんを見送った後、サラサラさんの消えていった階段を眺めながらマヤが呟く。
「え? 何が?」
「だって、これってユウの歓迎会なんでしょ? でも準備してるのって殆どユウだけじゃないの?」
「僕主催の僕歓迎パーティー!?」
何その恥ずかしいイベント。しかもノワールさんやルルイエさん、ホノカちゃんはサラサラさんの発案って事を知らないし……本当にそんな勘違いをされたら正直恥ずかしい……。
「あ、いや、でも、一緒に暮らすのに僕の出来る事を見て貰うって意味でも……良いんじゃないかな?」
「そう……ユウが良いなら良いけど」
「いやその……マヤも手伝ってくれると嬉しいデス」
「私が料理を手伝って良いの?」
「ゴメンナサイ、ナンデモナイデス」
卵を割るだけの筈がお皿が割れたり、キャベツを切ってるだけの筈が包丁が真っ二つに折れたり、弱火で煮込んでる鍋を見てるだけの筈が紫色の煙が立ちこめたりするのはもう勘弁して欲しい。
僕は大きくため息をついて、玄関へと向かった。
まず最初に向かったのは宿屋。
女将さんに事情を説明して、今日からクランのホームへと移る事と、これまでのお礼を伝えた。
すると何故か思いっきり抱きつかれた。
「ユウが決めた事なら大丈夫だろうけど、辛かったらいつでも戻ってきて良いんだからねっ」
そう言う女将さんの声が少し震えて涙声っぽかった気がするのは気のせいだろうか? 抱きしめられていて、顔をちゃんと見れなかったけど。
でもお世話になった人が声を震わせて抱きしめてくれていると、こっちまで貰い泣きしてしまいそうになるのはなんでだろう?
男がこんな事で泣いてるのは恥ずかしいからぐっと我慢して、女将さんにばれないように自分の目元を拭う。
ホームを変えると言っても王都を離れる訳じゃないし、又ご飯を食べに来るからと説明して女将さんに離して貰うのに随分と時間がかかった。
同様に旦那さんにも何度も厨房を借りた事もあり、お礼をすると、こちらは抱きつかれたり泣かれたりという事はなかったけど、沢山の野菜や調味料、そして一本の万能包丁を頂いてしまった。
申し訳なくて最初断ったのだけど、
「餞別」
と言った旦那さんの言葉に甘える事にした。
男が男に別れの餞別をくれたのだ。これを受け取らないのは男が廃る。
そして僕はこの日初めて旦那さんの声を聞いたと、後で気付いた。
その後、いつもの露店通りへ向かい、食材の買い足しを……と思っていたのだけど、旦那さんに粗方頂いてしまったから、スイーツの材料だけを購入する。
お店はプレイヤーが営んでいるスイーツ専門店。店主のサトウさんは大抵のお菓子は勿論、その材料、調理器具に至るまで取りそろえている『セカンドアース』のスイーツ神とも呼べるお人だ。
僕が簡単お菓子を作れるのもこのお店の材料や器具があってこその部分も大きい。
現代人が出来合の材料無しに料理をするのは難しいのだ。
何を作ろうかと思ったけど、つい先程ホノカちゃんに「ぷりん!」と言われた事を思い出し、卵、ホイップクリーム、あと果物を色々購入する。
あとチーズと牛乳を近くの露店で購入した。
それで所持金がすっからかんになってしまった。
サトウさんのお店って質は良いし何でも揃ってるけど、その分少しお高いのが辛い……。
これで皆が喜んでくれるならそれで良いんだけど……明日から又、狩りを頑張らなきゃ……でも『客分』とはいえクランに入ったんだから、何処に行くかとかちゃんと相談した方が良いのかな?
ホームの心配がなくなったとはいえ、自分の食い扶持はしっかり稼がないとだ。
「おう! おかえりユウ! マヤ! 肉はばっちり調達してきたぜっ!」
ホームに戻って僕達を出迎えてくれたのはコテツさんと、10人掛けのテーブルの中央に載った山盛りのお肉だった。
「えっと……これは……?」
「頼まれた熊肉だ! あと牛肉と、猪肉と、鹿肉もあるな」
指さしながら説明してくれるコテツさん。
「いや、その……種類もだけど……量が」
「ん? 人数分だろ? これくらい食べれるだろ」
さらりと言うコテツさん。
50kgとか普通にありそうに見えるけど……これを皆食べるの……?
みんな細いのにやっぱり肉食系なんだろうか……?
「あ、うん。わかった。が、がんばるよ」
「おう、楽しみにしてるぜっ!」
そう言って鼻歌交じりで2階へ上がっていくコテツさんを見送り、僕は腕まくりをして肉の山に立ち向かって行った。
結局そんな大量のお肉をハンバーグにするのは僕には無理だと判断して、一部だけハンバーグにして、あとはバーベキュー形式にしてしまった。
歓迎会なんだし焼肉をつまみながらワイワイ食べた方が良いんじゃないかと思って。
それにお肉とか残っても翌日以降に使いやすいしね。
やっぱりどう考えても数十キロのお肉とか7人で食べられる訳がないし、食材は大事に使わないと。
プリンを作り置きし、ハンバーグの種を作り、お肉とお野菜を切り分けているとノワールさんとルルイエさんが戻ってきた。
「何しとるん?」
「あ、えっと……『サラサラさんの発案』で僕の歓迎会をして貰える、って事になって、それで食事の準備を」
「ユウっちの歓迎会をユウっちが準備しとるん?」
「あ、えーと……はい」
やっぱりそれって変な事なんだろうか? 僕もそんな気がする。
でも、別にイヤイヤやってる訳じゃないんだけど……改めて言われるとちょっと凹む。
「まぁ、ユウっちのご飯が食べられるんなら、ウチも大賛成やし。出来る事は手伝うよ?」
「私も手伝う」
そう申し出てくれたので有り難くノワールさんとルルイエさんには盛りつけた皿を運ぶのを手伝って貰った。
皿もお肉も重たいから僕だと運ぶのが一苦労だったのだ。
それでいて、アイテムウィンドウに入れると出し入れのタイミングが難しいのは重い武器を持った時に実感している。
その間にマヤに炭と網、あと鉄板を準備して貰う。
マヤは料理が壊滅的に出来ないのに、何で炭の準備とかアウトドアな事は上手に出来るんだろう?
よくわからない。
バーベキューとは名ばかりの簡単焼肉パーティーで申し訳ない感じだけど、そろそろ準備が出来るという所で、タイミングよく起きてきたサラサラさんと、ホノカちゃんを連れてきたコテツさんが降りてきた。
正直ホノカちゃんは来てくれないかも……と思っていたから少しホっとした。
けど、その時に目があってしまい、安心した僕を見たのか、
「ご、ご飯を食べに来ただけよっ! 勘違いしないでよねっ!!」
と怒られた。
まだお風呂場で見てしまった事を根に持たれているのかもしれない。乙女心は難しい。
ともあれ全員揃った所で、サラサラさんが音頭を取ってジョッキを持ち上げる。
「私達のクラン『銀の翼』に~新しい仲間が増えた事を記念して~……乾杯~っ!」
「「 乾杯っ!! 」」
僕の歓迎会が始まった。




