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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第三章 楽しいクランの入り方
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第49話 湯けむりの向こう側。

「ん~! 美味ひぃ~!」


 蕩けた顔でクッキーに舌鼓を打つサラサラさん。マヤやコテツさん、ノワールさんやルルイエさんも同様に美味しそうに食べてくれている。

 お世辞だとしても一生懸命作った物を美味しいと言って貰えるのは嬉しい。


「喜んで貰えたら嬉しいです」

 そう言って僕は出して貰ったアップルティーに口を付ける。

 自分が思っていた以上に緊張していたのか、喉が渇いていたみたいで喉を流れる甘いお茶が心地よく、美味しい。

「このアップルティーも美味しいです」

「やろ? やろ? ウチが淹れたんよ?」


 クッキーを頬張りながら嬉しそうに胸を張るルルイエさん。

「ティーバッグにお湯を入れるだけなら誰でも出来んだろ」

「ちょっ、コテっち!? それ、内緒にする事やんっ?!」

「私でも、できる」

「そんな事言ってノワっちがお茶淹れた事一度もないよね!?」

「まぁ確かに……このクッキーのお礼がティーバッグのお茶っていうのは申し訳ないわよね~」

「サラっちまで!?」


 おーまいがっと天を仰ぐルルイエさん。それを無視して又一つクッキーに手を伸ばすノワールさん。

「いや、でもホントにルルイエさんのお茶、美味しいです」

「あぁユウっち、おおきに! ユウっちはウチのオアシスやね」

 そう言いながら僕に抱きついてくるルルイエさん。を、寸でで僕を引っ張って躱すマヤ。

 僕としては別に抱きつかれても良かったけど……。


「いいえ、ユウは貴女のオアシスじゃないわ」

「マヤっちのいけずぅ……」

 そのまま静かにマヤもカップに口をつけた。


 そうしていたら、ぱんと手を叩いてサラサラさんが立ち上がった。

「そうね~。ユウ君にはこんな良い物お土産に頂いたんだし、『銀の翼』としてもウチのホームで一番のオススメを味わって貰うのが良いかしらね~?」

「おすすめ……ですか?」

 頭にはてなを出しながら聞き返す。

 ホームのオススメってなんだろう?見た感じ普通の一軒家にしか見えないけど……やっぱり秘密基地みたいなすごい機能とかロボとかあるんだろうか?

 隊員のみが入れる地下シェルターとかあったらすごいかもしれない……あ、でも僕はまだ隊員じゃないからどっちにしろそれじゃ入れないのかな?


「ええ、クラン『銀の翼』のホーム名物、『温泉』よ~」

「温泉っ!? あるんですかっ!?」

「ええ、しかも自慢の露天風呂風なのよ~」


 つい食い気味に聞き返してしまった。露天風呂風、というのが何なのかよくわからないけど、でもお風呂があるのは間違いないっぽい。


 実はここ数日、ちゃんとお風呂に入れていなかった。

 というのも今泊まっている宿屋のランクだとお風呂が無かったのだ。……最初の高級ホテルだと24時間お湯使い放題だったけど、流石に普通ランクだと無いのが当たり前で、お湯を買ってタオルで拭く程度なんだという事だった。

 女将さんの好意でお湯自体はサービスして貰っていたけど、身体を拭くだけではなく、湯船にゆっくり浸かりたかった……それがある、しかも温泉っ!!


 あ、でも初めてお邪魔したお宅でお風呂まで頂くってのはどうなんだろう?

 流石にそれは貰いすぎな気も……あぁでもお風呂、湯船、掛け流しっ……ううう……。


「ふふふ~、そんな悩まなくて良いから、最後の1人がログインするまでまだ時間あると思うし、どうせなら綺麗な身体で答えを聞きたいでしょ? 遠慮せずにどーんと入っちゃって良いわよ~?」

 頭を抱える僕の頭を撫でながらサラサラさんが言ってくれた。

「その……本当に良いんですか……?」

「勿論よ~」

 何やら物凄く嬉しそうに頷くサラサラさん。

 それを見てコテツさんが口を開く。


その辺の奴らマヤとサラサラとルルイエはあたしが責任を持って見張っとくから、覗きとかも気にしなくていいぞっ」

「そんなコテツちゃん、殺生な~!」

「コテっち空気読んでっ!?」

 何故か悲鳴をあげるサラサラさんとルルイエさん。マヤが小さく舌打ちするのも聞こえた。

 そういうイベントってむしろ男女逆じゃないか!? マヤまでなんで残念そうなんだよっ!


「ええーっと……コテツさん、ありがとうございます。よろしくお願いします。……じゃあ、その……お風呂、お借りしますねっ」

「おう! 2階奥の扉が風呂場の入り口だから、『入浴中』の看板出しておけよ」

「はいっ! 行ってきますっ」


 残っていたお茶を飲み干してから、もう一度頭を下げて、僕は2階へと踏み出した。 




 言われた通り2階奥、『銀の湯』と書かれたプレートが貼ってある扉を開けると、そこは10畳程もある脱衣所になっていた。扉の前の看板を『入浴中』に変更して中に入る。

 片面が洗面台となっていて大きなガラスが貼られており、反対側がロッカーになっている。

 といっても、そこを使う必要はない。


 ちゃちゃっとアイテムをドラッグして装備を全てアイテムウィンドウに放り込む。

 と、一瞬で全裸になる僕。

 ゲーム世界万歳な瞬間である。脱ぎ着の手間が無いって本当に良いよね。


 そして備え付けっぽいタオルを持って、その奥にあるお風呂場に続くであろう扉を開いた。


 かぽーん


 どこからともなく響く謎の音。

 そして湯気立ちこめるその先には広大な湯船と、その向こうに見えるのは……晴れ渡った空と富士山だった。


「って此処2階じゃなかったっけ!? 上に3階もあったよねっ!?」


 ぐるりと見渡すと、富士山だけじゃなく何もない空間に突然僕が通ってきた扉があり、それ以外は外のような空間で木々が生い茂っていた。


 岩や木の幹に鏡とカランが付いて並んでいる。これが洗い場……?

 試しに触ってみると普通にお湯が出る。又、岩や植物は普通に触れるけどその奥にはどうやっても行けそうにない。幻影(イリュージョン)の類なのかな?


 それでサラサラさんの言葉を思い出した。


 『露天風呂風』


 確かにこれは『風』なのかもしれない。

 とりあえあず納得した僕はかけ湯を済ませ、軽く身体を洗ってから湯船へ入ろうとしてふと足が止まる。


 自分の足下まで伸びる長い銀髪が目に入る。

 ゲームだから普段は別に邪魔にならない髪の毛だけど、人の家のお風呂で髪を浮かせるというのもダメだろう。

 暫く悩んだ後、無理矢理髪をまとめ、頭の上でタオルでまとめる。

 巻き貝みたいな頭になってしまったが見てる人も居ないし問題ない。


 改めて湯船に入る。


 久し振りのお風呂。じんわりと全身に温泉の温もりが広がる。


「んはぁ~」


 自然と漏れる声。

 日本人でよかった……。


 幻影(イリュージョン)だとわかっていても、遠くに見える富士山と青空も綺麗だし、サラサラさんが自慢にしてるだけの事はあるなぁ……。

 こんな良いお風呂に毎日入れるなら是非入らせて欲しいけど……僕の事情は特殊だし迷惑はかけられないよなぁ……。


 湯船に浸かりながらさっきの事を思い返す。

 正直信じて貰えるかもわからなかった。でも皆真面目に話を聞いてくれていたと思う。コテツさんは本気で心配して怒ってくれてたと思う。


 自分でもよくわからない状態の話を受け入れて貰えただけでも嬉しくて、それ以上を求めるのは求めすぎな気がする。

 勿論僕1人でどうこう出来るとは思ってないけど。


 助けて貰えるなら感謝して差し出された手を受け取り、でもそれが当たり前だと思ったり、以上を求めたりせず、自分で出来る事は自分でがんばろう!


 自分の中での考えをまとめて、僕は湯船から立ち上がった。

 あまり長湯して皆を待たせるのも悪いし、最後の1人の人ももう来てるかもしれない。




 かぽーん


 お風呂で聞こえる謎の音がしたと思ったら、空間に浮かんでいるガラス扉がスライドして開き、中からタオルを巻いて赤いツインテールを揺らした小さな女の子が入って来た。


「え?」

「こんな時間に入浴なんて皆さんにしては珍し……い……で?」


 目が合う僕と少女。

 見た事ない少女。……という事は彼女が『銀の翼』のメンバーの『最後の1人』なんだろうか? 僕と同じ位の背格好という事は随分小柄に見える。


 僕は目が点になりながらもそんな風に冷静に考えている自分が居た。それは少女がタオルをぴっちり巻いてくれていた事と、彼女が悲鳴等を上げなかったからかもしれない。

 しかしふと気付く。 彼女の視点が下がり、僕の下半身の一点に集中している事に。


 それに気付いた瞬間、お風呂に入っていたからではなく全身が真っ赤に染まり、慌てて前を隠す。


「あ、えと、これは、その、僕は、あ、えっとっ、ちゅがうんれすっ、らから、ああっ」


 説明しようとするも上手く言葉が出てこない。

 そして僕の声に再起動したのか、少女の口から大絶叫が轟いた。



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