第4話 3つの方針。
「私を含めて他のプレイヤーは皆死んでもちゃんと復活出来てるのは確認してるし、復活出来ないとかって噂もwikiや掲示板ですら見かけた事ないよ。
でも死ぬ程痛くて、ログアウト出来なくて、リアルがどうなってるのかわからないユウの状況を考えると最悪の場合死んだらそれっきりって可能性も無くはない気がする」
うん、僕もそう思う。勿論推測の範疇で、最悪のケースだけど。
そもそも死ぬ以前にあんな痛い思いもうしたくない。
「勿論推測だからユウの場合は大丈夫かもしれないけど、もし試してみてダメでした、じゃ取り返し付かないしね。
……それとも試してみる?」
「試さないよっ!? そんな身体を張った事しないよ! 人生安全第一だよね?!」
恐ろしい事を言う幼馴染みに首を激しく横に振る。それに合わせて長い銀髪がぷるぷる震えた。
結界はモンスターの侵入は防いでもプレイヤーの侵入は防げない。マヤはこういう時本気でやりかねない女だ。
ここはやはり防護印で防ぐか? でもさっきそれでジリ貧になったし先手で聖光をかけるべきか!?
「まぁ冗談はさておき、今後の方針を決めましょ」
「方針?」
とりあえず殺してみよう、という方針でなさそうなのでマヤの言葉に耳を傾ける。
「そ、ユウが異常な状態だからこそやっておかなきゃいけない事がいくつかあると思の。」
「ふむ、それは僕も考えた。とりあえず街に行って情報を集めようと思ってる」
マヤは僕の言葉を聞いて指を1つ立てる。
「そう、情報収集は大事よね。私も賛成。でも逆に情報開示には気をつけた方が良いと思う。」
「?」
開示って僕の事を教える事だよね。ダメな理由がわからない。
頭の上に大きなハテナマークを出しているのが見えたようにマヤは又ため息をつく。
「世の中善人ばかりじゃないわ。ましてやここはゲーム世界、ユウ以外の全プレイヤーは楽しむ為に来てるのよ。その彼等に『自分だけが死ねない状態なんだ』って言って冗談だと思われたり、それで愉快犯に命を狙われる可能性は十分あると思う。このゲームはPKだって可能だし。」
PK、プレイヤーキラー。ゲームだからこそ出来る快楽殺人。でも僕にとってはリアル殺人の可能性がある、という事か。
確かに怖い、というか怖くなった。ストーカーなんてレベルじゃない。こうなった以上僕は平穏に暮らしたい。
「わかって貰えたようで良かった」
とブルブル震える僕を見ながらマヤは二つ目の指を立てた。
「次にする事はレベル上げ。ユウは可能な限りレベルを上げて装備を揃えるべきだと思う。」
「え、でも僕は死んだらそのままの可能性があるんだよね? そんな状態でモンスターと戦ったりしたくないし、出来れば街中で平穏無事に暮らしたいんだけど……」
ちっちっち、とマヤは立てた指を横に振る。なんかむかつく。
「だからこそ、よ。ユウは誰かに狙われたらいつ死んでもおかしくない。だから安全なうちに出来るだけレベル上げや装備強化をして自衛出来るようにしとかなきゃ」
「ふむ……そう……なのかな?」
でも僕にそんな事出来るだろうか? 純支援職で戦闘系スキル0でレベル上げとかどんな縛りプレイ……って、街に行くんだから他の人と一緒にベル上げすればいいのか! なんだ希望が見えてきた!
「で、最後にこれはするべき事じゃなくてしない方が良い事なんだけど、ユウはパーティやクランには可能な限り入らない方が良いと思う」
3つめの指を立ててマヤが言った。
「それは何で? 出来ればパーティ入りたいんだけど……」
というか入らないと育成出来ないよね、絶対。
ちなみに『パーティ』というのは数人からの人数で一緒にモンスター退治とかする集団の事。人数が増える程安全度が増し、分配する関係上報酬が下がる。
ついでに『クラン』とはもっと大きな団体で一つ一つの戦闘や冒険というより日常的に助け合う関係の集団の事。
基本的にリーダーを中心として規約なんかもあったりするけど気軽に『仲のいい人同士で一緒に居る場所』みたいな感じかもしれない。クランに入れば基本的にクランのメンバーでパーティ組んだりするだろうし。
どちらも僕みたいな特定スキルしか持っていない尖ったスキル構成の場合必須だと思うんだけど…。
「さっきも言ったでしょ『絶対死ねないプレイをしてます』なんて言って入れるパーティもクランもないと思うわ。誰だって死なない事を前提にしてても結果的に死ぬ事も織り込み済みでパーティ組んだりするから、そんな我が儘言ってたら下手に有名になって孤立するかも」
それは嫌だなぁ……というかMMO怖いなぁ……日本の悪い部分が透けて見える気がする。
「だからユウは街に行ったら『出来るだけ自分の事を隠しながら情報を集めて』『パーティやクランには入らず』『出来るだけレベル上げをする』。わかった?」
「わかった……がんばるよっ!」
うん、がんばろう、街には行けるんだし、この森が適正レベルじゃなかっただけで初心者用MAPに行けばきっと僕でもレベル上げ出来るはず。
なんだ最初の計画から何も変わってないじゃないか! 街に行けば全てが上手くいくはず! 大丈夫!!
「じゃあ方針も決まった所で、ユウのステータスを見せてよ。見た感じ侍祭っぽいけどちゃんとステータス見ればアドバイスも出来るだろうし。」
「? 他人のステータスって見れるの? どうやって?」
「そこからかぁー……ステータスを見る方法は大きく二つ! 1つは『鑑定』系スキルで見る事、ただしレベル差なんかがると見れなかったり半端な情報しか見れなかったりするけどね。モンスターやアイテムの鑑定も出来るから結構便利なスキルっぽいよ。私は持ってないけど」
へぇ…鑑定か。カッコイイなモンスターの弱点とか一目で見破ったりするのかな?
「で、もう一つがパーティやクランメンバーにお互いの許可を得てステータスを閲覧する方法。今からするのはこっちだからパーティ勧誘にOK出して」
マヤの言葉と同時に視界内に新しいメッセージが出る
・『マヤ』からパーティ加入要請が来ました。受諾しますか? YES/NO
こういう時NOを押したくなるのが人間の性だけど、押したら多分怒られる。大人しくYESを押すのが正しい日本人の姿だよね。
了承すると新しいウィンドウが開き、僕とマヤの名前、その横にHPとAPの表示が見える。
なるほど、これがパーティか。ちょっと感動。
「じゃ、ステータス全部閲覧して良いよね?」
「あ、うん、良いよ。」
初パーティにちょっと感動しつつ了承するとマヤの視線は宙をさまようように動く。アレが視界のウィンドウを見てる姿なんだろうか? 端から見てるとちょっと怖い。
僕もあんな風になってるのかな…今度から人前でウィンドウを見る時は気をつけよう。電波っぽい。
最初普通に見ていたマヤはどんどん険しい表情になり、険悪な表情になり、怒ってるような表情になった後、がっかりした表情になり、最後哀れむような表情で僕に視線を向けた。
どんな百面相だ。でも彼女が考えてる事は大体想像がつく。僕もそう思ったし。
「えーと……ひどいアバターね」
「やっぱりそう思う?」
「能力値は最底辺だし、それは固有スキル6個もあったら仕方ないかもだけど、その固有スキルがどれも聞いた事もない物ばかりで説明を見ても何の役に立つのかわからないし。戦闘系スキルも一切なし。これじゃソロ育成は絶望的だと思う。」
「……そこまでひどい?」
「うん、まぁ、参考までに私のステータスだけど……」
と、マヤは自分のステータスを見せてくれた。
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マヤ 人族/女 16歳 戦士Lv11
HP294/AP142
筋力:15(+5+10)
体力:16(+5+10)
速力:12(+5+10)
器用:10(0)
知力:5(+5)
魔力:3(0)
<通常スキル>
・剣術(初級)・盾術(中級)・筋力強化(初級)・体力強化(初級)・速力強化(初級)
・回避(初級)・弓術(初級)・危険感知(初級)・聴覚強化(中級)
<固有スキル>
・鉄皮
<装備>
・Lv5ブロードソード
・Lv3プレートメイル
・Lv3ラウンドシールド
・草色のリボン
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うん、色々おかしい。いや多分おかしいのは僕のステータスか。僕のステータスが如何におかしいのかがよくわかる。
いくらレベルが10も離れてるからってHPが20倍近く離れてるってなんだよ。APだって魔法職の僕より多いし、これがチート? いや僕が逆チート!?
マヤの哀れみの視線の意味を十全に理解したけど、だからって打開策が思いつける訳もない。
と、彼女がぽんっと手を叩く。
「固有スキルのおかげか今のユウってばどっから見ても女の子だし、その固有スキルを活かして娼婦として働けばお金が稼げて、そのお金で装備を買って強化するっていうのも……」
「しないよ!? ゲームの倫理規定は何処に行っちゃったの!?」
彼女が恐ろしい事を本当に実行し始めるまでに僕はレベル上げの方法を見つけなければいけない事を心の底から感じた瞬間だった。
どうでもいい設定
<固有スキル>
・鉄皮 :物理防御耐性アップ。面の皮の厚い人が習得しやすい。
あとマヤのスキルを少し変更。