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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第二章 一人ぼっちの冒険者
43/211

  閑話 バレンタイン争奪戦。

2/14記念ネタ話です。

本編に何の関係もありませんので読み飛ばして頂いても構いません。

「バレンタインよ」

「へ?」


 いつものように冒険者ギルドのテーブルで足をぷらぷらしながら待っていた僕の元にやってきたのはマヤが開口一番そう言い出した。


「だから、バレンタインパッチが当たったの。せっかくの今日限定イベントなのだからチョコレートを贈るのが良いと思うわ」

「いや、えっと……マヤ?」

「何かしら?」

「今って確か夏休みじゃなかったっけ……?」


 うん、僕が失踪?したのが夏休み一週間前で、目が覚めたのが夏休み中、まだ夏休みは明けてないはず……だよね?


「夏休みだからバレンタインをしちゃダメって法律でもあったかしら?」

「それは……無い……かな?」

「じゃあ問題ないんじゃない?」

「そう……なのかな?……でもバレンタインって女の子からチョコレートを贈るイベントなんじゃ……」

「折角の機会なんだから『普段お世話になった人に感謝の気持ちを込めて』チョコレートを贈るのに男女なんて関係ないと思うの」

「…………そっか、確かにお世話になった人に感謝の形を表すのに日にちとか関係ないよね! ありがとうマヤ!」

「ええ、だから私にチョコを……」

「じゃあ早速行ってくるね! じゃあ今日の狩りはお休みでっ!」

「あ……」


 そう言って僕は冒険者ギルドを飛び出した。

 そもそも『セカンドアース』は地球とは違うんだから夏休みもバレンタインもない訳で、ならいつチョコレートを贈る習慣があってもおかしくないよね!

 まずは材料を用意しなきゃ!


 そう思って僕はとりあえず露天通りに行った。

 が、それは普段とは何か空気が違っていた。


 なんというかいつもより殺気だってピリピリしている感じだろうか?

 プレイヤーが行き来する人数も多いような気がする。


 もしかして又何か臨時クエストとか発令されたりしてるんだろうか?

 マヤと合流してからクエスト確認しようと思って掲示板見てなかったなぁ……。


 でも、街中までどうこうってのは今まで無かったし大丈夫……かな?




 そう思いつつやっと目当てのスイーツ屋さんに到着した。

「こんにちわ! サトウさんっ!」

「まぁまぁユウちゃん、いらっしゃい」

 エプロン姿にチョコレート色のセミロングを揺らして現れた女性はにっこり笑顔で出迎えてくれた。彼女の名前はサトウさん。勿論プレイヤーの1人だ。


 この露店はなんと『セカンドアース』で唯一のスイーツ専門露店であり、サトウさんはその店を経営してる変わり者なのだ。

 変わり者、という言い方は失礼かもしれないけど。


 そもそも『セカンドアース』では流通量が多いとはいえ甘味は稀少な食材に分類される。

 更にプレイヤーが作る場合調理が難しく、出来上がった物の満腹度は低く、どうしても単価が高くなる。


 つまりあまりプレイヤーに売れないのだ。


 買うのは甘味が好きな女の子とか、女の子へのプレゼントとか、そういう一部のプレイヤーのみである。

 なのにその専門店を作っちゃう。そしてそのスイーツがリアルで食べるのに負けない位美味しいのである。

 サトウさんの情熱の素晴らしさである。


 お財布には厳しいからあまり食べに来れないけど。


「それで、今日は何をお求めかしら?」

「えっと、すみません、今日は食材をお願いしたいんですけど……チョコレートってあります?」


 サトウさんのお店は完成品から原材料、はては調理器具までスイーツに関連する物ならなんでも取り扱ってるお店なんだけど……でもスイーツショップに来て材料を買うのって何か申し訳ない気がしてならない。


 しかし僕の問いにサトウさんの方も申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんね、ユウちゃん。今日はチョコレート系のお菓子も材料も売り切れちゃったの」

「え?」


 よく見ると露店の品揃えが酷く閑散としていた。

 殆どの棚が売り切れの張り紙がしてある。こんな事はこのお店を見つけてから始めてだ。


「あ、えっと、いや! すみません、僕こそ突然だったし。それにお店が繁盛してるのは良い事だから」

 うん、そうだよ、自分の好きなお店が繁盛してる事は良い事だし、これは喜ぶべき事だよね。

 やっぱり他のプレイヤーの皆さんも甘味に飢えたりしたのかな? ここのチョコレートも美味しかったし。

 あ、でも今後中々買えないのは残念かなぁ……。


「ん~……そういう事でもないのよねぇ……」

 困ったようにサトウさんが笑いながら当たりを見回す。

「?」


 続いて見回すと周りはさっきと同じようにプレイヤー達が行き来しているだけだ。

 どちらかというと男の人が多いかな?


「とあるクラン連合がね、チョコレートを買い占めしてるらしいのよ」

「買い占め!?」


 コテツさんに聞いた事がある。MMOにおいて『買い占め』とは特定のアイテムを独占し、その価格を操作したり、特定団体にのみ卸す事で自分たちの優位性を高めたりする行為だとか。

 一般プレイヤーが入手出来なくなる事も多いから困った行為ではあるのだけど、大抵はソレ自体は禁止されている訳ではないのだという。

 成功すれば大きな利益を見込める代わりに失敗したら大損害を受ける、ハイリスクハイリターンな行動なんだとか。


 でもチョコレートなんて買い占めてどうするんだろ? スイーツは基本的に満腹度も低くて微妙なアイテム扱いだったはずなのに。


「買い占めかぁ……困ったなぁ……」

「私も売り切れちゃってから買い占めしてる団体が居るって掲示板で知ってね、個数制限とか出来なかったの。ごめんね」

 申し訳なさそうにしゅんとするサトウさん。

「いや! サトウさんが悪いんじゃないですからっ! あ、でも買い占めって事は他のお店に行っても……」

「多分無いんじゃないかなぁ……買い占めしてる理由って嫉妬みたいだし」

「嫉妬?」

「そ、『チョコレートゆるすまじ!』だって」


 チョコレートへの怨み!? 一体そのクランに何が!?

 もしかしてチョコレートが嫌いな人達なんだろうか? 嫌いな人は嫌いだって言うしなぁ……。


「じゃあ今日はもうチョコレート入手は難しいんですね」

「そんな事ないわよ?」

「どっち!?」

「購入は難しいけど、材料で良いんなら南門を出てみればすぐわかると思うわ」


 にこにこと楽しそうにサトウさんがそう教えてくれた。


 そういう事ならとりあえず行ってみようかな?

 街の外に出るのは危ないけど、さすがに南門出てすぐの所にそんな危険なモンスターは居ない筈だし、1人でも大丈夫だよね、うん。


「ありがとうございます! 行ってきますっ!」

「はい、いってらっしゃい~」

「っと、あ、ごめんなさい。チョコレートだけじゃなかった。生クリームとココアパウダーってあります?」

「あ、うん。それならあるわよ。両方で500(アース)ね」

「ありがとうございますっ!」


 生クリームとココアパウダーの入った容器をアイテムウィンドウに放り込んで、今度こそ南門へと走り出した。

 材料を自力で入手しなきゃいけないなら時間はいくらあっても足りないはず! 急ごうっ!




「チョコレートどぉぉこだぁぁぁぁ!!!」

「まぁてぇぇぇぇ!! 逃がさんぞぉぉぉぉ!!」

「逃げる奴はチョコレートだっ! 逃げない奴は訓練されたチョコレートだっ!!」


「えっと……何……これ?」

 南門を抜けた先で僕が見た光景は地獄絵図?だった。


 いつもは結構閑散としてるはずの南門前平原を埋め尽くさんばかりのプレイヤーで溢れている。

 そしてそのプレイヤー達がゼリースライムを襲って走り回っているのだ。


「なんで今更ゼリースライムを狩るプレイヤーがこんなに居るんだろ……?」


 よくわからないまま呆然としていると、僕の目の前にゼリースライムが出現した。


「あれ?でも何か色が……」

 よく見るといつもと色が少し違う、と思った瞬間、メッセージが表示される。


・Lv0チョコレートスライムとエンカウントしました。


「チョコレートスライム?」

 ゼリースライムとは別種なのかな?


 そう思った瞬間、目の前のチョコレートスライムを走ってきたプレイヤーのメイスが粉砕した。

 光となって消えるチョコレートスライム。


「チョコレートゲットだぜぇ」

 メイスを持ったプレイヤーはアイテムウィンドウから板チョコを取り出してそれを貪り始めた。


 そうか! 確かマヤが『ばれんたいんぱっち』とか言ってた。

 これがそうなのか! このチョコレートスライムを倒せばチョコレートが手に入る! だからサトウさんも入手は簡単って言ったんだっ!!


「よーし、なら僕もがんば……」


 改めて見回す南門平原。

 目を血走らせて走り回るプレイヤー達。

 出現した瞬間に潰されているチョコレートスライム。

 至る所で絶え間なく放出されるモンスター消滅の光。


「…………が、がんばるぞっ!」


 杖を取り出して駆けだした。




 時刻はもう夕方、限界を迎えた僕は宿屋に戻り、女将さんと旦那さんにお願いして厨房の隅を貸して貰った。


 結局僕は半日かけて戦う事が出来たチョコレートスライムは30体。

 ドロップした板チョコは5枚だった。


 戦闘自体は簡単で、一撃だった。非力な僕でも一撃で倒せた。さすがレベル0。


 でも戦う事が難しかった。

 加速(アジリティアップ)をかけていても、見つけたチョコレートスライムに近づく前に他のプレイヤーに倒されてしまう。

 ある意味今までで一番疲れた狩りかもしれない。


 他のプレイヤーと競争みたいな事ってした事なかったけどこんなに大変なんだなぁ……。


「痛っ」


 ぼーっとしながら板チョコを刻んでいたからうっかり指を切ってしまったらしい。

 いけない、感謝の気持ちを作っているんだから真面目に作らないと。


 とりあえず指に治癒(ヒール)をかけるとすぐに傷は消えて無くなった。

 やっぱり魔法って便利だなぁ……リアルなら絆創膏を貼るのに絆創膏が血まみれになって、しかも指だと片手で貼らなきゃダメだから結構大変なのに。


 生クリームを温めて刻んだ板チョコ3枚分をほどよく混ぜてガナッシュを作り冷蔵庫で冷やす。


 何度か取り出してはかき混ぜて良い感じの固さになったガナッシュを一口サイズに分けて更に冷やす。


 よく冷えたガナッシュを取り出してコロコロとまん丸に成形する。ここが一番楽しいよね!

 ころころころころ……

 やりすぎるとチョコが溶けちゃうのが問題だけど。


 最後に残っていた板チョコ2枚分を湯煎して、ガナッシュをコーティングしてからココアをかければ簡単トリュフチョコの完成!


 ただの板チョコが美味しいスイーツになるから昔からよく作ってたなぁ……。

 どうせ食べるなら美味しく食べたいしね。


 でも『セカンドアース』にも冷蔵庫があって良かった。

 氷系の魔法道具らしいけど、もしなかったらこんな簡単には作れなかっただろうな。


「ユウさん、何を作ってるの?」

 声が聞こえて振り返ると、いつの間にかそこにはタニアちゃんが居た。

 耳がぴくぴくと期待したように動いている。


 それもそうか。厨房内にチョコレートの良い匂いが漂ってるし、女の子なら誰でもスイーツ好きだしね。

「えと、皆にプレゼントしようと思ってトリュフチョコを作ってみたんだけど……タニアちゃんも一個食べる?」

「食べるっ!!」

 元気よく手を挙げるタニアちゃんの口にトリュフチョコを一個つまんで放り込んであげる。


「っ~!!」


 蕩ける。という形容が相応しいだらしない顔になるタニアちゃん。

 その表情を見れば出来映えは予想出来るけど、一応

「どうかな?」

「おいひぃ……」

「良かった」


 といっても、溶かして固めただけだから不味くなる要素なんて無いんだけども。


「じゃ、冒険者ギルドに持って行こうかな。タニアちゃんも来る?」

「うひゅぅ~……あひぃ」


 なんだかトリュフチョコを反芻しながらタニアちゃんは多分了承の返事をした……んだよね?

 ただのチョコレートなのになんでそんなすごいとろとろの顔になってるんだろ?


 少し不安になって自分でも一個味見をしてみた。

 うん、美味しい。




 冒険者ギルドのカフェスペースにはマヤだけじゃなく、コテツさんやノワールさん、ルルイエさん、アンクルさんまで居た。ソニアさんも仕事を終えたのかカウンターから出て来ている。

 みんなちょうどクエスト報告とかしたのかな?


「おかえりユウ」

「ただいま。えっと……チョコ持ってきたんだけど……」


 ギランっとギルド全体が殺気だって気温が下がったように感じた。

 な、何事!?


「あぁそうか! 今日バレンタインパッチが当たったんだっけ。それでユウのチョコレートが貰えるのかい?」

 ぽん、と手を叩いてコテツさんが呟く。

「あ、うん。いつものお礼にと思ったんだけど……あ、でもあんまり数が無いから……」


 そう言いつつ、アイテムウィンドウからトリュフチョコを入れた容器を取り出す。


「美味しそう」

「ホンマ旨そうやね。それに流石ユウっち。ただのチョコやのに又AP回復効果が付いてるやん」

「え? そうなの?」

「うん、間違いないよ」


 さっき自分で味見した時はよくわからなかったけど、ルルイエさんが言うならそうなのかな?


「という事はユウ様の手作り! 嗚呼っ! 再びユウ様の手料理を頂けるなんてっ! このアンクル至福の極みっ!!」

 いつも通り大げさなアンクルさんが片膝を付いて本当に嬉しそうに叫んでいる。

 喜んで貰えるのは嬉しいけど……ただのチョコレートなのになぁ……。




「いつもいつも団長ばかりずるいですっ!!」


 と、突然開く冒険者ギルドの扉。

 声の主は見覚えのある人、白薔薇騎士団の女騎士さんだった。後ろにも数名騎士団員の人が居る。

「ず、ずるくないぞっ!? 私は当然のっ!」

「巫女姫様のチョコを頂ける事がずるくなくて他の何がずるいんですかっ!?」

 鬼気迫る勢いで詰め寄る騎士さん。

 そんなにチョコレートが好きなんだろうか? チョコ一個でクランの和が乱れるとか、その原因が僕とかは勘弁してほしい。


「あ、えと……白薔薇騎士団の人達にもお世話になったし、トリュフチョコ、差し上げたいだけど……ごめんなさい、材料が足りなくて、全員分は……」


 手元にあるトリュフチョコは6個。

 さすがに半分に割って食べて下さいとかは言えない。

 でも誰かを依怙贔屓する訳にもいかないし……どうしよう……。


「成程、話はわかりました」


 ぽんと僕の肩に手を置いて静かな声でソニアさんが周りを見渡した。

 その声は大きくはなかったが良く通り、皆がソニアさんを注目して一瞬静かになる。


「緊急イベント発令!! 『第一回、巫女姫チョコ争奪! PVP(プレイヤーバトル)バトルロワイアル』を開催しますっ!!」

「「うぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」


 一気に熱気が高まり、歓声が響き渡るギルド内。


「ば、ばとりょわって……な、何?」

「ユウちゃんはただ見てれば良いから大丈夫よ」


 優しく微笑むソニアさん。

 呆然とする僕の横で受け付けが行われ、僅か数分でマヤ、コテツさん、ノワールさん、ルルイエさん、アンクルさんは元より、白薔薇騎士団24名、クラン連合『チョコレート撲滅隊』56名、他37名が参加を表明し、『セカンドアース』始まって以来最大規模のバトルロワイアル大会が開催された。




 結局勝敗が決まったのはそれから6時間程経った日付が変わる直前で、僕は賞品をソニアさんに預けたまま観戦しながら眠ってしまったので、その結果を翌日にソニアさんから教えて貰う事になった。

 起きた時にギルド内に居た5人の明らかに蕩けきった幸せそうな表情の人達を見れば聞くまでもなかったけど。


 結局誰が食べたのかというと――――。


勢いで書いちゃったけど、こういう本編に何の関連もしてない所か

流れをぶった切ってるのって残した方が良いのか、一定期間後削除した方が良いのか

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