第39話 オークの巣穴。
「っと、ユウを弄って遊んでる場合じゃないわね」
満足したのかやっと僕を解放してくれたマヤ。
「そうだよっ!? やっと合流出来たんだから、まだ探してくれてる皆に連絡したり、結界を張ったり、やる事はいっぱいあるんだからっ!」
涙目でマヤに抗議しながらとりあえず自分に治癒をかけた。
あれ? 思ったよりHPが減ってないや。
「そうね、でもそれは後回しにしなきゃダメよ」
そう言ってマヤはブロードソードとラウンドシールドをアイテムウィンドウから取り出し、僕の前に立って洞窟内を睨み付けた。
「マヤ? 一体何を……?」
僕が最後まで言う前に、洞窟から姿を現す5体のオーク。それぞれ大斧や大剣ぽい物を持っている。
僕達に気付いてダンジョンから出てきたみたいだ。
でもなんだろう? 森で見たオークと何か違うような……?
なんというか強そうというか、元々大きい身体のオークだけど筋肉の量が一回り増えたような……?
・Lv12オークウォリアーとエンカウントしました。
そう思いつつ観察してると、ピコンとメッセージが表示された。
「じゅ、12レベル!?」
通常のオークが確か7レベルじゃなかったっけ!? オークがウォリアーになるだけで5レベルも高くなるのっ!?
マヤって確か11レベルだったような……しかも数が5体で、今は夜で、狂化時間で、逃げ場もないのにっ!
「ユウが大きな声を出すからダンジョン内のモンスターが出てきちゃったのね」
「僕のせい!? むしろアレはマヤのせいだよねっ!? 僕はすぐにやめてって言ったよね!?」
「そんな事はどうでもいいわ。今はあのモンスターをどうにかしないと」
「どうでもよくないけど、モンスターに付いては同意するよっ!」
同意するけど……でもどうすればいいんだろう?
確か通常のモンスターですらプレイヤーと同じレベルなのが狩りをするのに適正レベルだったような……。
不安になりつつ、後ろからちらりと覗くとマヤの横顔は笑顔のままだった。
何か秘策があるんだろうか?
そ、そうだよね、マヤだって強いんだし、僕もここ数日アンクルさんに付き合って貰って特訓したんだし、2人でがんばればモンスターの4体や5体っ!
特訓で学んだ事は弱気にならない事っ! ちゃんと目を見開けば活路はあるはずっ!!
「祝福!……加速!……防護印っ!!」
僕達を取り囲むようにじりじりと距離を詰めるオークウィリアーに対して、岩肌が背になるように後ずさる僕達。
そのわずかな時間の間に、僕はお馴染みとなった三点セットを自分とマヤにかける。
祝福と加速があれば、ある程度のレベル差や能力値差は覆せるのは実証済みだっ!
それにさっきマヤに言ったのは僕だ。
一緒に強くなろうと。一緒にがんばろうと。
マヤが僕を守ってくれるなら、僕はマヤに降り懸かる全ての攻撃を防護印と治癒で防ぎきる!
2人一緒なら例えレベルが上のオーク5体にだって負けはしないっ!
決意を新たに僕もキッとオークウォリアーを睨み付けた。
「グォォォッッ!!」
僕が睨んだのを合図にしたようにオークウォリアー達は一斉に飛びかかってきた。
怖っ! 筋肉の塊がでっかい武器振りかぶって突進してくる様は想像以上に怖っ!
「必殺っ! 反薙ぎ払いっ!!」
オークウォリアーに呼応して一歩踏み出したマヤが物凄い勢いでブロードソードを横に払う。
と、カマイタチみたいな謎の衝撃波がマヤのブロードソードから飛び出し、中央に居た3体のオークウォリアーを切り裂いてはじき飛ばした。
あるのかな?とは思ってたけど、やっぱりあったんだ! 衝撃波系の必殺技っ!
そうだよね、ゲームで戦士系といえばこの手の技がなきゃウソだよねっ!
僕が変な感動をしてる間にも、吹き飛ばされた仲間に目もくれず残った2体のオークウォリアーはそのままの勢いで近づいて来てマヤに大斧を振り下ろした。
が、マヤはそれぞれを自分の盾と剣で受け止め、そのままくるりと回転して2体同時に剣撃を浴びせる。
狂化時間だからなのか、オークウォリアーの底力か、一撃で倒せる程の大ダメージは無いようで、吹き飛ばされた3体のオーク達も立ち上がり又うなり声を上げてマヤに群がる。
「何体来た所でユウには指一本触れさせないわっ!」
群がるオークウォリアーに一歩も引かずにむしろ三歩位前に出る勢いのマヤ。
1対5の戦いでありながらマヤはその全ての攻撃を受け、弾き、流し、避け、そして的確にカウンターを打ち込んでオークウォリアー達のHPを削いでいく。
その戦い方は嵐のようなコテツさんとも、舞踏のようなアンクルさんとも違うけど、まるで城壁のみたいにそそり立つ壁のようで安心出来、力強くて格好良かった。
格好良いんだけど……さっきからマヤが一撃を受けるどころか最初にかけた防護印すら破れる気配すらない。
いや、それはとても良い事ではあるんだけど……。
「……ま、マヤ?」
「何?」
戦闘中、しかも多対一の不利な状況で声をかけるのはどうかとも思ったけど、どうしても我慢出来ずに声をかける。
2体のオークウォリアーが光となり、3体目のオークウォリアーの首筋をブロードソードで切り裂きながら、そんな事をしてる時とは思えない程普段通りの声でマヤが応えた。
「えっと……マヤって、確か……11レベルじゃなかったっけ?」
マヤは4体目を洞窟の方に吹き飛ばし、5体目の斧を盾で受け止める。
「? 18レベルだけど?」
「じゅっ、じゅーはちれれりゅっっ!?」
な、何それ!? 18ってあれだよね、18だよね!?
「僕と初めて会った時は11レベルだったよねっ!?」
「そうね、確か11だったと思うわ」
5体目に連撃を叩き込みながら涼しい顔で応えるマヤ。
その後1週間位は僕の特訓に付き合って貰って……っていうかマヤはずっと僕を見てるだけだったよね?
パーティ解散してマヤと別れてからはまだ数日しか経ってないよね?
僕だって毎日アンクルさんに教えて貰って特訓してたけど、別れてから1レベルもあがってないよ!? 7レベルのままだよ!?
「い、いつのまに……?」
「勿論…………頑張ったわ」
そう言って連撃でフラフラになったオークウォリアーにトドメの一撃を放って消し飛ばした。
って、そんな事より、『頑張った』って!
僕だってがんばったよ!? 自分で言うのも何だけどすごくがんばってたと思うよ!?
アンクルさんだって結構褒めてくれたしっ!
なのに待機スキルすら一個も出てきてないこの差って一体何なのさっ!?
もしかして……全然1人でがんばれるマヤに、1レベルも上げる事が出来てない分際で「一緒に頑張ろう」とか僕は言っちゃってたんだろうか?
それは……恥ずかしいとかいうレベルじゃなく、黒歴史レベルじゃないか……?
やばい、数十分前の僕に教えてあげたいっ! ユウ、お前は何様なんだとっ!!
ダメだ、意識したら恥ずかしくて顔が赤くなってきた。体温が上がってる自覚がある。きっとマヤから見ても耳まで赤くなってるかもしれない。
今が夜で本当に良かった……。
そりゃ18レベルなら12レベルのオークウォーリアーは余裕な相手になる……のかなぁ……?
本当にマヤはどんな無茶な特訓してたんだろう……。
「さて、あと1体……」
僕の内心を知ってか知らずか……いやどうか知らないでいて欲しいんだけど……マヤは吹き飛ばされていた最後の一体に向かってブロードソードを構える。
が、マヤが動く前に、
「グォォォォォグゥゥッッ!!!」
と、さっきまでのオークウォリアーよりも更に低く響く叫び声が轟いた。
それは身体の芯まで居竦むような獣の声のようでもあり、地鳴りのようでもあった。
実際その叫び声で地面が揺れていたのかもしれない。
しかしその声に恐怖を感じたのは僕だけではなかったようだ。
吹き飛ばされていたオークウォリアーは慌てて立ち上がり、半狂乱になっては武器も持たずマヤに向かって突進してきたのだ。
マヤは洞窟を警戒しながらも、無茶苦茶な突進をしてくるソレに足払いをかけて転がす。も、勢い衰えず、オークウォーリアーはそのまま崖の方へと転がり、転落していった。
暫くして響くグシャっという何かが潰れる音。
何とも呆気ない幕切れだった。
呆然と見送る僕とマヤ。
いや、マヤはすぐに洞窟の方に意識を戻していたかもしれない。
マヤが簡単にあしらっていたとはいえ、レベル12のオークウォーリアーがそこまで恐怖する存在、それがすぐそこまで来ている。
僕も気付いて慌てて視線を洞窟の方に戻す。そして祝福と加速をかけ直した。
まだ効果時間は残っているとはいえ、今度の敵がどんな相手で、何体居るかわからない以上、途中で効果切れになるよりは良いだろう。
そしてソレはすぐに洞窟から姿を現した。
ソレはオークより一回り大きく、洞窟の天井に達する程の巨体だった。
その手にはオークウォーリアー達が持っていたよりも1周りは大きな長さ3メートル位の鉈のような大剣を持っていた。
今までのオーク達とは明らかに違う風貌、空気、威圧感。
一瞬言葉を失う僕達。
・Lv33オークキングとエンカウントしました。
その中で視界の隅を事務的にメッセージが表示された。
それは東の森のボスモンスターの登場を通知するものだった。




