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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第二章 一人ぼっちの冒険者
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第36話 とある女騎士語り。

 私が最初に彼女を知ったのは、ネットの炎上話からだった。

 掲示板に上げられた情報によると、『セカンドアース』でMPKモンスタープレイヤーキラーや、ましてNPCKノンプレイヤーキャラクターキラーをしようとした馬鹿が居たらしい。


 他のMMOならいざ知らず、『セカンドアース』でそんな事をしようだなんて馬鹿がまだ居た事が驚きだった。

 と言う程に『セカンドアース』でのPK(プレイヤーキラー)の罪は重い。

 もしそれがバレたらリアルと変わらないような指名手配や各種行動制限をゲーム内で受ける事になる。そしてソレがリアルでもネットや掲示板で拡散して炎上し、面白半分な輩によって住所や本名特定等にまで至ってしまう。


 そんな厳しいならシステムでPKを禁止してしまえばいいのに。と思わなくはないが、何でも出来てしまうのが『セカンドアース』の魅力なのだろうか?

 今の所冤罪の話も聞かないし、事故や過失については情状酌量されているようだから問題もないようだけれども。


 と、そんな事はどうでもいい。

 そうしたありふれた炎上ネタの中に張られていた一枚のSS(スクリーンショット)

 そこに写されていたのが彼女、『白き薔薇の巫女姫』だった。


 幼さを残しながらも整った顔立ち、それでいて強い意志を秘めた蒼い宝石のような瞳、何処までも長くつややかな輝く銀髪、そして小さな身体に、ローブから伸びる愛らしい手足。レアアイテムの筈の純白のローブもこれほど似合うプレイヤーが今まで居ただろうか?

 身長がかなり低いけど年齢は大丈夫なのかな? 『セカンドアース』は年齢制限があるはずだから、あまり幼いプレイヤーは居ないはずなのに……。


 それにしてもこんな愛らしい人をMPKしようとした愚か者が居ただなんて許せないっ! 死刑でも生温いっ! 何故私はその場に居なかったのかっ!

 あの日の自分を叱ってあげたい。「もう『セカンドアース』も飽きたかなー」とか言ってたあの頃の私の馬鹿っ!!


 後悔に苛まれながら、ネット上にある巫女姫のSS(スクリーンショット)を収集していた私は、同時にその一文を見つけた。


――――――――――――――――――――――――――――――


・クランメンバー募集。『白き薔薇の巫女姫』を守る為の騎士団を設立。参加資格は巫女姫への忠義。子細は『アンクル・ウォルター』まで。

      ――――白薔薇騎士団代表 アンクル・ウォルター


――――――――――――――――――――――――――――――


「これだっ!!」

 私はすぐさま『セカンドアース』に接続し、彼に伝言メッセージを送った。




 面接の後、晴れて私は白薔薇騎士団の一団員となれた。


「俺は魔法剣士になりたかったんだけどなぁ……」

 隣でぼやいてる男が1人。腐れ縁の友人だ。何故彼まで私と一緒に白薔薇騎士団に入っているんだろう?


「嫌ならやめればいいでしょ? 巫女姫様への忠誠が足りない騎士団員なんて必要ないわ」

「お前1人でそんな訳のわからんクランなんて入れられる訳ねーだろっ!」

「白薔薇騎士団は巫女姫様を守る為の誇り高きクランよっ! アンタでも侮辱する事は許さないわっ!」


 この男は何を言っているんだ? 巫女姫様への忠誠もなく白薔薇騎士団に入ったというのだろうか?

 ならば万死に値する。騎士団の恥となる前に私が引導を渡すべきだろうか?


「ほれ、遊んでるとその『巫女姫』を見失うぞ」

 剣を引き抜こうとした所に男が呟いた。


 いけない、一時の激情に駆られて任務を忘れる所だった。


 今私達は巫女姫様を護衛監視(ストーキング)する任務に就いている。

 草陰に隠れて巫女姫様の一挙手一投足を監視し、必要とあらばSS(スクリーンショット)を撮影し、騎士団内で共有するのだ。


 巫女姫様は毎日フィールドに出ては杖で初心者向けモンスターと格闘をしていた。

 彼女は侍祭(アコライト)なのだから近接戦闘などする必要ないと思うのだけど……というか、そもそも姫のその美しい白い肌に傷が着く事自体ゲーム世界の損失であるのにっ!!

 しかしそれは彼女自身の意志らしい。と、アンクル団長が言っていた。


 ならば仕方ない。仕方ないのだけど……問題は巫女姫様の隣にいつもいるあの猪武者だ。

 あの猪武者はどうやら姫巫女の旧友らしい事を良い事に、いつも側にいる。


 そして側に居るのに巫女姫様がモンスターに襲われてもギリギリまで動かず、にやにやといやらしい笑みを浮かべているっ!

 アイツは敵だっ! 私の本能が訴えているっ! アイツは巫女姫様の隣に居てはいけないっ!!

 私だってあんな側で視姦した事ないのに、アイツだけずるいじゃないかっ!


「お前、今絶対変な事考えてるだろ?」

「へへへ、変な事って何かしら!? べっ別に巫女姫様をペロペロしたいだとか、ペロペロしたいだとか、ぺろぺろしたいだとか思ってるわよ!?」

「思ってるのかよっ!」


 当たり前じゃない。この男は何を言ってるのかしら?

 と、いけない、またこの(ばか)に構って任務を……あら?


「ねぇ、あの猪武者は何処に行ったのかしら?」

「へ?……あれ? ホントだ、どこにも居な……」


 ギラリと何かが光ったかと思ったら、男の首筋に白刃が押し当てられていた。

「あなた達は何者? ユウに何の用?」


 白刃の持ち主に目を向けると、そこに居たのは憎き猪武者だった。

「そ、そんな事聞かれて答える訳ないでしょ」

「見えないの? 私が剣を引けば彼は死ぬかも知れないわよ?」

「むしろウェルカムよ!」

「もうちょっと躊躇ってくれよっ!?」


 なんで私が巫女姫様とアンタ(くされえんのゆうじん)を天秤にかけなきゃいけないのよ。

10:0で巫女姫様に決まってるでしょっ!


「ふむ…………そうか、あなた達が白薔薇騎士団ね」

「何故それをっ!?」

 一目で看破した彼女に驚愕の叫びを上げてしまった私達。

「ただのカマかけよ。でもそんなお揃いの白い騎士鎧を着た集団なんて他に知らないわ」


 くぅっ! この女、性格悪いっ!

 間違いないわっ、コンパでカラアゲに勝手にレモンをかけるタイプよっ!


「危害を加える気がないのなら好きにしたらいい。あとユウの邪魔もしない事ね」


 そう言って剣を仕舞い、戻ろうとする猪武者。


「えーっと……そもそもなんで俺等『白薔薇騎士団』の事知ってたんスかね? 一応巫女姫に知られないように隠密行動してたつもりなんスけど」

 男の言葉に猪武者は不思議そうな顔をした。


「だってあなた達、掲示板で団員募集してたじゃない」

「あー……それもそうッスね」


 それもそうだった。

 私もそれで応募したんだし、彼女が見ててもおかしくない。

 でも……くやしいっ!!


 とりあえず目の前に居た男をボコボコにした。




 それから数日――それはいつものように朝からユウ様を護衛監視(ストーキング)していた時。

 その日のユウ様は昨日買った猫耳の付いたフードを装備してらした。


 フードに隠れてはっきり見えないが口元が緩んで得意満面な笑顔を浮かべている。

 歩く度にぴこぴこと動くその猫耳は本当に巫女姫様が獣人になったかのような愛らしさだ。

 勿論巫女姫様なら獣人でもエルフでも愛くるしさに違いはありえないっ!

 むしろ持って帰って飼いたいっ! もふもふしたいっ! もふもふし尽くしたいっ!!


 そんな幸せそうな巫女姫様が、冒険者ギルドに入り、猪武者とそのクランメンバーらしき集団の会話を聞いて一転曇ってしまった。

 我らが巫女姫様を悲しませるなんて許せるものかっ!


 そう思い剣を引き抜こうとした私をまた何故かいつものように側にいた腐れ縁の男が羽交い締めにして止めていた。

 この男は本当に何がしたいんだ? 目の前で巫女姫様が悲しんでいるのだぞっ?!


 そうこうしてる間に巫女姫様は冒険者ギルドを飛び出して行った。

 呆然と立ちつくす猪武者。いい気味だ。


 けど……なんだろう、この胸のもやもやは……。

 猪武者は嫌いだけど……なんというか……。


 い、いや、今は任務だ。巫女姫様を追わなければ。

 男の脛を蹴り、顎に肘鉄を叩き込んで腕から抜け出し、私は急ぎギルドの扉を蹴破って飛び出した。




 その後は怒濤の展開だった。

 なんとあの猪武者と巫女姫様はパーティを解散したらしい! 朗報だ!!

 そして何より、あの猪武者本人からアンクル団長宛に巫女姫様の護衛を依頼する伝言メッセージが届けられたというのだ。

 あの冷血漢が一体どんな心変わりをしたんだろうか?

 いや、そんな事はどうでもいい。今は私達が巫女姫様を今まで以上に近くで守れる事が重要だ。


「――という訳で、今回の巫女姫様への接触、護衛は団長自らが行い、他団員は今まで通り隠密行動の上護衛監視任務を続けるように」


 副団長の言葉で一瞬時間が止まる。


「団長ずるいっ!!」

 私の言葉に続いて響く怒声と絶叫。

 当然だ! 巫女姫様とお知り合いになるチャンスなのにそれを独り占めなんてっ!!


「ず、ずるくないぞっ!? そもそも私は元々巫女姫様と会話した事がある。今回の任務をもっともスムーズに行えるはずだ!」

 慌てて弁明するアンクル団長。

 そんな事はどうでもいいのだ! 私は私が巫女姫様をハフハフしたい!


「お前、やっぱ変な事考えてるだろ?」

 呆れたように何故か又私の横にいる男が呟いた。

「変な事って何よ!? ただ私は巫女姫様をハフハフしたいだけよっ!」

「お前……清々しいな……」

 私からしたら巫女姫の直近で出来る護衛任務に手をあげないこの男の方が理解不能だわ。


 結局団長は希望者全員、つまりほぼ全ての騎士団員とPVP(プレイヤーバトル)を行い、勝利する事で護衛任務を手に入れた。

 こんな事なら私だってもっとレベルを上げておけば良かったっ!

 任務のない日も巫女姫様を護衛監視(ストーキング)しててレベル上げを疎かにした罰だろうか?




 又アンクル団長がやらかした。

 今度は巫女姫様に食事に誘われたというのだっ!


 なんという事だっ! これは明確な騎士団に対する裏切りではないのかっ!?

 団長だけずるい! うらやましい! ねたましい! そねましい!!


 しかし今回は巫女姫様自身がアンクル団長を誘っている以上、騎士団としても何も出来ない。


 今頃きっと巫女姫様と美味しいディナーを楽しんでいるに違いない……もしかしたら「あ~ん」とかして貰ってるかもしれない。

 巫女姫様の「あ~ん」!? そんなご褒美が貰えるなら私はどんな死地にも赴こうっ!!


 なのに何故私の夕食風景にはこの冴えない男しか見えないんだろう?

 というか何故この男はいつも私のテーブルに一緒に座っているんだ? そりゃリアルからの腐れ縁とはいえ何を考えてるのかわかりかねる。 


 あぁ、こんな男どうでもいい。今は騎士団長だ……ぎぎぎ……憎しみで人を殺せたら……


「また変な顔になってるぞ。いい加減あきらめろよ」

「諦めないわよっ! 次回の食事会に誘われる事だってあるかもしれないでしょ!?」

「隠密監視してるだけの俺等って巫女姫と接点ねーじゃん」

「諦めたらそれでゲーム終了よっ!!」


 まったく本当にこの男は何を訳のわからない事を言ってるのやら。

 私は無造作に黒パンを口に放り込み、リンゴジュースを傾けた。


 と、突然響くクランチャットのメッセージ。

 それは今頃巫女姫様と楽しいひとときを過ごしているはずのアンクル騎士団長からだった。


――――――――――――――――――――――――――――――


『緊急伝令! ログイン中の全騎士団員に告ぐ!! 白き薔薇の巫女姫様の要請により、行動可能な全騎士団員は東の森前に集合せよ!! これは演習ではない!! 巫女姫に日頃の成果をお見せせよ!!』


――――――――――――――――――――――――――――――


 目の前の男も同じメッセージを受信したらしい。

 お互い顔を見合わせる。


 直後、私達は店主に食事代を支払い、店を飛び出し走り出した。


「巫女姫様直々の要請っ! 勅命による騎士団初任務っ!! これに応えなきゃ騎士じゃないっ!!」


 いけない……頬が緩んじゃう。姫様直々だなんてきっと大変な事が起こったに違いないのに全身が歓喜に震えてる。

 こんな……こんな素晴らしい事があったなんてっ!!


「お前、なんかスゲー嬉しそうな顔してんな」

 私の横を並んで走る男が言った。当たり前だ、騎士が勅命を受けたんだから。これで喜ばない奴は騎士じゃない。

 と、ふと気付いた。


「アンタも同じじゃない」

 横を走る男の表情は、おそらく私が浮かべているであろうものと同じだった。

「そりゃ……まぁ俺も白薔薇騎士団の団員だからなぁ」

 少し照れたように笑う男。


「そう、アンタも少しは巫女姫の騎士としての心構えが出来てきたって事ねっ!」


 やっとこの男も少しは巫女姫様の素晴らしさが理解できたのなら良い事だ。

 むしろ遅すぎると思うが、まぁ今はそれは良い。


「なら後は巫女姫様に私達、白薔薇騎士団の活躍を示すだけっ!! ……そう! 今度は私が食事会に誘って頂ける為にもっ!!」

「そこかよ!?」


 訳のわからないツッコミを入れている男を無視して、私は更に速度を上げて東の森へと駆け抜けて行った。




36話と37話の順番を入れ替え。内容に変更はありません。

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