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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第二章 一人ぼっちの冒険者
35/211

第34話 美味なる物には力がある。

「――それで特訓を兼ねてゴブリン退治をしてました」

「へぇすごいやん。侍祭(アコライト)でそんだけ出来る人ってあんま居らんのとちゃう?」

「ユウ様は才能がありますからね、見事な立ち回りでしたよ」

「ならそこの騎士なんかよりあたしと討伐行った方が良いかもなぁ」


 ピシッと一瞬空気が固まる。


「……そ、そういえば、コテツさんもすごく強いよね。前に巨大熊(ジャイアントベア)を倒してる姿もかっこよかったっ!」

「ユウ、コテツと狩り、行った?」

「う、うん。行ったというか、森で偶然出会っただけなんだけど……コテツさんすごかったよ」

「コテツさんの討伐クエスト達成率は冒険者ギルドでも上位ですから。私達一同も助かってます」

「いやぁそれほどでも」

「そんな狩り方ではユウ様の訓練になりませんけどね」


 ビシリッと又空気が固まる。


 どうしよう、全然話が弾まないっ!?

 コテツさんもアンクルさんも僕には普通に話してくれるのに、お互いの言葉には刺のある言葉で返すし、どうしてこうなった!?

 こんな時ホストの僕ががんばらなきゃいけないのに、どうフォローしていいのかわからない……。

 ソニアさんとルルイエさんは苦笑してるし、ノワールさんは2人には無関心ぽいし、タニアちゃんを頼る訳にはいかないし……本当にどうしたら……。


「騎士サンはあたしによっぽど不満があるのかい?」

「下品な口調とふしだらな服装に」

「へぇ……ケンカ売りたいんだ? 買うよ?」


 いつPVPが始まってもおかしくない空気の中、睨み合う2人が2人が武器を取り出そうとしている。


 本当にどうしてこうなった? 僕のせいだろうか?

 僕がこんな食事会を開いたから。人付き合いに慣れてないぼっちなアンクルさんを無理矢理呼んだり、事前確認もせずコテツさんやクランの人達まで参加して貰っちゃったからだろうか?


 いや、ホストである僕がちゃんと間に入ってないからだ。

 もっと上手にフォローできればこんな空気にならなかっただろうに……うぅ又涙腺が熱くなってきた。

 こんな時に泣くとか男としてダメすぎだろう!?

 泣いてる暇があったら2人を止めないと、でもどうやって……




「あ、あの、2人とも、ケンカは――」

「おやおや、やっと完成したユウの料理持ってきたと思ったら不穏な空気だね?ウチの酒場でもめ事はゴメンだよ?」


 やっと口を開いた僕を、後ろから別の声と影が被さった。

 見上げると女将さんがトレイに僕が作った料理を持って笑顔で立っていた。


「「ユウの料理?」」


 一触即発だった2人も、ほかの皆も女将さんの言葉とトレイの上を注目する。


「そうだよ。ユウがあんた等の為にずっと1人で作ってたんだ。時間が来ちまったから、オーブンから取り出したのは旦那だけどね」

 そう言って女将さんはそれぞれの席に料理を並べていってくれた。

 ソースとチーズの焦げた匂いが食欲をそそる。

「せっかくユウが一生懸命作った料理だ。それを邪魔しようってんなら黙ってウチから出ていくといい」


 有無を言わせぬ口調で言い切って女将さんは戻っていった。

 その時ぽんぽんと僕の頭を叩いて、小さくウィンクしていったけど、どういう事だろう?


「ユウ様、申し訳ありません、取り乱しました」

「ユウ、ごめんな。アタシも血が上ってた」


 落ち着いたのか2人とも僕に謝ってくれた。

「僕こそ突然呼んでごめん。……ごはん、冷めちゃうから、良かったら食べて。煮込みハンバーグと、ポテトサラダ。あとオニオンスープ。パンもあるから。味の好みが合えばいいけど……」


 目頭に溜まった涙をぬぐって、綺麗に盛りつけられた煮込みハンバーグとサラダ、カップに入れられたスープ、中央のパンを説明して、皆を促した。

 僕に謝ってくれたのは嬉しいけど、でもそれは何か違う。

 でもそれは僕が招いた事だし、今はそれでいい。よくないけど……。


「!……美味しい」

 最初に口を付けてくれたのはノワールさんだった。

「本当、美味しい!」

「うん! うんっ!」

 続いてソニアさんとタニアちゃんも嬉しそうに食べてくれてる。


「これはホンマ旨いなぁ……チーズが上だけじゃなくて中にも入ってるのがにくいなぁ……チーズの嫌いな日本人は居らへんし!」

 ルルイエさんにも好評みたいだ。良かった。


 肝心の2人は……。


 おそるおそるアンクルさんとコテツさんの様子を伺う。

 一瞬時が止まったようにしていた2人と目が合う。


「んまい! ユウ、すげー美味いよっ!」

「全くです! ユウ様が『調理』スキルをお持ちなのは知っておりましたが、これほどとは。まさに天上の美味!! いや、一度食べたら忘れられない恐ろしさは魔界の美味やもしれません!!」

「おおっ! こんな美味いモン食ったの『セカンドアース』に来てから初めてだっ!」

「然り! このような至宝とも言える食事を我々の為に用意して頂けたなんて、恐悦至極にございます!」

「コレが食えただけでこのゲームやってて良かったぜ!」


 喋ってるのか食べてるのかわからない状態で饒舌に話す2人。


「そ、そんなに美味しいの? お世辞じゃなく? お世辞でも嬉しいけど……」 


 そう思いつつ自分でも一口食べてみる。

 うん、美味しい。美味しいけど……この宿の料理も、露店の料理も同じ位美味しいと思うけどなぁ……


「断じてお世辞などではありません! むしろこの美味しさを言葉で伝えられない自分がもどかしい位です! あらゆる賛辞麗句を並べた所でこの味を表現する事等できません!!」

「おうよ! マジすげー美味いって! ゲーム内だけじゃなくて生涯ベスト1だよ!」


 熱く語る2人。そしてそれに頷く他の皆。

 褒められるのは嬉しい。嬉しいけど……


「ど、どうしたユウ!?」

「ユウ様、どうなさいました!」


「?」

 顔が熱いとは思ってたけど、どうやら僕は泣いてしまっていたようだ。

 本当に涙腺の緩い身体だ。


 心配したタニアちゃんがナプキンをくれた。お礼を言って受け取りながら、僕はこれ以上皆に心配かけないように口を開いた。


「大丈夫、ごめん。その……さっきまでケンカしそうだったアンクルさんとコテツさんが、一緒になってごはんを食べてくれて、嬉しかったから。嬉しくて……」


 それで泣いてしまいました。


 って、冷静に言葉にすると恥ずかしいだろ!?

 さっきより顔が熱くなるのを感じて、貰ったナプキンで顔を隠す。


 その横でお互いに顔を見合わせて言葉を失うアンクルさんとコテツさん。


「あー……色々言い過ぎた。アンクルさん、ごめん」

「……いや、私こそ失礼な物言い、本当に申し訳ない。……ユウ様を少しでも危険に晒した事が気になってしまい……」

「それは……確かにあたし等の落ち度だ。それで嫌われても仕方ない。納得だ」

「それでも同時にユウ様の為に武具を用意して下さったコテツ殿に感謝こそすれ、感情に流されてあのような態度は間違いだった」


 今度は謝罪合戦になっていた。


 おかしくてつい泣きながら笑ってしまった。

 つられて皆も笑う。


「しっかし本当にこのハンバーグは旨いよな。前にユウの涙舐めた時も美味しい気がしたけどさ」

「ここここ、コテツさん、何いきなりカミングアウトしてるの!?」

「コテツ、ユウの涙、舐めたの?」

「あ、あれは事故だから! たまたまだよ!?」


 ノワールさんの言葉に慌ててフォローする僕。あぁアンクルさんが又険悪な……いや、あれは羨望の眼差しなのか?!


「コテツだけずるい。私も舐める」

「ノワールさん、落ち着いて!? 舐めさせた訳じゃないからっ! あ、そだ! 僕の分のハンバーグあげるから、これで許して?!」


 一瞬動きが止まるノワールさん。暫く逡巡した後、

「わかった」

 と嬉しそうに僕の分の皿を受け取った。


 良かった……。

 いや、ノワールさんも美少女だし、美少女に舐められるとか少し勿体なかった気もするけど……。

 かなり勿体なかった気がするけど……いや勿体ないけど。

 でも衆人環視でそれは恥ずかしすぎる。高校生男子にはハードルが三段位高いプレイだ。


「にしてもホンマこのハンバーグは凄い思うよ? 味もやけど、HPとAPの回復効果まであるやん?」

「え? そうなの?」


 ハンバーグのソースを付けて口に放り込みながらルルイエさんが言った。

 僕の分のハンバーグはもう無いから、他の人のハンバーグを眺めてる。普通のハンバーグに見えるけど……。


「ウチの固有スキルは『鑑定』やからね。アイテムの特殊効果もばっちりや」

「へぇ……料理にHPやAPを回復させる効果なんてあったんですねぇ」


 てっきり空腹を満たすだけだと思ってた。


「あるわけないやん」

「どっち!?」


 けらけら笑いながら手を振るルルイエさん。

「普通はないから、驚いてるんやん。なんか特殊な食材かスキルでも使うたん?」

「そんな特殊な物なんて……普通に『熊肉』を『調理』しただけで……」


 自分のステータスを思い出して嫌な予感が脳裏を掠めた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――

魔皇女の雫(まこうじょのしずく) :最高の食材。身体から分泌される全ての液体は至福の美味となる。

――――――――――――――――――――――――――――――


 そして僕が作ったのはハンバーグ……


「べべべべ、べつに変な事はしてないでしゅよ!?」

「ふーん……別にええけど」


 『鑑定』スキルを持ってるルルイエさんには僕の固有スキルもバレバレかも知れないけど、それ以上ルルイエさんは何も言わず、ポテトサラダを口に含んで幸せそうにしていた。


 僕も深く考えないようにしよう、うん。

 じゃないとおにぎり一つ作れなくなってしまう……。


 それでも……もし固有スキルのお陰で皆が笑顔になれたのなら、それはそれで良かった……のかな?



深く考えてはいけません。

手で握ったおにぎりは何故か美味しいです。

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