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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第二章 一人ぼっちの冒険者
33/211

第32話 今日のお料理。

 宿屋に戻った僕はさっとシャワーを浴びて肌着を着替え、軽く身支度を調えてから一階へと戻った。


「おかえり、今日は早いね。もう夕食を用意するかい?」

 僕を見つけた女将さんがいつもの調子で声をかけてくれる。


「ありがとうございます。えっと、今日は友人達と一緒に食べようと思うんで、1時間後位にみんな来るはずなんでテーブルを予約しても大丈夫ですか?」

「勿論。客を呼んでくれるならこっちとしても願ったりだよっ」

 実はちょっと心配だったけど、事後承諾なのにあっさり了承してくれた。女将さんは本当にいい人だ。


「えっと……それで、こっちはその……ダメなら良いんだけど……」

 しかしいい人に更にお願いするのは申し訳なく、どうしても言いにくくなってしまう。

「ん、何だい? 他にも何かあるのかい?」

「その……折角だから僕自身が作った料理でも迎えたいから、厨房の隅とか、調理器具とかって、貸して貰えないで……しょう……か?」

「へぇ……ユウは料理も出来たんだっけ?」


 物珍しそうに僕を凝視する女将さん。

 男で料理出来るってのは『セカンドアース』でもやっぱり珍しいんだろうか? あれ? でも厨房で料理作ってくれてるのは旦那さんだよね?

 料理人じゃない男が料理ってが珍しいのは現実と同じなのかな?


「えっと、一応『調理』スキルは持ってますっ!」

 しかしここで気後れしてちゃいけない。お世話になったアンクルさんの為に手作り料理でお持てなしせねばっ!!

「まぁいいけど……旦那の邪魔はしないようにね。エプロンも予備を使って良いよー」

「はいっ! ありがとうございますっ!」

「……しっかし最近の貴族のお嬢さんは冒険者紛いなお遊びだけじゃなくて料理まですんだねぇ……」


 厨房に行こうと後ろで女将さんが何か呟いていた。

 小さい声で良く聞こえなかったけど僕の事を言ってたのかな?


 手を洗ってから言われたエプロンを着用し、三角巾で髪をまとめる準備万端!

 意気揚々と厨房に入って旦那さんに挨拶と厨房の端を借りる事を伝えると、旦那さんは小さく手を挙げただけでそのまま料理を続けていた。


 そういえばこの宿に泊まって数日、まだ旦那さんの声を聞いた事ないなぁ。

 どんな声してるんだろうか……? ちょっと聞いてみたくもある。


 はっ! 気になるけど時間もないから急がなければっ!

 早速アイテムウィンドウから食材を取り出す。

 『熊肉』、『スライムゼラチン』、それに露天で買ったタマネギとジャガイモ、ニンジン、キュウリにトマト、卵にチーズ。あとパンと牛乳と赤ワイン。

 野菜とかは殆どNPCの露天で買った物だけど、閉店間際だったせいか、皆割引きしてくれたり、オマケを付けてくれたりと優しい人ばかりだった。

 アイテムウィンドウがなかったら、大荷物になって大変だったかもしれない。


 調味料は厨房の物を使って良いと確認したし、『セカンドアース』に来て現実で食べられる大抵の料理があったから、材料もあるだろうと思っていた予想は合っていた。


 これだけ材料があれば十分だ。父さんや母さんは勿論、マヤですら絶賛した僕の得意料理がこれで作れるっ!!




 まずは……あ、そか挽肉を作る所からだった。

 って言っても僕の筋力でこの熊肉のかたまりを挽肉にするのは大変だよなぁ……。

 現実なら挽肉を買ってくれば良いだけなのに、この辺はファンタジーの大変さか、仕方ない。


 熊肉を適当な大きさにカットして、それを1つづつ包丁で……トントントントントントン……


 ……トントントントントントン……


 ……トントントントントントン……


 ……トントントントントントン……


 ……トントントントントントン……


 ……トントントントントントン……………………




 ごめんなさい、ファンタジー舐めてました。挽肉作るだけでこんなに大変だとはっ!!恐るべしファンタジー!!

 このペースだと皆が来るまでに調理が間に合わないっ!?


 どうしよう……みんな残念がるだろうな……これも僕の筋力の無さが原因なのか……?

 うぅ……自分の無力さに泣けてくる……


 途方にくれていると、スッと何かが僕の前に置かれる。

 目を向けると旦那さんが僕を一瞥して去っていった。


 改めて置かれた物に目をやる。

 50cm程度の金属製の物体で横にハンドルと、逆側には無数の穴の開いたジョウロのような口がついている。そして上にはミキサーみたいな広がったスペース。


 ……ミキサー?


 って、これもしかして手動の肉挽き機っ!?

 慌てて残った肉を上部に少し入れて、ハンドルを回してみる。


 と、横からみるみる出てくる挽肉がっ!!

 い、いままでの苦労は一体……まさかこんなすばらしい物があったなんて……ファンタジー舐めてすみませんっ!!


「旦那さんっ! ありがとうございますっ!! 助かりましたっ!!」


 既に自分の調理に戻ってる旦那さんに向かって頭を下げた。

 頭を上げた時、一瞬目があったけど、やっぱり旦那さんからの返事はなかった。


 やばい、仕事一筋の寡黙な男というのも格好いい。やはり男たるもの背中で語るべきだ。ああいう大人の男いなりたいものだ。


 その後は順調で見事挽肉をやっつける事が出来た。

 ふっふっふ、熊肉如きが僕に刃向かうのが間違っているのだよ。身の程を弁えたまえ。




 その後も天才料理人ユウ様の快進撃は続く!

 タマネギのみじん切りも涙が止まらなかったけど、なんとか刻み終わらせた。

 この涙はさっきの悔し涙とは違って仕方ない涙だからノーカンだけどねっ!


 治癒(ヒール)で涙が止まらなかったのは計算外だったけど……。そういえばタマネギで泣くのって刺激物が目に入ってるからだっけ?

 なら毒物扱いなのかな? 状態異常を直すアーツは持ってないからなぁ……この手のゲームで状態異常って絶対あるだろうし、今後レベルが上がったら手に入るのかな?


 同様に蒸かしたジャガイモも難敵だった。熱くて指先が痛くて悲鳴を上げる所だった。

 おかしいなぁ……昔作った時はこんなに痛かった記憶はないんだけどなぁ……

 今の身体は肌がそんなに弱いんだろうか?

 聖獣姫の柔肌せいじゅうきのやわはだとやらは固有スキルらしくもっと仕事をするべきだろう。


 熱による痛みの方には治癒(ヒール)が有効だったのが救いだったけど。

 治癒(ヒール)しながら皮をむき続けるのはちょっと贅沢すぎるかとも思ったけど時間も惜しいし仕方ない。


 他の材料も下ごしらえを終わらせて、挽肉とタマネギ、卵と塩こしょう、牛乳と卵をボールに入れてこねこねこねこね。

 このもにゅもにゅ感は何度やっても面白い。

 このもにゅもにゅの為にこの料理を作っていると言っても過言ではない。


 ずっとこうしていたいけど、そうも言ってられないし良い感じに混ざってきたら一つ一つ形を整えていく。

 こっそり中央にチーズを仕込むのも忘れない。

 何も入ってない王道も良いけど、チーズインの喜びに勝るものはない。


 あ、でもチーズ嫌いな人が居るかもしれないから何個かチーズ抜きも作っておいて……と。


 両面をしっかり焼いて、付け合わせのジャガイモやニンジンと一緒に赤ワインとケチャップベースのソースをかけて、オーブンでじっくり中まで火を通せば完成だっ!!


 あとは残ったジャガイモとキュウリでポテトサラダを作って、残ったタマネギでオニオンスープを作って……と。

 あとは残った牛乳を煮詰めてスライムゼラチンで固めたミルクゼリーが固まれば完成かな。


 ちらりと時計を見ると約束の時間まであと10分。よし、完璧だ!




「へぇ、いっぱい作ったんだねぇ……これじゃウチの料理食べて貰えないか」

 いつの間にか厨房を覗きに来ていた女将さんが、作業台の上の僕の料理を見て言った。

「そ、そんな事ないですよっ!? 来る人も多いはずなので、旦那さんの料理もいっぱい注文させて貰いますっ!!」

 慌てて訂正する。厨房を借りた上に何も注文しないとか申し訳なさ過ぎる。

「それに素人料理だし、来る人もちゃんとした料理が食べたいと思いますから、よろしくお願いします」


 そう、僕の料理は真心担当。自分としてはちょっとは自信があるとはいえ、それでも素人料理。プロの鰺に叶う訳もない。『友達が作ってくれた』という事が大事なのだ。


「そんなもんかねぇ。アタシが男だったらこの料理を作って貰ったら涙を流して食べるけどねぇ……アンタもそうだろ?」

 今も厨房で忙しなく働いている旦那さんに声をかける女将さん。

 旦那さんは一瞬こっちを見て、こくりと頷いてから、又作業を再開した。

「ね?」

「あはは、ありがとうございます。嬉しいです。あ、いっぱい作ったんでもし良かったらあとでお二人も食べてください。その……素人料理で申し訳ないですけど……」

「そりゃありがたい! 楽しみにしてるよっ!」

 女将さんが本当に嬉しそうに応えてくれた。

 旦那さんの料理の腕は確かだし、それを毎日食べてる女将さんに楽しみにされちゃうとハードル高くなって辛いけど、それでもやっぱり嬉しいな。


「と、そうだった。ユウの連れって子がもう来てるから呼びに来たんだった」

 ぽんと手をあてて、女将さんが呟いた。

「っ! ありがとうございますっ……って、まだオーブンが、あぁ、どうしよう」


 待たせるのも悪いし、オーブンをそのまま離れる訳にも行かないし、熱々を食べて貰いたくてオーブンに入れるのが遅かったか?!


 その場でぐるぐる回る僕を見かねたのか女将さんが、

「オーブンは旦那が見ててあげるし、料理はユウの連れが揃ったら出してあげるから、アンタはもう連れの所に行っていいよ」

 と苦笑して言ってくれた。


「あ、ありがとうございますっ! 最初から最後まで迷惑かけてごめんなさいっ」

「あっはっは、こんなの迷惑でもなんでもないさ」

 奥にいる旦那さんが話を聞いていたのか、こっちを見て親指をぐっと立てていた。


 朗らかに笑う女将さんはやはりいい人だ。

 寡黙な旦那さんも格好いいし。こういう夫婦になれたら幸せなんだろうなぁ。



 と、せっかくオーブンを見て貰っているのに、それで皆を待たせちゃ申し訳ない。

 旦那さんに作った物を軽く説明して、お礼を言って、慌てて僕は厨房から飛び出した。





なぜ料理をしただけで終わってしまったんだろう……おかしいな……


あ、どうでもいいシステム上のお話。

19話でコテツさんが言ってた通り、熊肉に手をかざしてスキル発動してAP消費すればミンチは完成しますし、材料揃えて光らせれば料理になります。

便利ですねっ!

ユウは知りませんが

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