第31話 感謝の形。
アンクルさんに稽古を付けて貰って数日が経った。
今日の狩りを終えた帰り道、今日は僕のローブもそれほど汚れてはいない。
最初は2体のゴブリンでも四苦八苦していたのに、明日からは4体でも大丈夫かと言って貰えた。
マヤとの特訓の時はすぐレベルが上がる訳じゃないしよくわからなかったけど、少しづつ戦う相手の数が増えるのが、目に見えて自分が成長してるんだと実感出来る。
というか、やっぱり僕って近接戦闘も天才なんじゃなかろうか?
わずか数日でゴブリン3体を相手に一歩も引かない大立ち回り。多人数戦なんて最初は頭がパンクしちゃうかと思ったけど、実際やってみるとなんとか出来てしまった。
さすが僕だっ! 自分の才能が怖い!
アンクルさんも褒めてくれて、時々頭も撫でてくれた。
あ、いや、高校生男子としては男に頭を撫でられても嬉しくも何ともないが、しかし自分の才能と努力を認めて貰えるのは嬉しい。
防護印は壊される事は何度もあるけど、今の所致命傷っぽいものはない。
というかそんなの受けてたら痛みで戦えなくなるし、次の攻撃に対処できなくなるから、急所への一撃イコール戦闘終了なんだけど。
今はアンクルさんが手助けしてくれてるから大丈夫かもしれないけど、それじゃいけない。
最終的には防護印も破壊されずに勝利出来るようにならないといけないんだろうなぁ。
アンクルさんは相手がどれだけ増えても防護印なんか無くても全く掠りもしない訳だし。
アンクルさんといえば、残念イケメンだと思っていたアンクルさんが思いの外常識人で、時々話が通じない事を差し引いてもいい人だった。
街を歩きながらフードの中からこっそり覗き見るアンクルさんは黙っていればイケメンで、常識人で、結構気が利いてて、そして何より強い。
うん、むかついてきた。
同じ男なのに何処でこんなに差がつくんだろう……いやいや、アンクルさんは成人してるみたいだし、僕もこれからか!? これからのがんばり次第なのかっ!?
低く唸りながらもどうすれば格好いい大人の男性になれるのか観察してると、僕の視線に気付いたのかアンクルさんがこっちを見た。
「ユウ様、どうかされましたかな?」
「! あ! い、いえ、なんでもないしでしよ?」
「そうですか?何かお悩みなのかと」
アンクルさんが格好いいから嫉妬して、どうすれば格好いい大人になれるのか観察してたとは言えない。
同じ男として情けなすぎる。
「そ、そんな事はな……あ、そうだ」
なんとか誤魔化そうと頭を捻っていて、悩みといえばもう一つ考えていた事を思い出した。
「アンクルさんはこの後時間ありますか?」
「この後?」
もう辺りは夕闇が迫ってきている。今まで狩りに出ていたのだから又狩りに、という事はないだろうけど、ログアウトするのはありえる。
あれ? アンクルさんは大人みたいなのに何で昼間からゲームやってるんだろう?
「特に用事はありませんが……この後何かあるのですか?」
「あ、えっと……何か、って程ではないんだけど……いつも手伝って貰っているお礼に夕食でもご馳走させて貰えればと思って」
「是非っ!!」
「即答っ!?」
しかも何か感動するように震えてるし、今の会話の中にそんな感動するような話あったっけ?
男同士でご飯食べに行く位普通だと思うんだけどなぁ……。
もしかしてアンクルさんってぼっちだったんだろうか?
確かに少し変な所あるしなぁ……ぼっちな学生生活を送ってきて、友達にご飯に誘われるとか初めてだったのかな?
想像して少し怖くなってしまった……。そういう学生生活だったのならわからないでもない。
アンクルさんみたいな格好いい人でもぼっちだったりするんだなぁ……人間関係って難しい。
よーし、でもそういう事なら稽古を付けて貰ってるお礼に、僕ががんばらねばっ!!
「じゃあ汚れも落としたいし……2時間後? に僕の泊まってる宿屋に来てください。一階が酒場になってるんで、そこで食べましょう!」
「了解しました!アンクル・ウォルター、命に代えても必ず参上致しましょうっ!!」
「そんな危険な任務なのっ!?」
ぼっちだったなら仕方ないかもしれないけど、やはりアンクルさんのテンションは時々おかしい。
しかしそうと決まれば急がないといけない。
さっそく僕は露天通りを走って目的地へ向かう。まだ居ると良いんだけど……。
「コテツさんっ!!」
フードを取って声をかける。
「おう! ユウか。どうした?武器が壊れたりしたか?」
店じまいを始めて居たコテツさんに慌てて声をかける。ぎりぎり間に合った。
「ばっちりです! 今日もゴブリンをばったばったと……っと、じゃなかった。コテツさんはこの後用事あります? 夕食を一緒にどうかと思ったんだけど……」
「おう!いいぞっ。ちょっと待ってくれ。すぐ準備を……」
「あ、僕も準備があるので2時間後位に僕の宿屋の1Fの酒場に来てください。女将さんにも伝えておくんで」
「んっ、わかった。じゃあ後でな」
そういってコテツさんはがしがしと僕の頭を撫でてくれた。
うん、やっぱり撫でて貰うなら男より女の人に撫でて貰う方が良いな。いや、男としては撫でて貰う時点でどうなのかとは思うけど。
「あ、そだ。あとマヤも呼びたいんですけど……連絡して貰えないですか?」
「んぅ? んなんもん自分ですりゃいいだろ?」
「パーティ解散しちゃったんで、連絡方法が無くなってて」
そう言うとコテツさんは頭の上にさらにハテナを出しながら、
「直接伝言メッセージを送ればいいじゃん」
「?どうやって……?」
「……ユウって説明書とか読まない質か」
残念な子を見るような目でコテツさんに見られてしまった。
そ、そりゃアバター作成時はあんまり説明書読まなかったけど、今は説明書が読めないんだから仕方ないじゃないかっ。
どうやらパーティやクランに入って無くても伝言出来るメールみたいな機能があったらしい。
言われた通りにシステムから操作すると、メール作成画面まんまなウィンドウが表示された。
『今晩、食事会をしようと思う。初日にパーティーした酒場だから、時間の都合が良ければマヤも来て欲しい。 ユウより。』
半透明のキーボードを操作して短文を作って送信する。
ふぅ……『セカンドアース』で久々のキーボード入力でなんだか疲れちゃった。
と、いけない、僕にはまだやらなきゃいけない事がある!
「コテツさん、ありがとうございます! 無事伝言出来ましたっ!! 他にも何人か人を呼びますけど、コテツさんも是非楽しんでくださいねっ!!
あ、そだ。コテツさんも良かったらクランの方とか呼んでも構わないんで、良かったらどうぞっ!」
「お、おう。じゃ、じゃあ一応声かけとくよ」
「はいっ!!」
コテツさんは僕のテンションに少し気圧された感じだったけど、人は多い程良い筈だ。
コテツさんと別れた僕はそのまま露天を回り、必要なアイテムを買いそろえて、最後に冒険者ギルドでソニアさんにも声をかけた。
ソニアさんも二つ返事で了承してくれた。
タニアちゃんも一緒でも大丈夫らしい。
ふっふっふ、これで前準備は整った。
ぼっちなアンクルさんの為に僕の知り合いを紹介して、友達増やしてあげよう!
せっかくゲームしてるなら誰だって友達は多い方が楽しいしねっ!!
宿屋へと走る道、僕は誰に見せるでもなく、拳を突き上げた。
アンクルさんはクランリーダーですしぼっちじゃないです。
あ、でもユウにパーティに誘われて騎士団員の嫉妬に晒されますから今後はわかりませんね。




