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ボクだけがデスゲーム!?  作者: ba
第二章 一人ぼっちの冒険者
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第30話 薔薇の騎士語り。

 必死に3体のゴブリンを相手に立ち回るユウ様。

 あれから数日、スキルを取得している訳でもないのに、その動きは見事な成長ぶりだった。


 やはり私の目に狂いは無かったな。


 『セカンドアース』に来て本当に良かったと私は心の中でつぶやいた。




 そもそも私、アンクル・ウォルターがネットゲームをする理由は憧れの自分への変身願望だ。


 それは勿論『強く、優しく、格好いい、騎士』である。


 子供の頃は憧れで何の問題もなかった。しかし年齢を重ねるにつれてそれは馬鹿にされるようになった。だから誰にも言わないようになった。

 現代社会で騎士を目指すというのが笑われるのは仕方ないと私自身思うから仕方ない。

 そう思いつつ、その手のラノベや漫画を読み漁り、妄想する日々の中で私は大人になった。


 そしてゲームの中でなら、私の子供の頃からの夢が叶うかもしれないと知った。

 それがネットゲームだ。


 好きな職業に就き、好きな事が出来る。


 そんな謳い文句のゲームが数多く販売されていた。

 勿論普通のゲームは色々遊んでいたが、VRマシンは学生が買うには中々高価で手が出なかった。

 最初から遊べないならと情報を遮断していたが、大人になり、お金の余裕が出来るとそれこそが私が追い求めていた物なんだと知ったのだ。


 しかし早速買ったゲームの中で私は絶望を味わった。

 

 ゲームの中ですら、私は異端だったのだ。

 どうやら一般的にMMOでも、ロールプレイや成り切りプレイといった物は歓迎されず、むしろ笑われるケースが多いようだった。

 大半のプレイヤーはレベル上げやアイテム収集、又は自陣営の勝利や勝率が第一目的である為、ロールプレイという行為はその足かせになったり、単純に接するのが面倒だ、という事になるらしい。


 せっかく自分の理想の姿や能力を得る事が出来るVRマシンのゲーム。その中でも私の居場所はないのか……と、少なからず落胆をした。

 そんな時だ、私が『セカンドアース』に出会ったのは。


 『今までにないリアルな世界』『そこで生きるもう一人の自分』


 何度も期待しては落胆しながら、それでもそういう触れ込みに新しいゲームを手にとってしまう。

 そして今回も自分の思い描く騎士像を夢見てアバターを作成し、ログインした。




 そこは今までのゲームとは全く違っていた。


 NPCがリアルなのだ。それは見た目も勿論だが、そのリアクションが。街に住む一人一人がちゃんと人間が操作しているんじゃないかと思う位だった。

 そしてそのNPC達は私の夢を笑ったりはしなかったのだ。

 プレイヤーの中には当然いつもの反応を返す人も多かったが、セカンドアースのNPCと接し、生活する事を強いられるこのゲームではむしろロールプレイ的な行動をする方が自然であった。


 私はついに自分が求めていたゲームに巡り会えたのだ。


 さらに幸運は続く。


 騎士を目指す私に絶対的に必要な物。それは忠誠を誓うべき主だ。

 その主にもこの世界で巡り会う事が出来たのだ。


 その方の名前は『ユウ』様。


 足下まで伸びる美しい銀髪、純白のローブと、そのローブに劣らぬ程白く透き通った肌。好奇心が爆発している青い瞳、ころころと変わる表情。

 その全身が目映いばかりのオーラに包まれているように感じた。


 自分が忠誠を誓う主はこの方をおいて他には居ない。

 天啓のようにそう感じ、そのまま行動に移していた。


 結果、残念ながら既にユウ様の側仕えをしていた猪武者に邪魔をされてしまった。

 が、あれだけのオーラを放つ方に護衛が居ても当然かと己の修行不足を恥じてより強くなるべく研鑽を積もうと考えた。




 が、それは浅はかだったとすぐに思い知らされた。

 ユウ様との運命的な出会いの数日後、ユウ様に危害を加えようとした不埒者の事が掲示板に書き込まれていたのだ。


 やはり猪武者だけに任せる等というのは間違っていたのだ。


 ならば私は私に出来る事をしなければならない。

 一人で出来る事など限られている。まず仲間を集めなければならない。


 幸か不幸か掲示板でユウ様を守ろうという気運自体は高まっていた。

 だからそこで私は「白き薔薇の巫女姫を守る為、私に力を貸してくれないか?」と声をあげた。


 幾人もの同士が手を挙げてくれた。そして私の騎士の理想を笑わずに受け入れてくれる者も数多く居た。

 『セカンドアース』でのロールプレイの扱いが他に比べて優しい事はわかっていたが、それでもこれ程暖かく迎えられた事が嬉しくて正直涙が出た。


 言い出した者の努めでもあり、応えてくれた皆の為にも、その日私はクランを立ち上げ、そのリーダーとなった。


 名を『白薔薇騎士団』


 白き薔薇の御子姫を守る為に生まれたクランであり、団員はこっそり巫女姫を見守り、いざという時助けとなる為のクランである。




 そうして影ながらユウ様を見守りSS(スクリーンショット)を撮影する日々は過ぎ、掲示板を見て巫女姫を知ったプレイヤーがユウ様をクランに勧誘する程度の事はあったものの、悪意あるプレイヤーは接触する前に我々騎士団が排除する事により、平和を維持する事は出来た。


 団員募集に掲示板を利用した事、その活動内容上どうしても巫女姫の側に我々が居る事、で当然ながら猪武者は気付いたようだが特に何も言ってこなかった。

 こちらとしても無闇な干渉をしている訳ではないのだから当然かもしれないが。


 そうして騎士団としての日常が落ち着いてきた頃、突然メッセージウィンドウが表示され、クランやフレンドではない者からのメッセージが送られてきた。


 送信者はあの猪武者だった。


 騎士団員から今日は猪武者とユウ様が別行動を取っているとの報告は受けていたが、一体何事かと内容に目を通す。


 その内容は驚くべきものだった。

 何度文面を見返しても内容は同じだった。


――――――――――――――――――――――――――――――

 ・ユウをいかなる状況においても守り、絶対に殺さない事。

 ・その上でユウの希望を尊重し、無理強いをしない事。 

 ・ユウに白薔薇騎士団について言わない事。

 ・ユウに私との関係について言わない事。

 ・以上を守る条件でユウの護衛を白薔薇騎士団に依頼する。

――――――――――――――――――――――――――――――


 あの猪武者がユウ様の安全を暫く我ら白薔薇騎士団に預けるというのだ。

 一体どんな心境の変化があったのか?


 いや、あやつの事などどうでもいい。PVP(プレイヤーバトル)に基づいて接触は避けていたが、その本人からの要請なのだからこれで何の憂いもない。


 すぐに今日の担当の騎士団員にユウ様の現在地を確認すると、もう街に戻ってきているとの事だった。

 ならば明日からか。我が胸に熱く溢れる忠誠心を感じた。




 昨晩遅くまで白薔薇騎士団全員で話し合った結果、猪武者の条件をクリアする為にも、僅かながら面識がある私が担当をさせて貰う事となった。

 騎士団員達には本当に申し訳ないが、これだけは譲れない。

 むしろその説得に一晩かかった。


 そして翌日、私は二度目の運命の出会いを果たし、無事ユウ様とご一緒させて頂けるように自然な会話で誘導する事に成功した。

 やはり面識がある事が功を奏したのだ。

 「女性の方が安心して頂ける」という女性団員の言葉もあったが、私は正しかったのだ!


 又、ユウ様のステータスを確認して、その性別表記が男性である事も少なからず驚いた。

 『セカンドアース』では基本的に性別を偽る事は出来ない筈だからである。

 だが、その固有スキルはどう見ても女性の物であり、固有スキルが現実の肉体や精神の状態をスキャンして選ばれているという掲示板やWIKIでの考察を考えると、性別表記の方が疑わしいと考えるべきだろうが。


 もっとも、ユウ様が「自分は男だ」と主張されているのだから、それ以上の詮索はマナー違反であるし、むしろ『男性だ』という事にしておけば女性団員達への言い訳もしやすくなる。


 しかし普段から監視していて不思議だったが、ユウ様はその細腕で近接系戦闘を望まれていたとは。侍祭(アコライト)である以上、それは重要な事ではないと思うが。

 それでも主が望まれた事であり、何よりあの熱い瞳を見てしまっては応えるしかない。

 ユウ様自身仰っていたように、それがユウ様の生存率を高める結果にもなる。




 そう思いつつ、ユウ様に目を向ける。

 2体のゴブリンなら危なげなく、3体のゴブリンでもちゃんと対応出来ているように見える。この分なら4体でも問題ないのではないだろうか?


 ここまでの動きをスキルも無しに行えるプレイヤーが果たして何人いるだろうか?

 白薔薇騎士団の団員達でも難しいやもしれない。


 残念ながらスキルと能力値の補助がない為決定力に欠ける故に、実際にPVP(プレイヤーバトル)を行っても大抵のプレイヤーに勝利する事は難しいだろうが、ユウ様のアバター操作能力自体はおそらくかなり高レベルに達しているに違いない。


 むしろこれだけの動きをしていて何故待機スキルが発生しないのかが不思議でもあるが。


 時折気になった事を声かけすると、ユウ様はゴブリンから目線を外さないまま、元気に、


「はいっ!!」


 と声を返してくれる。

 その声も愛らしい。


 直後に藪の中で監視している団員から『団長ずるい』とクラン専用メッセージが飛んでくるがそんな事は些末な事だ。



 『セカンドアース』に来て本当に良かった。

 我が主の成長を見守りながら、「騎士ではなく執事プレイも悪くないかもしれない」と私は思い始めていた。




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