第28話 育成方針。
「だから僕は男だって言ってるだろっ!?」
「はっはっは、了解したとさっきから言っているじゃないですか。姫……あ、いや、ユウ様がそう望むのであれば、そう振る舞うのも騎士の努めっ!!」
さっきから何度このやりとりを繰り返しただろうか?
どうもわかって貰ってない気がするんだけど、自分がロールプレイしてる人は人もロールプレイしてると思ってしまうんだろうか?
「そんな言うなら裸を見れば一目瞭然だろ? 男に見られる趣味はないけど、確認すれば……」
「いけませんぞユウ様っ!! うら若き女性が異性に裸体を晒す等……」
「だ・か・ら僕は男だぁぁぁっ!!」
脱ごうとしたローブを上から押さえつけられて、自由になる口から僕の絶叫は森に響いた。
「まぁそんな事はどうでも良いでしょう、私も時間が無限にある訳ではないのです。話を進めたいのですが宜しいかな?」
僕の性別は『そんな事』ではないと思うけど、時間がないアンクルさんと無駄な口論を続けるのも申し訳ない。
不承不承頷くと、アンクルさんからパーティ加入要請のウィンドウが送られて来た。
「あ、えっと、すみません! パーティには、入れません」
「ん?……それは何故?パーティに入るデメリットはないと思いますが」
怪訝そうに僕を見るアンクルさん。
僕もそう思う。けど……
「他の人とパーティを組まないと約束したので、その……すみません」
「ふむ……そんな事まで縛りプレイを……あの猪武者め……」
何やら小声で呟くアンクルさん。マヤの事を何か知ってるのかな?
「……そういう事でしたら仕方ない。ユウ様のお気持ちを尊重しましょう。ですが、今後の方針を決定する為、ユウ様のステータス確認の為に一時的にパーティ加入をお願いします」
と言ってアンクルさんは僕に頭を下げた。
「わっ、そのっ、こっちこそ、すみませんっ、大丈夫ですからっ!」
無理を言ってるのは僕の方なのに、申し訳なくなる。
それ位ならマヤも許してくれると思うし、慌てて加入要請に許可を出す。
了承の旨のメッセージと共にパーティウィンドウが出現した。
「では失礼して、ステータスを拝見します」
顎に手を当て、じっくりと僕のステータスを眺めているであろうアンクルさん。
なんだか恥ずかしい部分を見られてるような変な気分になってくる。
「えっと……ぼ、僕もアンクルさんのステータス見て良いかな?」
「ん?……あぁ、どうぞ、自由にご覧ください」
黙って待っているのも手持ち無沙汰だから、僕もパーティウィンドウからアンクルさんのステータスを呼び出す。
そう言えば人のステータスを見るのって二人目か。
操作と同時に目の間に現れる新たなウィンドウに目をやる。
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アンクル・ウォルター 人族/男 22歳 戦士Lv15
HP252/AP196
筋力:7(+5)
体力:8(+5)
速力:24(+5+10)
器用:13(0)
知力:10(0)
魔力:5(0)
<通常スキル>
・剣術(中級)・速力強化(初級)・回避(中級)・乗馬(初級)・体術(初級)
・造花製造(初級)・礼儀作法
<固有スキル>
・先見
<装備>
・Lv11フランベルジュ
・Lv5チェインメイル
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やっぱりレベルが高かった。マヤより高い。
でも能力値はあんまり高くない……というか、速力に特化してるのかな?それであの凄い剣捌きなのかぁ……。
あ、アンクルさんも固有スキル持ってるんだなぁ……『先見』ってどんなスキルなんだろ……。
ん?固有スキル?
って、よく考えたら僕の固有スキルも見られてるっ!?
固有スキルは自分で選んで取得出来る物じゃないとはいえ、それでも狙ったようなあのラインナップを見られるのは高校生男子としてあまり嬉しい事じゃない……。
いや、それ以前に通常スキルだって調理に歌唱とか何考えてんだと思われても仕方ない。
アンクルさんも造花とか礼儀作法とかよくわからないの取ってるけど……。
おそるおそるアンクルさんの様子を伺う。マヤの時と違って表情からは何も読み取れない。
それが逆に怖い……。
「ふむ、なるほど……。」
たっぷり5分程は経っただろうか?パーティ解散メッセージと共に、アンクルさんが口を開いた。
「やはりユウ様は能力値的にあまり物理戦闘に向いてはいないようですな」
「うっ……おっしゃる通りデス……」
そりゃ筋力体力速力器用1じゃなぁ……。
普通に作ったらまずありえない数値だろうし。
「しかし逆にこの能力値、そして戦闘系スキルも無い状態でよくあれだけの動きをなさっていた。正直感服しました」
そう言ってにっこり微笑むアンクルさん。
あれ?僕もしかして今褒められた?
「あ、ありがとうございます」
「いやいや、ユウ様の鍛錬の賜。当然の事を言ったまでです。能力値やスキル、アーツに頼った戦い方をするプレイヤーの多い中、ユウ様のアバター操作熟練度はトップクラスやもしれません。
もしユウ様が戦闘系の能力値とスキルをお持ちだったら、私等足下にも及ばぬ前衛職になっていたかもしれませんな」
「そそそそ、そんな事ないでしゅよ!? アンクルさん凄く強かったじゃないでしゅかっ!?」
物凄い強いアンクルさんにそこまで手放しで褒められてしまうなんてっ!
それも僕がずっと憧れていた前衛職としてトップクラスになれていたかも、とかそんな夢のような事を言ってくれるなんてっ! 信じていいのかな!? 良いんだよねっ?!
アンクルさんって実はいい人っ!?
「いや、私も戦士としてはそこまで優秀ではありませんよ。少し速力が早いだけで筋力も体力も足りない。それ故に先日はあの猪武者に敗れた訳ですしね」
「あ、えっと……で、でも、終始マヤを圧倒してたし、アンクルさんも凄かったですよ?」
「ありがとうございます。ユウ様の目から見てそう感じて頂けたなら嬉しいですな」
と微笑むアンクルさん。
ごめんなさい、そう言ったけど、あの時ソニアさんと話しててPVPをちゃんとは見てませんでした。
「ともかく……体力と筋力に乏しいユウ様は猪武者のように攻撃を受ける戦い方は向きません。なので私のように全ての攻撃を回避し、手数で攻める戦い方が合っていると思いますが……ユウ様は私よりも速力に劣る為、私以上にギリギリの戦いが求められる事となります」
そう言ってアンクルさんは僕をまっすぐ見据えた。
「それでも、ユウ様はその戦い方を求められますか?支援職にそこまで求める人は居ないと思いますよ?」
そんなの、答えなんて決まってる。
「他の誰かじゃなくて、僕が求めてるんです。アンクルさん、お願いします、その戦い方を教えてください!!」
目の前に方法があるってわかって、それを選ばないなんて男じゃない!
こんな燃える展開を求めない訳ないじゃないかっ!
「なるほど、『頑固で考えを曲げない』と、了解しました。不肖アンクル・ウォルター、全霊を以て姫に必要な技術を伝授致しましょうっ!!」
「だ・か・ら、姫じゃねぇぇぇ!!」
「はっはっは、あの固有スキル群を持っていて男性という方がおかしな話でしょう」
「固有スキルに性別は関係ないだろっ! ってかさっきステータス見たなら『人族/男』って書いてあったろ!?」
「ユウ様、そんな言葉遣いは良くないですぞ? それに固有スキル取得がリアル性別や性格等に影響を受けているというのは掲示板では一般的な見解になっている筈ですよ?」
「マジで!?」
ってアンクルさんは僕がリアル女子で性別偽ってゲームしてると思ってた!?
『セカンドアース』って性別詐称て無理なんじゃなかったっけ!?
「いや、僕はリアルでも健全な高校生男子だよっ!?」
「はっはっは」
「話を聞けぇぇぇぇ!!!!」
普段はあんなにいい人のアンクルさんが、なんで性別の話になるとこんなに話が通じないんだろう……
まさかこれも僕の固有スキルの影響じゃ……ないよなぁ……?
思う所があって、アンクルのステータスを少し変更。




